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斯(か)くして始まる道化の日々

彼の言葉を要約すれば、貴様には逃げ道などない、と告げられたのと同じである。


玉座に腰かける時点で、世間的には『代役』ではなく『本人』である、ということだ。

そしてその『本人』は既に亡きものとなってしまっている。


皇国の上層部がどういう仕組みで成り立っているのかは分からないが、そこまでして事実を隠そうとする理由は何となく察しがつく。


閣下の死が周知のものとなれば、城内は間違いなく大混乱に陥ることになる。

そしてその知らせはいずれ皇国全体に広がるだろう。


その類稀(たぐいまれ)なる才覚で皇国を牛耳っていた トップを失った組織がどうなるか。


これからの皇国の先行きを想像するだけで背筋を冷たいものが走る。

重しの取れた地獄の釜から這い出すものにろくなものはない。

皇国最大の危機を食い止めるには、その事実を伏せるための代役が必要になる、というわけだ。


彼にとって皇国の崩壊は、同時に敬愛なる総統閣下の望みが潰えることを意味していた。


断じてそんなことがあってはならない。

主が死してなお、全霊を賭して尽くそうとする彼の振る舞いは、まさに『忠臣』と呼ぶにふさわしいものだった。


それに巻き込まれる立場としては歓迎できるものではないのだが。


どう考えても詰んでいる。

今のルークにはそうとしか思えなかった。


「最悪の事態に陥ることがないよう、閣下には生きてもらわなければならぬ。貴様が玉座に腰を下ろそうと、あくまであの場所にいるのはお前ではなく閣下であることを忘れるな」

二度と言うつもりはない、とばかりにカルヴィヌスは釘を刺す。


「貴様はここで死んだも同じ」

何も出来ずに立ちつくす青年に、男が冷ややかに告げる。


「それとも……本当にここで死んでみるか?」

低い声でそう言うと、腰に提げられた剣の鍔に指をかける。

「ままま、待って下さいっ」


戦場(いくさば)に身を置いている身とはいえ命は惜しい。ましてやこんな場所で不本意な死にざまを晒すのは望むところではない。


だがカルヴィヌスが提示した条件は、死を前にしても躊躇せざるを得ないほど突拍子もないものだった。


どちらかと言えば剣を突きつけられていたときのほうが安心できていたのではないかという気さえしていた。


皇国が混乱に陥れば自分のような末端の兵士は確実に切り捨てられるだろう。

何もできないまま終わるより、悪あがきしたほうがマシだ。


「むざむざ捨てるような命ならば、皇国のために生かしてみろ」

そのことを見越していたかのようなセリフに、元より選択の余地など無かったのだと男は思い知らされた。


「チャンスをもらった」といえば聞こえがいい。

だがその実は自ら手駒になる道を選ぶということだ。

例えるなら、それは永遠の執行猶予とでもいうべき日々の始まりを意味する。


行くも地獄、戻るも地獄とはこの事だと男は思った。

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