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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
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魔法使い《メガロマニアックス》


二十一世紀、かつて前世紀の大人達が大いなる科学の発展を夢見た時代。


車が空を飛び、人形ロボットが街を歩き、宇宙は身近なものになっている。


そんな空想は実現しないと誰もが気づいていたそんな時代。


現実は今や誰も想像だにしなかった方向から捩じ曲がっていた。




二十年前、ロシアの研究施設からある研究資料が流出した。



超能力研究



あまりにも馬鹿馬鹿しいその研究を彼らは旧ソ連の時代からコツコツと続けていたのである。

そのニュースを初めて見た人々の大抵の反応は面白がるか馬鹿にするか大いに馬鹿にするかだった。


しかし、極々一部の人間はそうでなかった。


彼らはそれらの研究資料を精査し、検証し、実験し、ある結論に至った。


これはもしかするともしかするかもしれない、と。




インターネット上で繰り返される議論、玉石混交の数々の実証実験。

研究者達が長年積み重ね秘密裏に進めていたその研究は、皮肉なことに拡散される事によって飛躍的進歩を遂げた。


3年後、ある人物がインターネット上で一つの論文を発表した。


【大魔道全書】


ハンドルネームを大魔道士(ウィザード)と名乗る真面目な馬鹿はその超能力研究を一つの体系として完成させた。


物理法則と並列してこの世界に横たわる新たな法則【魔法】の基礎を。


1つ、強い強い意思によって世界の物理法則に干渉できる。


2つ、理論上ありとあらゆる事象が起こせる万能の力である。


3つ、それは既存の物理法則に制約されることはない。



大まかに言えばこういう事だった。


世界は混乱した。

なにせ与太話から鉛から金を生み出し、人は空を飛び、永久機関は実現可能だと証明されてしまったからである。


その論文は拡散しその内容について数々の実証例が発表され【魔法】の実在は確たるものとなっていた。



人々はその事実に狂喜乱舞し、しかし、現実はそう甘くないとすぐ知る事となる。


【魔法】は強い意志によって、感情を持つ人間が「それが現実である」と今ある現実を否定するほどの思い込みが必要である。


しかし、魔法を使いたかったまともな大人達は空想を現実だと思いこむには現実を知り過ぎていた。


【魔法】を使えるのは、現実を知らぬ無垢な子供、若しくは、真性の誇大妄想狂(メガロマニアックス)


そしてそんな感情を自在に操る事などできるはずもなく、万能の【魔法】は異質な思想を持つ人間が扱う異常な現象に成り果てた。


無論、世界中の人々がその結論を否定するため、研究し論文を書いた人物を探したがまるで最初から居なかったかのように見つかる事はなかった。







それで話が終わっていれば、超能力者の実在が証明されただけで終わったかもしれないが、そうではなかった。


一大【魔法】ブームにより、発生したオカルトブームの到来、当然その目的は自分自身が【魔法】を使えるようになりたいという方向に転がっていく。



プロ、アマ問わず様々な思想と倫理観を問わぬ理想の追求、ありとあらゆる場所で起こる事件、事故、その果てにある思想を持つ者達が現れる。


悪魔崇拝者達(サタニスト)である。


彼らは自分が【魔法】を使えないのは現実が邪魔をするからであり、ならば現実を破壊してしまおうと結論づけた。


そのための数々の無謀な試みの結果、ある最悪の発明品が誕生した。


天使の嘆き(エンゼルフォール)と呼ばれるドラッグである。



そのドラッグは服用者の精神を著しく錯乱させ、現実感を失わせ、強い高揚感と幻覚を起こす。

それと同時に、服用者の持つ内在的な不安や不満を肥大化させ、それに対する強い忌避感、現実逃避による誇大妄想狂(メガロマニアックス)を引きおこす。


悍ましい大人の【魔法使い】を産み出すドラッグだった。




世界中の悪魔崇拝者達(サタニスト)天使の嘆き(エンゼルフォール)を服用し自分が嫌で嫌で仕方ない現実を破壊し始めた。


時には個人で、時には複数人で、またある時は大規模に集会を開き一斉に服用するサバト(ドラッグパーティー)を開催した。



各国の政府はこれを強く取り締まったが、理解不能な現象を引き起こし暴れまわる彼らを止める事は難しく治安は現在も悪化の一途をたどっている。





天使の嘆き(エンゼルフォール)が最悪と呼ばれる所以はそれだけではない。


専門家でない彼らが行った調合はインターネット上にアップロードされ調べようとすれば誰でも知る事ができ、その材料は一つを除き一般の家庭でも入手可能なものがほとんどであり規制が困難であった。

そして最大の問題はそのたった一つの材料にある。



子供の血液、それも、現実を忌避するような強い感情を抱いた時の血液だ。




悪魔崇拝者達(サタニスト)はそれを入手する為に、最も短絡的な方法を選んだ。


子供を攫い、縛り上げ、地獄のような拷問を加え、泣き叫ぶその体から血液を抜くのだ。

拷問は死ななければ酷ければ酷いほど良く、苦痛を与えれば与える程良いドラッグができる。

そしてその地獄は長ければ長いほど、多くの天使の嘆き(エンゼルフォール)が手に入る。


彼らは組織的に子供を攫い、ある信者からは子供を差し出させ、時には牧場まで作った。

需要は多く悪魔崇拝者達(サタニスト)ではない非合法な組織も、世界一有用なドラッグである天使の嘆き(エンゼルフォール)を資金源とする為にそれらの事業に手を出す始末だ。



それは世界中で今も起きている。






しかし、地獄と変わった現実で狩られ嬲られる子供達にも変化があった。


彼らは、現実を知らぬ無垢な子供ではなかった。

彼らは、真性の誇大妄想狂(メガロマニアックス)ではなかった。


ただ、現実で狂った大人達に蹂躙される中でその狂気に抗う為に、正気のまま【魔法】と呼ばれる現象を発現させる者が現れる。

世界で【魔法】が発見された以降に産まれた第一世代、

彼らは抗う赤子達スクリーミングベイビィと呼ばれた。


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