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音の子  作者: 花言葉
音の無い王子
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3

 そして、一週間後、王子と同じ年で、誕生日も同じ女性だけを集めたパーティーが開かれた。

 ところが。

『パーティーなんて嫌だ』

 ベルツは、紙にそう書いて抵抗していた。

「ベルツ、音の子を見つけるためなの」

 王妃がなぐさめる。

『いやだ』

 ここまで、抵抗したのは初めてかもしれない。

 そもそもパーティーとベルツは無縁なのである、ドレスコードで、インク壺や鈴を持っていけないからだ。

「でも、ベルツ」

『だって、この格好でパーティーなんて、はずかしい』

 インク壺と鈴を付けた王子など、恥さらし以上にはならない。


☆ ♪ ☆


 そこに、門番が来て。

「招待状をなくした女の子が一人いて……」

 ベルツは、逃げるように出て行った。


☆ ♪ ☆


 門の前で。

「だから、私には、招待状が届いたのよ、ちゃんと誕生日を証明するものだって持って来ているわ」

 村娘の格好をした女の子だった。

『こんにちは』

 紙にそう書くと。

「あら、学者さんもパーティーに参加なさるの? インク壺と鈴って事は、研究の途中なのね」

 少女は、柔らかく笑った。

(なんで、格好悪いって責めないのだろう)

「私のおじも学者さんで、貧乏だけど、研究ばかりしているのよ、その時のおじさんにそっくり」

 彼女は、カラカラ笑った。

 赤茶色の髪の元気な女の子、髪は長く、目がぱっちりしているかわいらしい方だ。

『名前は?』

「アイシャ・カーネストよ、よろしく」

『よろしく』

「あなたって、しゃべるのが苦手なの? だから筆談なんかしているの?」

『うん』

「そう、面白いのね」

(面白い?)

 ベルツは、色々な感情が頭の中を行き来した。

(アイシャは、ステキな人だ)

『中に入れてあげて』

「はっ、ベルツ様」

「何、あなた偉い人なの?」

『うん』

 そう書いてその場を立ち去った。

(アイシャが音の子だったらいいのに)

 心の中でそう思い、浮かれていた。


 ☆ ♪ ☆ 


 ベルツは、王妃の元へ戻り。

『パーティーに出ます』

「よかった」

そう言うわけで、無事パーティーは開かれることになった。


☆☆


 パーティーの開始前、待合室でアイシャは。

(場違いだった)

 みんなドレスを着ているのに、自分だけワンピースだと言う事に気が付いてしまったのだ。

(せっかく入れてもらったのに、追い出される)

 心の中でそう思いガタガタ震えていた。

「そのドレスかわいいわね、どこのブランド」

「いえいえ、どこと言うと……」

 みんな、そんな話をしている。

(私は、家族のために、大金を持って帰らなくちゃいけないのに~!)

 夢は大きかった。でも、実行出来るわけがなかった。

(私は、なんてことを~)

 一人、しょぼんとしていた。

(あの学者さん、いないかな?)

 そう思って座っていた。


☆ ♪ ☆


 パーティーが始まり、みんな一斉に王子の元へ向かった。

(あっ、私に、勝ち目はないな)

 アイシャは、そう思い、引っ込んでいた。

『アイシャは、いる?』

 王子は、羽ペンでそう書いた。

「王子って、あの学者さんだったの~」

 アイシャの大声が響いた。

「あははは」

 辺りで小さな笑い声がする。

「あっ、アイシャは、私です」

 前に出て行くと、王子は優しく笑った。

「王子は、声が出せないの」

 隣にいた王妃がそう言った。

「えっ?」

(それで、筆談?)

 アイシャは、パニックを起こしていた。

(なんで私を呼び寄せたの?)

 その時、手を握った途端。

《アイシャは、かわいいから、大丈夫だよ》

(誰の声?)

 聞いたことのない声がした。王子は、こちらを見て、笑顔を浮かべている。

(えっ? 何? 今の?)

 アイシャが、激しくパニックを起こしている時、会場は。

「王子は、もう決めた人がいらしたのね」

 意地悪くそう言う女がいた。

「あの、これから、一人ずつお見合いをするので、安心してください」

 王妃がそう言うと、会場は静まった。


☆ ♪ ☆


 待合室に行くと。

「王子のお見合い方法は、とても変わっていて、手を繋いで、何を思っているか当てろと言う物らしいわ」

「えっ、それって無理でしょう」

「だから、どんな子を探しているのか」

 女達は、くすくす笑った。

(王子って、いい思いをしていないんだな)

 アイシャは、女達を眺めてそう思った。


☆☆


 そのころ、ベルツは。

「ベルツ、何なの、あの子、一人だけを特別扱いするなどと」

『あの子、かわいかった』

「あなたの好みより、音の子を探すことだわ」

 王妃は、怒りながらそう言った。

(音の子……、彼女がそうならいいのに……)

 ベルツは、握った手の感触をかみしめていた。

(アイシャと言うかわいい女の子)

 顔を思い浮かべるだけで、幸せになる。

「どうしたベルツ、惚けた顔をして」

 マティスが現れた。

『惚けていない』

「好きな女でもできたのか?」

『えっと……』

「えっ、マジかよ、もう、音の子じゃなくても、側室とかにしてしまえばいいじゃないか、ベルツの初恋だぞ!」

 マティスは、嬉しそうだ。


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