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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
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少女《サクリファイス》

夜、夕飯を終えたアユムは施設を抜け出し街に繰り出す。


街には雨が降っていた。


周囲には誰も居ない、昨日の騒ぎもあり夜の外出は控えているようだ。


生身の右足と義足の左足を交互に前に出し自身の正常性を確かめる。


「大丈夫だ、大丈夫」


言い聞かせているわけではない、事実の確認だ。


以前ミツキに強がりを言って、敵の目の前で左足が折れかなり迷惑をかけた。

当時は警戒をしていなかったのか拳銃も持ってない半グレ連中だったので問題なかったが今の状況では命に関わるだろう。


「つってもな、治安最悪って言っても連日こんなこと見つかるわけが…」


音がした、最近では耳慣れた破裂音、小さかったが遠くの路地裏、人通りはないとはいえこんな街中で。


「……!」


左足に【力】を込める、幻覚、アユムには見えた、遠くへ、そこへ至る自分の姿が。


気づけば背の低いビルの中程の壁面に左足がかかっていた。素早く壁面の保持を右足に入れ替え、そのままの勢いで向かいのビルの屋上へ左足をかけるイメージ。


誰にも邪魔されず、そこに至る、そんな幻覚をアユムは願う。


跳んだ、屋上に到着した。


「クソ、またじゃねえか、クソ」


悪態を付きながら赤い覆面を被り服の中から金属パイプを取り出す。


屋上を飛び石のように跳ねるイメージ、減速は考慮しない。


内蔵に負荷がかかり気分が悪くなるのも慣れたものだ。


大きく飛び目的の路地の上に身を躍らせる。



上から落ちる過程で状況を確認する。


そこに居たのはコートを着た太った男、何かに覆いかぶさっている。

そして何かは少女に見えた。


「死、ね!」


上空から容赦せずに鉄パイプを男の後頭部に叩きつける。


男の手から何かが地面に落ちる。


ヤバい音がした。死んだかもしれない、頭に血が登っていた。



しかし、そうはならなかった。


男は少し頭をゆらし、即座に振り返った。



血走った眼、涎、焦点は合ってない、明らかに正気ではない。


頭から血を流しながら男は喚いた、言葉になっていない。

だがその瞬間に何をしたかはわかった。


アユムの体が紙のように宙を舞う、男は触れても居ない、それなのに滅茶苦茶な力でぶん殴られたかのように体が押し出された。



魔法使い(メガロマニアックス)だ。



アユムは宙を舞いながら必死に頭を巡らせる、兎に角このまま地面に叩きつけられるのはまずい。


壁面、できればあの男の背後、左足を伸ばす。


(跳べっ!)


願いと共に、到達する。


男は目の前からアユムの姿が消えたことで動きを止めた。


殺し慣れている魔法使い(メガロマニアックス)じゃないとアユムは判断した。やるなら今だ。


今度は左足を使う、至る場所は男の頭頂部。


再び跳ぶ、全速力で安全靴の踵が男の頭部を割る。


「今度こそ、死ね!」


男の体がぐらつく、アユムは落ちながら右腕の鉄パイプを男の首に対して全力で振るった。


ごきりと音がして、体から力が抜けていくのが見て取れた。


アユムはそのまま受け身もとらずに地面に落ちる。


痛みが全身に走る、打ち身の外傷だけではない、無理な【魔法】の連続行使で内蔵も傷ついている。


「…マジで立ち上がってくんなよ。」


こういう時に立ち上がられるのが一番キツい、倒れ伏す男への警戒を解かずにアユムは少女の方を見る。


「おい、お前大丈夫…か」


少女は最初の場所から動いていなかった。



灰にくすんだ長くてボサボサの白い髪、紫色のメッシュが入っている。


不健康なほど白い肌、日光などは一切受けたことがなさそうだ。


整った顔、施設で一番の美人より、そうだった。


透き通った眼、青、外国人。


一糸まとわぬ姿、思春期入りたての少年には刺激が強い。



だがアユムに取って一番重要な情報はそこではなかった。


首輪、鎖、そしてあるべき場所に無い右腕。


感情の抜け落ちた表情。


「クソッたれ」


生贄、そんな言葉がアユムの頭に過ぎった。

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