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音の子  作者: 花言葉
エルガド村に行こう!
7/24

2

 次の日、また、馬車で二人きりになった。

「王子、その、私のおじって変わった人ですけど、仲良くしてくださいね」

『もちろん、アイシャの家族だもの』

 ベルツは、笑顔でそう書いた。

「でも、王子、一時だけの付き合いなのですから」

『……そんなこと言わないで、アイシャは大事だよ』

「王子、勘違いしてしまいます」

 アイシャが顔を赤らめてそう言う。

(勘違いって、好きって事?)

 今ならかけるかもしれない。

『アイシャが――』

 書けなかった。


「どうしたのですか?」

『何でもないですよ』

 ごまかした。

 そのうち、馬車は、エルガドに着いた。エルガド村は、本当に緑色しかない様な村だった。


☆ ♪ ☆


「わ~やっぱり、緑がきれい」

 浮かれているアイシャを見ていた。

「みてください猫じゃらしですよ」

 一本取ってアイシャがはしゃいでいる。

(アイシャ……かわいい)

 心の中でそう思っていると、首の方で、むず痒い感じがした。

(!)

「猫じゃらしですよ、やりませんでしたか?」

『私には、そんなことをしてくれる人はいませんでした』

「あっ、ごめんなさい、王子ですものね」

 アイシャが、ぱっと離れた。

(悪いことを言ってしまった)

 アイシャは、笑ってくれると思ったのだろう。でも、アイシャの当たり前とベルツの当たり前は違うのだ。なんだか、溝があるような気がして、少ししょんぼりしていた。

「さあ、道具を運びましょう」

 みんなが、荷物をエルガド村に運んでいた。山の奥へ進んでいくと、開けた場所に出た。

(村だ!)

 喜んでいると。

「アイシャ、おかえり」

「ラティ、待っていてくれたの?」

 アイシャの頭を撫でる、ラティと言う男は若く、二人は仲が良く見えた。

(アイシャの恋人?)

 少しそう見えてしまった。

「あら、アイシャ」

「カム姉、ラティとうまくやっている?」

「ええ、もちろんよ」

 カム姉は、優しそうな若い女の人だ。

「王子、紹介します、ラティとカム姉、夫婦なんだ」

『よろしくお願いします』

「へ~、筆談、しゃべれないの?」

『はい』

「ごめんね、アイシャは、学者のおじに文字を習っているけど、僕等は、読めなくて……」

「よろしくって、言っているのよ」

「そうか、よろしく」

 アイシャに助けられた。

(そうか、城下街みたいには、通じないところなんだ)

 アイシャが文字を読めたのが、奇跡なのだと改めて思った。

(運命だったんだ)

 急にモンネの言っていたことが正しいような気がしてきた。

「みんな、王子が食料を持って来てくれたわよ」

 アイシャがそう叫ぶと、辺りから人が集まってくる。

(二、三十? いや、四、五十はいるな)

 山奥なのに人口が多い気がした。

(だから、食料が無くなるんだ)

 心の中で、何人か、移住するべきだと思った。

「それじゃあ、王子、最後に私の家族を紹介します」

『うん、よろしく』

 ドキドキしていると。

「ばっちゃ、じっちゃ~」

 畑仕事をしている、汚れた服のおじいさんとおばあさんがいた。

「あら~、アイシャ」

 おばあちゃんの方にアイシャが抱き着く。

「ばっちゃ、今日は、お土産持ってきたわよ」

「本当か」

 二人は、喜んでついて来る。

「それより、タケカに言わなくていいのか?」

「タケカは、研究中でしょう」

「でも、言わなかったって拗ねよる」

「そうね、言っておくわ」

 アイシャは、さらに山奥へ入って行く。

『アイシャ』

「王子、そう言えば、言っていませんでしたね。タケカは、おじです」

(それは、話の流れからなんとなくわかったけど……)

「タケカは、研究ばかりしているのです」

 そう言って、木と木の間にドアがあった。

「タケカ!」

「おう、アイシャか」

 タケカは、アイシャの目によく似ている。茶髪の男だった。不思議なメガネをしていて、腰に袋をいっぱい下げている。

「おっ、新しい研究員か?」

 インク壺と鈴を見て研究していると思ったようだ。

「彼は、ベルツ王子、しゃべれないの」

「へ~」

「それで、私が、王子の音を間違ってもらっちゃったらしいの」

「ほ~! 面白い、話を聞かせてくれ」

 タケカは燃えていた。

『はい、いいですよ』

「おう、ベルツ王子だったな、私の姪が迷惑をかけたようですね」

『い、いえ』

「謙遜なさらず、このじゃじゃ馬ですから、王子に迷惑ばかりかけていたのでは、ありませんか?」

『い、いえ……』

「優しいな王子、そこまでアイシャをかばわなくてもいいんだぞ」

『かばってません』

「アイシャ、礼を言えよ」

「王子、いつもありがとうございます」

『あ、あの~』

 タケカは、全くベルツの事を気にしていないようだ。

「まあ、不敬罪にだけはしないでくださいね」

「もう、タケカ!」

 アイシャは、怒っている。

(面白い人だな)

