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突撃!隣の王太子夫妻

アヤナは非常に焦っていた。

なぜなら、思うように進まないからだ。本来であればアヤナは転倒し、そのまま医務室まで運ばれるはずだった。

しかし何がどうなったのか偶然後ろにいとユーアリティに思い切り突撃することによって転倒が免れたのだ。

そのせいでアヤナは通常通り明日帰国することになっている。おまけにファルシアとの会話はほとんど0と言っていいほどに少なかった。


「明日はルデンを観光してから帰ろうか」


のほほんと言うガレットに冗談じゃないとアヤナは思った。元々アヤナはガレットがそこまで好きではなかった。ただ王子という肩書きに惚れただけだ。

確かに容姿はいいほうだろう。性格だってアヤナには甘い。アヤナがそうだと言えばそれが是だと返してくれる。アヤナにとって何一つ申し分なかった。しかしアヤナはガレットがあまり好きではなかった。それはなぜか。ただ単純に好みの問題だ。

美丈夫よりも美青年の方がアヤナのタイプだった。

あけすけに言うと、アヤナはガレットよりファルシアの方が好きだったのだ。前も、そして今も。

なのにこんな簡単に帰国?冗談じゃない。フラグを折ってたまるか。このまま育ててゆくゆくはアヤナの恋人にするのだからここで帰国するわけにはいかない。

アヤナはちらりとガレットを見て、強請るように眉尻を下げた。男どもはこの表情に弱いと独自の研究から導き出した表情だった。

正直そんな努力をするのなら少しは国事にも目を向けるべきだろう。だけどそんなことは、アヤナの周りでは誰も言わなかった。誰もが皆アヤナのイエスマンなのである。ビヴォアールにおいてアヤナは絶対の存在になりつつある。貴族を従え、取り巻きにする。彼女の発言権はかなり高い。


「ガレット…………私まだ帰りたくない」


「うん?」


「ファルシア王子と…………ユ、ユー………ユーティ様と親交を深めたいの」


ファルシアの名前は覚えていたがユーアリティの名前はすっかり忘れていたアヤナは何となくそれっぽい名前を口にした。しかし正直ガレットもユーアリティの名前は覚えていなかったのでアヤナの発言に気をとめなかった。それよりもアヤナの要望の方が大事だ。


「ルデンに?うーん………ファルシア王子に掛け合ってみようか」


先程ファルシアに苦言を呈されたことはすっかり忘れているらしい。思案顔で答えるガレットにアヤナは微笑んだ。アヤナが頼んで叶えられなかったことは何一つない。そう、何一つ。


だからこそアヤナはこの希望が通ると信じて疑わなかったし、ガレットもできる限りアヤナの望むとおりにしようと思った。


二人は早急に王太子夫妻に取次を頼んだ。先程茶会がお開きになったばかりだというのもやはり忘れてしまっているらしい。



×××



「ビヴォアール王太子夫妻が面会を希望されています」


聞こえた言葉に思わず耳を疑った。


(え、さっき別れたばかりじゃない………?)


もしかして私はタイムループしてるのだろうか。

さっきのは夢で、今からがお茶会の本番?……なんてね。

そんなことを思わず考えてしまうほどビヴォアール王太子夫妻の申し出はありえないものだ。

王侯貴族は位が高くなればなるほど、会うのに礼儀が必要になる。不要なのはよほど親しい間柄のみとなるが、それにしたって周りに示しがつかないという理由でだいたいの人が事前のアポイントメントというのを取るようにしている。


え、ええ〜?

ビヴォアールはまた別だと言うの?

国が違えばしきたりも変わってくると言うし?


ここは王太子夫妻の部屋であり、私と夫は今部屋についたばかりだ。


(殿下はどうなさなるのかしら?)


そう思って彼の回答を待っていると、彼は短く侍従に答えた。


「いいよ、通して。ただし通すのはこの部屋に、ね」


「えっ、このお部屋に………でございますか?」


「ああ。また貴賓室に行くのは面倒だし、彼らも僕らを訪ねたいと言ったんだろう?なら通していいよ」


軽く言うと夫は上着を脱いで椅子の背もたれにかけた。先程とは違い随分ラフな格好だ。

私はどうするべきか迷ったものの、夫がソファに座ったので私もそれにならい、人一人分開けた距離に腰を下ろした。

ちらりと夫を見る。彼は相変わらず何を考えているのか読めない目をしていた。冷たさを感じる、ガラスのような瞳。

視線は合わなかったが、私が見たことに気づいたのだろう。不意に夫が私を見た。


「………ビヴォアールはもうダメかもね」


詰めていた息を吐くように夫が言う。


(えっ!いや確かに私もそう思ったけど!でも……)


かの国民を思うともう少し情状酌量を……。

そう思ったが、施政者であるのならそう言った情は捨てるべきなのかもしれない。


その時、侍従の声が聞こえた。


「ビヴォアール王太子夫妻です」


さっきぶりではあるが、挨拶しなければ。

腰を上げかけるが、殿下に制された。


彼はソファにくつろいだ状態で二人を迎えた。

扉が開き、先程の二人が姿を現す。


(何しに来たのよ〜もう。用があるのならさっき言ってくれればよかったのに)




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