表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音の子  作者: 花言葉
王子暗殺は誰のための物?
21/24

5

 医務室に向かうと、寝ている王子がいた。

「王子!」

 アイシャは、大声を出してしまった。

「アイシャさん」

 王妃がやつれた顔で立っていた。

「王子、よくないのでしょうか?」

「えっと、ええ」

(そんな、てっきり、私が犯人を捜している間に、完全に治ると思っていたのに、どうして……)

 アイシャは、思わず王妃に抱き着いた。

「大丈夫です、大丈夫ですよ」

 そう言って、励ますことしかできなかった。

(王子、戻ってきて)

 深く祈った。

(王子、聞こえますか?)

 心の中で、王子に呼び掛けた。しかし、返事はない。

(やっぱり、死んだの?)

 即効性のある毒なら死んでいただろう。

 ――王子。

 アイシャは、あきらめきれなくて、手を握ろうとした。ところが。

「今は、安静にしてあげてください」

 医師がそう言う。

「悪いんですか? もう助からないんですか?」

「わかりません」

 それは、危ないと言う事だろうと思った。

「王子~」

 涙が流れた。

「今まで、ごめんなさい、あなたが生き返るのなら、姫でも何でもしてあげますよ、だから、戻ってきて」

 すっかり助からないと思い、そう言った。すると王妃が。

「今、言ったことは、ありがたいわ、忘れないでね」

 優しく肩を支えてくれた。

(これが最後なんて……)

「アイシャさん、落ち着いてください、まだ、息はあるのですから」

 王妃がそう言ってくれた。

(即効性の毒ではないのね)

 少しばかり安心した。

「毒の解毒剤とかは、無いのですか?」

「それが、丁度切らしていて……」

「そんな……」

 アイシャの目の前が真っ暗になった。

(王子がいたからがんばれたのに……)

 心の中で悔しくなった。

(守れなかったのよね)

 落ち込んでいると、病状が急変した。

「心拍数が落ちている気がする」

「そんな、何かしなくては……」

「アイシャさん、毒の場合は何もできないのよ、ベルツの回復力にかけましょう、それしかないのです」

 王妃は、そう言ってアイシャを止める。

「でも、心臓マッサージとか、やってあげた方が……」

「毒の場合は意味がないのです」

 医師がそう言って、遠くを見た。

(いかないで王子)

 祈ることしかできなかった。

「王子の事は、忘れて差し上げてください」

「いやよ」

 そう言っているうちに、王が来た。

「ベルツは、どうだ?」

「以前、動きは、ありません」

 医師は、そう言って、お手上げと言う感じだった。

「こんな事なら、やはり、毒に耐性をつけてやるべきだったのではないか?」

 王がそう言ったので、アイシャは怒った。

「毒に耐性をつけるべきだった? 毒に耐性をつけるのがどれだけ苦しいか知っているのですか?」

 アイシャはきつい目をしてそう言った。

「当然だ。私もしたからね」

「それじゃあ、王子にしなかったのは、自分が苦しんだから、違いますか?」

「その通りだ」

 王は悔しそうだった。

「でも、死ぬぐらいなら、少々苦しんだ方がよかった」

「そんなことありません、私は知っているの、毒に慣れるってどういうことか、学者のおじが試して、出来なかったもの」

「君のおじは学者なのか」

 王は驚いたように言った。

 アイシャは、ベルツに向き直して。

「ねえ、目を開けてよ」

 ベルツに語り掛ける。

「まだ、どうして、私の事を好きになったか聞いてないですよ、起きて、王子」

 しかし、声は帰ってこない。

「脈拍が早くなった」

「それは、持ち直したと言う事か?」

「どうでしょう、一瞬の奇跡ですかね?」

 医師は、パニックを起こす。

「王子には、聞こえているのよ」

 アイシャは、声を上げてそう言った。

「ベルツ、ベルツ」

「王子、王子」

 呼びかける。

(助かって、お願い)

 アイシャは、祈った。しかし、反応がない。

(やっぱり、ダメなの?)

 あきらめようかと思ったが。

「最後に、王子の手を握ってもいいですか?」

「え~、少しだけですよ」

(王子は、しゃべれないんだから、もしかして、復活していてもわからないのかもしれない!)

 そう思い、恐る恐る手を握った。

『アイシャ』

 声が聞こえた。

「王子、王子、生きているのね」

 辺りがざわめいた。

『ああ、だが、体がひどくしびれている』

(毒が回っているのね)

 王子の苦しみを思うと、辛くなった。

「最後に、したいことは、ない?」

『アイシャといたい』

「そんなの、叶っているじゃない」

「アイシャさん、何と言っているの?」

「体がしびれるそうです」

「そう」

 王妃が悲しげにそう言う。

「王子、最後に自分の声で、王妃と王にお礼を言いましょう」

 そう言って、アイシャは、王子に口づけをした。

(体が熱い)

 体の中から、何かが流れ出すような、そんな感じがした。

「たく、みんな、しびれ薬を大袈裟にするなよな」

 王子が放った第一声は、その一言だった。

「しびれ薬?」

「ああ、体がしびれているが、他に症状がないとなると、しびれ薬、殺そうとして入れたものではないな」

(えっ? しびれ薬って、どういう事?)