「それより飯だ。持ってきたか?」

「持ってきたわよ、外で、みんな食べているわ」

「そうか、急ぐぞ」

 メガネをはずして腰の袋を置いて髪をとかすと、普通の人になった。

「さあ、行こう」

「王子、タケカは、すごい人なのよ、井戸を見つけたり、金を掘り出したりしたの、だから、誰も研究を止めたりしないのよ」

『そうなのか』

 ベルツも感心していた。

「でも、少し変な人よね」

『面白くて、いいじゃないですか』

「王子は、心が広いのですね」

 アイシャは、ため息をついてそう言った。


☆ ♪ ☆


 広場にでると、大きな鍋でスープが作られていた。

「おいしいわね」

「おいしいわ」

 口々にみんなそう言っている。

 アイシャはスープを配りに駆けまわっていた。

「アイシャ」

「アイシャちゃん、ありがとうね」

「いえいえ」

 一人一人にスープを配るアイシャは天使のようだった。

(アイシャ……)

 アイシャがますます好きになったような気がした。

「王子、王子もどうぞ」

 エルガド村の民に手を取られて、行くと、みんなで輪になって食事をした。

(楽しい)

 城では、味わえない事なので、とても面白かった。

「お兄さん何で、鈴をつけているの?」

 子供にそう言われて、ジェスチャーでしゃべれないのだと言った。

「しゃべれないの、変なの~」

「こら!」

 子供は、怒られてしまった。

(変か、いつも言われていたから慣れてしまったよ)

 空を見上げそう思う。

(ここは、空がきれいだな)

 そう思って、ぼ~とする。


☆ ♪ ☆


 食事を終えて、みんなが皿を返しに来た。

「はーい、はーい」

 受け取る度に、はーいとアイシャが言う。

「はーい、はーい」

「ねえ、お兄ちゃん」

 さっきの子供が袖をつかむ。

「ごめんね、変なんて言って」

「……」

 何といえばいいのかわからなかったので、とりあえず、笑った。

「許してくれるの?」

 頷いた。

「ありがとう」

(この村の人達は、ちゃんと反省できるんだな)

 城ではこんなことは無かった。

(アイシャの言う通り、便利だけが必要だと言うわけでもないのだな)

 改めてそう思っていた。

『アイシャ、ありがとう』

「いえいえ」

 アイシャがいなかったら、何もかも知らないままだっただろう、人のぬくもりや優しさと言う物を。

(アイシャは、運命の人だよ!)

 心の中で強くそう思った。

 アイシャは、原っぱに寝転んだ。

「う~ん、気持ちいい」

 体を伸ばして空を見る。

「ここの空はきれいでしょう」

『うん』

「何もかも忘れちゃうくらいにね」

『そうだね』

 二人で横に並んでいた。

(こんな時間が続けばいいのに)

 心の中でそう思った。

 しかし、すぐに知らせが来た。

「アギストで、会議があるそうです」

 マティスがそう言って困っている。

『わかった』

(アイシャとお別れか?)

「ベルツ様は、自由参加ですから、アイシャ様ともう少しだけ一緒にいてもよいのですよ」

(俺は、しゃべれないから出る意味がないのだ)

「王子、もしかして、休む気ですか?」

『うん』

「ダメです。大事な会議ですよ」

『でも、私が行っても……』

「私も行きます」

「えっ?」

 マティスが驚いている。

「私が通訳になれば、何の問題も起きないでしょう」

「そうですね」

 マティスは、怪しく笑い。

「じゃあ、王城まで、アイシャ様も連れて帰ることにします」

「上等じゃない」

「では、準備を」

 マティスはアイシャに聞こえないように。

「まだ、アイシャちゃんと一緒にいられるな」

 と喜んでいた。

(本当だ。なんてチャンスなんだ)

 心が躍るようだった。

『アイシャ、ありがとう』

「あら、王子、当然の事よ、それはいいけど、今回の仕事の分、お金を上乗せしてくださいね」

 アイシャは、笑顔でそう言った。

『もちろん、いいよ』

 アイシャは、みんなの所へかけて行った。

「アイシャちゃんは、かわいいな」

『そうでしょう』

「ベルツは、アイシャちゃんの事好きなんだもんな」

『そ、それは……』

「関係を長く持っていたいから、キスしないとかは許さないからな」

 マティスは、ベルツの考えを読んだようにそう言った。

『大丈夫だよ』

「そうか」

 まさか、アイシャといるためにキスをしないとは、言えなくなった。

(どうすればいいんだ)

 マティスは、正しいのだ。だが、認めたくない。

(アイシャが離れちゃう)

 アイシャは、エルガド村を誇りに思っているのだ。王子の嫁などになるつもりは、欠けらもないのだろう。

(は~)

 ため息をついた。

(アイシャを手に入れるのは、とても難しい)

 そう思っていた時、アイシャが走ってきて。

「王子、王子の声はとてもステキですから、きっと聞いた人は、びっくりすると思いますよ」

 アイシャは、慰めでそう言ってくれたのかもしれない、でも、うれしかった。

(醜い声でも、きれいな声でも、アイシャがいないとつまらない)

 そう思ってしまう。

『アイシャの声もステキだよ』

「私の声なんて、普通です」

 ベルツは優しく微笑むだけだった。

「王子、会議の事は、心配いりませんよ」

 アイシャから見て、ベルツの笑顔は、不安そうに見えたのかもしれない、だから、心配されてしまった。

『心配してないよ』

 今度は、精一杯笑った。

「そう、それじゃあ、また」

 アイシャは、走っていなくなった。

(本当は、アイシャの事で悩んでいるのに……)

 しかし、アイシャには、心配はかけられない。

(元気にしておかないとな)

 心を入れ替えた。


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