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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
40/55

《スクリーミングベイビィ》

「そーれいくわよー!」


サングラスを掛けた海パンの巨漢、全身入れ墨のムキムキマッチョ、ゴリゴリゴリラの男――園長――が野太いオネエ言葉と共に幼い子供を高く放り投げる。


投げられた子供は心配になるほどの高さまで飛び上がり、キャーと楽しそうな声を上げて、パシャリと水に落ちた。



太陽は高く、うだるように暑い夏真っ盛り。


遠くまで続く海岸線は太陽を反射する白い砂浜、広大な海が波打ち際で白いあぶくを飽きること無く作っては消えていく。


砂浜では子供達が走り回り、海に飛び込み、戻って、城を作ったりしていた。


その中には先の事件で親を失い、新たに光輪会に来た子供達も混ざっている。


リュウコは仁王立ちし、プロレスの衣装なんじゃないの?と疑問を持つような派手なセパレートの水着で肉体美を見せつけながらガハガハとおっさんのような笑い声を上げている。


そこにはケンゴもおり、七三分けで度の入ったサングラスとアロハシャツに黒く輝くブーメランパンツと、なんとも妙な出で立ちで砂で重力の存在を疑うような龍の像を作り上げ子供達の視線を釘付けにしていた。



「ねえ、アユム」


「なんだよ」


ビーチパラソルの下で体育座りをしながらミツキはアユムに話かけてきた――二人共海パン姿だ。


「僕、海嫌いなんだけど…」


「まあ、お前はそうだよな…俺も泳げねえから好きじゃねえな…」


「……」


ミツキとアユムは無言になった。


ミツキに関してはトラウマの対象という理由はあるが、そもそもの所二人共カナヅチなのだ。


アユムは鍛えすぎて水に浮かない上に片足だけでバランスが取れず。


ミツキは【魔法】が水中だと環境がうるさすぎてパニックになるのだ。




どこか哀愁の漂う二人は、浜辺ではしゃぐ光輪会の面々を眺めていた――ケンゴはいつのまにか付いてきていた。




事の発端はリュウコの思いつきから始まる。


全身ミイラ男から解放され退院したミツキとアユムが光輪会に戻ってくるとリュウコがその姿を見て呟いた。


「青っ白えな…情けねえ、モヤシ、雑魚…」


入院していた相手への辛辣な罵倒に二人は引きつった笑みを浮かべた。


同時にこういう時のリュウコの異次元の思考を知っていた二人はそそくさと逃げようとした。


が、そのチャレンジはリュウコの一言で即座に終了した。


「テメーら!海行くぞ!肌焼け!行かねえなら台所で焼いてやる!」


リュウコは素早く二人を捕まえると食堂に集まっていた光輪会の面々に言い放った。


「明日全員で海いくぞテメー等!園長!いいよな!」


園長はそんなリュウコの言葉に「いいわねー」とくねくねして答えた――腹に2発も銃弾を受け昏睡していた筈が完全にその傷は塞がっていた。人間離れしている。



翌日、リュウコはどこから調達してきたのかオンボロのバスを用意して皆を詰め込み海へと出発した。


リュウコはこんなこともあろうかと大型免許をいつの間にか取っていたらしい――アホだとアユムは思った。



そうやって、アユム達は海にやってきた。





「まぁ、取り敢えず平和だから、いいのかね…」


「まぁ、いいんじゃない」


アユムとミツキ、カナヅチ組は照りつける太陽と一面の海を恨めしそうに眺める。


嫌なわけではない、寧ろこの光景は好きな部類に入る。


だが、楽しそうな光景をぶら下げられて自分達はその海に入る事すらできないのは遊びたい盛りの二人には結構堪えていた。



「そういやよ」


「なに?」


アユムはミツキに聞き忘れていた事を聞いた。


「あの時リーベがどうとか言いかけてたのなんだったんだよ」


「あー…」


ミツキはそれに曖昧な顔をして答えた。


「忘れた」


「んだよそれ…」


アユムはミツキが嘘をついている事には気付いていたが、特に詮索する気はなかった。


ミツキの秘密主義は今に始まった事ではないからだ。



無言の時間が過ぎる、こういう時、話し始めるのはいつもミツキだったが、その時は違った。


影がアユムにかかった。


「ん、おっ、リーベ」


「……」



陽に輝く長く白い髪、紫のメッシュが彼女の神秘性の良いアクセントになっている。


水着はセパレートの白いフリルをあしらった逸品――リュウコが勝手に用意していたらしい。


そして強い日差しに負けない程の輝きを放つ空の青を閉じ込めたかのような美しい瞳。


リーベがアユム達の前にぽけっと立っていた。


「アユム」


シャボン玉が割れるような声でリーベがアユムを呼んだ。


このところ、リーベは多少話すようになってきた。


内容は、アユム、だとか、ミツキ、だとか、リュウコ、だとか名前を言ったり、ごはん、だとか、おふろ、だとかの単語程度だが、無口だった頃に比べれば進化ともいえる状況だ。


普段アユムの後ろをついて回っている為、アユム、の発声頻度が半分以上を占める事をアユム本人は知らないが。




リーベはアユムとミツキをぼーっと見ている。



アユムはリーベのこういった感情表現に慣れて来ていた。


(妹分の気持ちくらいしっかりわかんねえとな)


アユムは腰を上げ、右手でリーベの左手を掴んだ。


「ん、じゃあ俺も行くか…浜辺でパシャパシャくらいでも楽しめるだろ」


「……」


リーベは無言でアユムを見てわずかに身じろぎをした。


「ああ、なるほどね、おい、ミツキ」


アユムは空いていた左手を未だ座っているミツキに差し出した。


「どういうこと…」


ミツキは分かっているはずだが白を切ろうとした。


「うるせーな、リーベがミツキも来いって言ってんだから付いてこいよ、それに海まで来て青白かったらマジでリュウコ姐さんにグリルで焼かれんぞ」


ミツキは露骨に嫌そうな顔をしながら、はいはい、と返答しアユムの手を掴み立ち上がった。


リーベがぱたぱたと小さな駆け足で波打ち際に向かっていくのに引かれるように、アユムとミツキは着いていった。



視線の先にははしゃぎまわり笑う子供達の中にビーチボールを抱え邪悪な笑みを浮かべたリュウコとストレッチをする園長の姿。


最悪に嫌な予感がしたが、アユムは今はそれを考えないようにした。



現実逃避代わりに、アユムは学校で習ったことを思い返した。


退屈でうとうとするような――無論分かっているわけではなく、分からなくて退屈という意味だ――英語の授業。


先生が単語の意味を説明していた。


scream――スクリーム


意味は、苦痛や恐怖の叫び声、絶叫、悲鳴。


だが、先生はこう続けた。


言葉には一つの意味だけではなく色々な側面があると。


続けて先生はその意味を言った。


甲高い子供の笑い声、笑い転げる声。


アユムはすこしその話が面白くて、目が醒めてしまっていた。




アユムやミツキやリーベは抗う赤子達スクリーミングベイビィと呼ばれている。


狂った世界に虐げられ、地獄を否定し誇大妄想を懐き、【魔法】を見出した子供達。



勝手に仰々しく酷い名前をつけたものだとアユムはその名称が正直気に入っていない。



英語的に正しいかなんてわからないが、アユムはその名前に反抗し心の中でこう訳す事にした。




笑い合う子供達スクリーミングベイビィ




少なくとも、今この時のアユム達はそうなのだから、嘘ではない筈だ。




『スクリーミングベイビィ 一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように』 (了)

こちらで一先ず完結となります。

ご愛読ありがとうございました。

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