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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
3/55

抗う子供達《レジスタンス》

日に焼けた畳敷きの部屋、築30年以上のボロアパート、広さは4畳半程だろうか。


電気は付いていない、窓からの夕日の強すぎる光が少年の目を焼いていた。


身動きは取れない、縛られているわけではなく、何かの薬物によるものか意識がぼんやりしていた。


部屋は雑誌や数々の雑貨が床に散らばっており片付いているとは言えない。


雑然としたよくある部屋、その中で部屋の中央に置かれたちゃぶ台だけが異様な雰囲気を放っていた。


物々しい体裁のハードカバーの本、蠟燭、捻じくれた角を持つ人間の骸骨、水晶、それらが毒々しい色のテーブルクロスの上に並べられている。


目の前には二つの影、父と母だ。


少年はぼんやりと両親の話を聞いていた。


「アユム、お父さんとお母さんを助けてくれ。」


「アユム、みんなで幸せになろう。」


「アユム、これは幸せの魔法の為なんだ。」


少年はそれに頷いただろうか、もう、それは定かではない。


両親は呆けている少年を見て、嬉しそうにうなずき。


少年の手を握り。


ポキリと指を折った。


激痛が走る、当たり前だ、叫びたくなった。


それでも少年の体は動かない、口からは涎が流れるだけだ。


反応が無い少年を両親は不安そうに眺め、ポキリともう一本折った。


同じ事が起こった。


少年は思った。


何故、父と母はこんな酷いことをするんだろう、僕は何か悪いことをしたんだろうか。


それから同じことを何度も繰り返した。


一方的にやっておきながら父と母は不服そうな顔で少年を眺める。


「薬が効きすぎたのかしら。」


「そうかもしれない、暴れてほしくなかったけど痛くなければ意味がないのにね、失敗しちゃったな。」


痛いよお父さん、お母さん、もうやめてよ。


少年はそう叫びたかった。


「なら、可哀想だけどもっと強い痛みが必要なのかもしれないね。」


父はそう言うと、押入れを探し始める。


あったあった、そう言って手に持っていたのは大きな木工用のノコギリだった。


確か、あのちゃぶ台を父が作る時に買ってきたものだ、天板のニスを塗るのを手伝ったのを覚えている。


父はそれを少年の左足の膝にあてがった。


「我慢しないでいいからね、叫びたかったら叫んでもいいから。」


父はゆっくりとそのノコギリを引き――――




目が覚めた。


少年は全身を滝が流れるような汗が伝っている事を自覚する。


痛みを感じ左足に手をやる。

膝から先が丸く肉に包まれ、あるべきものがない。


あの日、父と母に拷問の末奪われたそれは、戻る事もなくそのくせ悪夢の度に幻肢痛を少年に味あわせていた。


「クソったれ」


少年は悪態をつき、体を起こす。


まだ朝も早い、昨日も遅くまで色々とやっていたのだからこんな時間に起きれば眠くて仕方ない。



「大丈夫?」


隣のベッドから声が掛けられる。


黒い髪の少年、目を引くのはその目に当たる場所に包帯が巻かれている事だ。


少年はバツが悪いかのように返す。


「問題ねえよ、ミツキ、いつもの夢だ、寝ちまおうぜまた今夜もやるんだろ?」


ミツキと呼ばれた少年は、心配そうな顔で返答した。


「まあアユムがそう言うなら良いけどね、でもキツそうなら流石に休むよ、僕たちがやってることは失敗したらそれで終わりだからね。」


ミツキはそのまま布団に体を横たえた。


アユムはそれを見てから自分もベッドに体を戻す。


正直寝れる気はしない、それでも寝なければならない。


自分達をこうした外道共を狩るのだ、体調は万全にしなければならない。

その為の努力は惜しまないつもりだった。





彼らが居る児童養護施設、光輪会は悪魔崇拝者達(サタニスト)によって両親を失ったり、両親から離れざるを得なくなった子供達を預かる施設だ。


その中でも彼らは、両親から離れざるを得なくなった、両親の手によって生贄にされた者達だった。


朝食をつつきながら、アユムは目の前の盲目の少年に聞いた。


「ミツキ、あいつらあの後どうなったかな」


「ここら辺の警察は比較的そこらへん真面目だし多分ちゃんと保護してちゃんと両親か施設に送られると思うよ」


ミツキは目の不自由を感じさせない程スムーズに卵を切り分けながら答えた。


「というか、今までとりあえず外道をぶっつぶすぜー!って言って僕に丸投げで気にもしてなかったじゃん、どういう風の吹き回し?」


アユムは答えに詰まった。

今朝見た夢、自分が左足を失った日の事を思い出し、もしかするとまた捕まってないか心配になったなどとこの相棒に言うのはなんか恥ずかしい。


「いやよ、慣れてきたし、ここは視野を広げようとよ…」


ミツキは胡乱そうな顔をしながら、それには触れなかった。


「油断じゃなきゃいいけどね、昨日のヤツら、僕らを知ってた。全員銃持ってたし警戒を強めている」

「アユムの【魔法】も体の負荷は大きいんだろ、無茶は困る。昨日も向かいのビルからそのまま突っ込むとか聞いてなかったんだけど」


アユムは格好悪い所を点かれなくてほっとしながらも、再び言葉に詰まった。


「い、いや、あそこなら監視もできて襲撃も一瞬だしそれに…」


「どうせ一人で潜入して電源落としに言った僕を心配してとか言うつもりなんだろ、直接戦うわけじゃないし平気だよ、僕の【魔法】知ってるだろ」


「そうだけどよ…」


【魔法】少年達が手に入れた現実逃避の力、二人共両親から拷問を受け体の部位を失った。

ミツキは両目を、アユムは左足を、そしてその現実から逃れるように【魔法】をその喪失に見出した。


特にミツキの両目の代わりに手に入れた【魔法】は人の位置を知る事に特化している。

昨日のヤクザ達のような少人数であればまず捕まることはない、それは判っていた。


それでも思うのだ、自分は無理をかけていると、そしてそれをミツキはアユムに一切感じさせない、そういう少年だった。


「はい、話はおしまい、無茶した分義足のメンテは忘れずに、昨日片付けたから今晩はまた調査からだけど突然必要になるかもしれないからね。」


「おしまいって言いながら一言多いじゃねえかよ…」


ぐだっとアユムが椅子にもたれかかる。


少年達はこの街で毎晩狩りをしている、悪魔崇拝者達(サタニスト)とそれに連なるヤクザや半グレ集団、狂った一般人達を。


それは彼らがこの施設で出会い決めた。復讐の為の日課だった。

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