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そして、お見合いが始まった。
「リリカ・カティス・マーチン嬢」
そう呼ばれて入って来た、ピンクのドレスの令嬢は、美しく笑った。
(あ~、そんなに地位が欲しいんだ)
ベルツは、一人で冷めていた。
「さあ、手を握って」
ベルツとリリカ嬢が手を握った、ベルツは『ブラックペッパー』と心の中で言った。
「リリカ嬢、何と言っていた?」
「わからないわよ、こんなもの」
リリカ嬢は怒って言った。
「これで、怒るのは、何人目だろうね、嫌な見合いだ」
マティスがそう言う。
『確かに面倒くさい』
「そうだろう、ベルツ、そもそも、ベルツは、好きな子を待っているだけなんだろう」
『まあね』
そう書いて、マティスに見せると、マティスは嬉しそうだった。
「アイシャ・カーネスト嬢」
村娘の格好で、おどおどと入ってくるアイシャにドキドキした。
「それじゃあ、手を握って」
「はい」
「何が聞こえる?」
「そうですね『ドキドキしてしまう』ですかね」
「ベルツ、私情はだめだと言っただろ」
「『アボカドサラダ』ですか?」
「ちょっと待てよ、当たっているのか?」
『合っているよ』
「何だと」
「『アイシャでよかった』って、王子の声なんですかこれ?」
アイシャは、驚いた顔をしている。
『うん、そうなんだ』
手を通してそう言った。
「さすが王子、王子の声って、普通の人と違うのね」
「それよりも、王妃様、王妃様」
マティスが走っていなくなる。
『アイシャ、君が音の子だったんだね』
「あの、意味が分からないのですが……?」
アイシャは、困るばかりであった。
『君には、俺の妻になって欲しい』
「いやよ!」
「!」
「確かに私は、偉い男の人からお金を貸してもらおうとして、ここに来たわ、でも、王子に嫁ぐために来たんじゃない」
『アイシャ……』
「放して……」
手を離すと、音が一つ減った。
「何なのよ、これ」
アイシャが、困惑し続けている。アイシャは、城から抜け出そうとしだしたので、腕をつかみ。
『いかないで、アイシャ』
「王子、でも……」
『お金を渡すから』
「本当、それなら、しばらくいようかしら」
『うん、そうして』
ベルツは、アイシャの態度に少しばかりがっかりしてしまった。
(俺の事なんて、眼中にないんだ)
そう思うとむなしくなった。
☆☆
アイシャは、王妃の元へ連れていかれた。
「あの、王妃様ですよね?」
「ええ」
王妃は、長い黒髪を揺らしてそう言う。
「なぜ、私みたいな庶民とお話をしてくださるのですか?」
「あなたは、音の子だからよ」
「その、音の子って、何なのですか?」
「王子の音源が手違いで、あなたの中に入ってしまって」
「それじゃあ、解体?」
アイシャが青ざめた。
「私、殺されちゃうのですか」
「違うの、音源を移すのは、たった一度のキスだけでいいのよ」
「キ、キス!」
アイシャは、つい赤くなってしまった。
「ファーストキスをそういう物のために、王子に捧げなくちゃいけないのですね」
「ファーストなの、それなら一大事ね」
王妃は、困っている。
「でも、キス一つで大金が手に入るなら、仕方がないです」
「あなたは、貧乏なの?」
「はい」
アイシャは、迷わずそう言った。
「それは、大変ね」
「私の住む、村一つ貧乏ですから、食料もまかなえなくて、みんな、困っているの」
「……わかったわ、食料や金銭を援助しましょう、それで、それは、急ぐのかしら?」
王妃は、承諾してくれた。
「心配しないでください、すぐに村は、なくなりませんよ」
「そうなのね、それで、王子は、あなたの事を気に入っているみたいだったけれど?」
「私なんかよりもよっぽどいい子がいます」
「でもね、音の子は、あなただけなのよ」
「……」
アイシャは、下を向いてしまった。
「確かに私は、音の子でしょう、だって王子の声が聞こえました。中々格好のいい声でしたよ」
「そうなの、良い声なのね、私も聞いてみたいわ、とりあえず、あなたは、今日は泊まって行きなさい」
「はい」
アイシャは、客が泊まる部屋に案内された。