 アイシャは、目の前が真っ白になった。

 死ぬほど心配した自分が情けなくなった。

(王子が話せないことを利用した罠だったのね!)

「王子、では、薬を」

 医師が王子に薬を飲ませる。

「あっ、治った」

 アイシャは、後ろにいる王妃と王を睨んだ。

「さては、あなた達の仕業ですね」

「はあ? なんのことだか?」

「とぼけないで下さい、心臓マッサージをしなかったのは、生きている人にしてはいけないから、薬だってあった。どう考えても、私にキスをさせるためだけの狂言でしょう!」

「あら~、ばれちゃったわよ」

「本当に」

 王と、王妃は、ニコニコ笑っている。

「だって、ベルツが中々踏み切らないから、応援してあげたのよ」

「余計なことを」

 ベルツは不機嫌そうにそう言った。

「アイシャ、この声で君を呼ぶのは初めてだね」

「えっと、その……」

「本当、ベルツの声ってステキね」

 王妃が喜んでいる。それも無理はない、声が素敵すぎるのだ。

「もう、鈴もインク壺もいらないんだな」

 ベルツは、嬉しそうだ。

「これで、成人の日を迎えられるわ」

 王妃が喜んでそう言う。

「母様、待って下さい、もしかして、他国の姫とのお見合いをなさる気じゃありませんよね?」

「あら、しないと思った?」

「すると思った」

「だって、ベルツは、もうしゃべれるのよ、普通に姫を迎えられるわ」

(それって、私がいらないって事?)

 アイシャは、縮こまってしまっていた。

「アイシャさんは、側室にして差し上げますわ」

「母様!」

「ベルツ、怒るの? でも、あなたは、王子でしょう」

 王妃が言うのも最もだ。正妻は、他国の姫なのだろう。

「アイシャ、私は、君を愛しているんだ」

「でも、だめよ」

 アイシャが、王子を突き放した。

「あっ……」

 アイシャは、青くなって、部屋を出た。

 その時、腕をつかまれた。

「アイシャちゃん、俺だよ、マティス」

 手をつかんだのは、マティスだったので、安心して止まった。

「君が、医務室から出てきたと言う事は、ベルツは、ちゃんと声を取り戻したと言う事だろうね」

「ええ」

「そうか、協力した甲斐があったな」

「マティスさん、知っていたの?」

「ああ」

 マティスは、晴れやかにそう言った。

「教えてくれればよかったのに……」

「教えたら、しなかったでしょう」

 マティスは、そう言って笑う。

「うん」

 頷くと、マティスは、頭に手を置いた。

「あんたは、よくやったよ」

 アイシャは、涙があふれてきた。

「もう、王子といられない」

「何で?」

「だって、私はもう必要はないでしょう」

「そうかな?」

 マティスは、楽しそうにそう言う。

「ベルツは、アイシャちゃんが必要だと思うよ」

「何で?」

「好きだから」

(好きだから?)

 アイシャは、王子が好きなことには気が付いていた。だからと言って、離れてしまうと必要になる訳ではない気がしていた。

「男は、割り切れないから、アイシャちゃんの事を想い続けるよ」

「そんなのダメよ」

「ダメじゃないの」

 マティスは、デコピンしてきた。

「少しは、素直になったら」

「素直?」

「ベルツが好きで、姫にして欲しいって言ったら?」

「ええ~」

 アイシャは、驚いている。

「そんなこと、望んでいない」

「望んでいるくせに」

「ああ、しまった。俺は、次の仕事だ。国王と夫人に口封じしなくちゃいけないから、行ってくる」

「そうね、あれだけ騒いだのですものね」

「そうそう」

 マティスは、手をひらひら振っていなくなった。

(私が、姫になりたい?)

 考えさせられた。

(王子の隣には、いたいような気がするけど)

 悩んでいると、ベティが来ていた。

「アイシャさん」

「ベティ」

 ベティは、捕まってなどいなかったのだ。

「もうわかったでしょう、私に命令をした偉い人」

「ええ、王様と王妃様でしょう」

「そうなの」

「しかも、しびれ薬だったのよね」

「ええ、風邪薬に、あるものを配合した。簡単なしびれ薬よ」

「な~んだ」

 ベティとは、何とか笑って話せた。

「もう一週間もすれば、王子の成人なのね」

「ええ」

 ベティは、暗い顔で頷いた。

「王子は、アイシャさん以外の方と結婚なさるのでしょうか?」

「さあ?」

 アイシャは、明るくそう言った。

「でも、それでもいいと思うわ」

「ダメですよ、だって、アイシャさん、今の自分の顔がどうなっているか、分かっていますか?」

「えっ!」

 アイシャは、焦った。

「とても苦しそうで悲しそうだと、顔に書いてあります」

「そう」

 アイシャは、泣きたい気持ちを飲み込んだ。

(大丈夫)

 強気に構えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