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そして、一週間後、王子と同じ年で、誕生日も同じ女性だけを集めたパーティーが開かれた。
ところが。
『パーティーなんて嫌だ』
ベルツは、紙にそう書いて抵抗していた。
「ベルツ、音の子を見つけるためなの」
王妃がなぐさめる。
『いやだ』
ここまで、抵抗したのは初めてかもしれない。
そもそもパーティーとベルツは無縁なのである、ドレスコードで、インク壺や鈴を持っていけないからだ。
「でも、ベルツ」
『だって、この格好でパーティーなんて、はずかしい』
インク壺と鈴を付けた王子など、恥さらし以上にはならない。
☆ ♪ ☆
そこに、門番が来て。
「招待状をなくした女の子が一人いて……」
ベルツは、逃げるように出て行った。
☆ ♪ ☆
門の前で。
「だから、私には、招待状が届いたのよ、ちゃんと誕生日を証明するものだって持って来ているわ」
村娘の格好をした女の子だった。
『こんにちは』
紙にそう書くと。
「あら、学者さんもパーティーに参加なさるの? インク壺と鈴って事は、研究の途中なのね」
少女は、柔らかく笑った。
(なんで、格好悪いって責めないのだろう)
「私のおじも学者さんで、貧乏だけど、研究ばかりしているのよ、その時のおじさんにそっくり」
彼女は、カラカラ笑った。
赤茶色の髪の元気な女の子、髪は長く、目がぱっちりしているかわいらしい方だ。
『名前は?』
「アイシャ・カーネストよ、よろしく」
『よろしく』
「あなたって、しゃべるのが苦手なの? だから筆談なんかしているの?」
『うん』
「そう、面白いのね」
(面白い?)
ベルツは、色々な感情が頭の中を行き来した。
(アイシャは、ステキな人だ)
『中に入れてあげて』
「はっ、ベルツ様」
「何、あなた偉い人なの?」
『うん』
そう書いてその場を立ち去った。
(アイシャが音の子だったらいいのに)
心の中でそう思い、浮かれていた。
☆ ♪ ☆
ベルツは、王妃の元へ戻り。
『パーティーに出ます』
「よかった」
そう言うわけで、無事パーティーは開かれることになった。
☆☆
パーティーの開始前、待合室でアイシャは。
(場違いだった)
みんなドレスを着ているのに、自分だけワンピースだと言う事に気が付いてしまったのだ。
(せっかく入れてもらったのに、追い出される)
心の中でそう思いガタガタ震えていた。
「そのドレスかわいいわね、どこのブランド」
「いえいえ、どこと言うと……」
みんな、そんな話をしている。
(私は、家族のために、大金を持って帰らなくちゃいけないのに~!)
夢は大きかった。でも、実行出来るわけがなかった。
(私は、なんてことを~)
一人、しょぼんとしていた。
(あの学者さん、いないかな?)
そう思って座っていた。
☆ ♪ ☆
パーティーが始まり、みんな一斉に王子の元へ向かった。
(あっ、私に、勝ち目はないな)
アイシャは、そう思い、引っ込んでいた。
『アイシャは、いる?』
王子は、羽ペンでそう書いた。
「王子って、あの学者さんだったの~」
アイシャの大声が響いた。
「あははは」
辺りで小さな笑い声がする。
「あっ、アイシャは、私です」
前に出て行くと、王子は優しく笑った。
「王子は、声が出せないの」
隣にいた王妃がそう言った。
「えっ?」
(それで、筆談?)
アイシャは、パニックを起こしていた。
(なんで私を呼び寄せたの?)
その時、手を握った途端。
《アイシャは、かわいいから、大丈夫だよ》
(誰の声?)
聞いたことのない声がした。王子は、こちらを見て、笑顔を浮かべている。
(えっ? 何? 今の?)
アイシャが、激しくパニックを起こしている時、会場は。
「王子は、もう決めた人がいらしたのね」
意地悪くそう言う女がいた。
「あの、これから、一人ずつお見合いをするので、安心してください」
王妃がそう言うと、会場は静まった。
☆ ♪ ☆
待合室に行くと。
「王子のお見合い方法は、とても変わっていて、手を繋いで、何を思っているか当てろと言う物らしいわ」
「えっ、それって無理でしょう」
「だから、どんな子を探しているのか」
女達は、くすくす笑った。
(王子って、いい思いをしていないんだな)
アイシャは、女達を眺めてそう思った。
☆☆
そのころ、ベルツは。
「ベルツ、何なの、あの子、一人だけを特別扱いするなどと」
『あの子、かわいかった』
「あなたの好みより、音の子を探すことだわ」
王妃は、怒りながらそう言った。
(音の子……、彼女がそうならいいのに……)
ベルツは、握った手の感触をかみしめていた。
(アイシャと言うかわいい女の子)
顔を思い浮かべるだけで、幸せになる。
「どうしたベルツ、惚けた顔をして」
マティスが現れた。
『惚けていない』
「好きな女でもできたのか?」
『えっと……』
「えっ、マジかよ、もう、音の子じゃなくても、側室とかにしてしまえばいいじゃないか、ベルツの初恋だぞ!」
マティスは、嬉しそうだ。