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「王子! 王子!」
王子は、呼吸はしているが、苦しそうだ。
「アイシャ、俺は、王子を運ぶ、君は、ここの会議室の人を留めておいてくれないだろうか?」
マティスがそう言って部屋を出て行く。
(え~私にそんなことが出来るの?)
焦っていると。
「何事なの?」
ケルペット夫人が興奮している。
「あっ、あの、実は、王子には、殺すと言う脅迫が来ていたのです」
「殺し!」
「まあ」
みんな驚いている。
「それじゃあ、毒が入っていたのね」
ケルペット夫人が紅茶を置いた。
「私達の紅茶も危ないわ」
ケルペット夫人が、大騒ぎしている。
「皆さん、落ち着いてください、皆様は、これから、しばらくこの部屋にいてもらう事になります」
「そうね、早くしてよ」
「まず、毒を入れた犯人を見つけましょう」
アイシャは、みんなをぐるっと見つめた。
(みんな怪しい)
心の中では、そう思ったが、言わなかった。
「紅茶に触れたのは誰?」
「そんなの、王子と給仕だけに決まっているわ」
「王子と給仕だけ?」
アイシャは、少し考え込んだ。
「カップを変えた人がいる可能性は?」
テーブルに置いてあるティーカップは、すべて同じ柄である。
「あるかもしれないわね」
ケルペット夫人が、扇子を口に当ててそう言う。
(犯人が、この中にいるのね)
アイシャは、冷や汗をかいた。
「それでは、カップの中身が毒ではないか、調べてもらいましょう」
そう言って、薬師を呼んだ。
「このカップも大丈夫、このカップも大丈夫」
薬師は液体を入れて、そう言っている。
「一体、なんの毒なの?」
「特殊な薬ですね」
「薬? 毒ではないの?」
ケルペット夫人が、扇子を持って強気にそう言う。
「はい、薬草から作った物ですね」
薬師は、そう言って、全員のカップを調べ終えた。
「さて、毒を持っていないか、体を見てもいいですか?」
「身体検査ですか?」
「はい」
「冗談じゃないわ、このドレスを着るのが、どれだけ大変だったか」
「それなら、あなたが犯人なのですか? ケルペット夫人」
「いいえ、また着替えるのが嫌なだけですわ」
「そうですか、安心してください、一人一人、侍女も手伝います。お手数かけますが、ご協力をお願いします」
そうして、一人一人身体検査が始まった。
「ポンポル様、失礼します」
「いいのよ、老婆の体なんて、見ても仕方がないでしょう」
そう言って、ポケットの中や、レースの隙間も見た。
「問題ないですね」
その後、隣の部屋から、ケルペット夫人が入って来た。
「早くして頂戴」
「はい」
そう言われてみると、薬がポケットから出てきた。
「これは?」
「風の予防薬です」
「本当ですか?」
「本当よ」
ケルペット夫人は、言い張るが、怪しいので、回収した。
☆ ♪ ☆
そのうち、男性の身体検査が終わり、ケシャルの王とケルペット夫人だけが呼び出された。
「薬を所持していたのは、この二人です」
「ふざけないでください、私は無実よ」
ケルペット夫人が叫ぶ。
「フラルは、実は体が弱いんだ」
偉そうなケルペット夫人が病弱だとは、とても思えなかった。
(怪しい)
心の中では、ケルペット夫人が犯人だと思っていた。しかし、証拠もなしに、決めつけてはいけないのだ。
「今、薬師が調べてまいります」
そう言って、薬を調べてもらった。
☆ ♪ ☆
一時間後、薬師が戻って来た。
「二人共、陽性です」
「うそっ! 二人共?」
アイシャは、困惑した、
(二人って事は、まだ、犯人は、分からない)
「ふざけないで、私は、風邪薬と聞いていたわ」
ケルペット夫人は、いつも通り逆上している。
「ケシャルの方が、入れたのでしょう、あなたのフリージア姫が、婚約を断られた腹いせに」
ケルペット夫人は、偉そうにそう言った、
「違う」
ケシャルの王は、弱気だ。
(ケシャルの王様が犯人なのかしら?)
少し考えてみれば、どちらが怪しいかわかると思っていた。しかし、わからない。
(どっちなの?)
「そもそも、私は、カップを入れ替えられるところには、いなかったわ」
ケルペット夫人の席は、王子から中々遠く、腕を伸ばした位では届かないのだ。
「それに比べてケシャルの王様は、目の前じゃない」
ケルペット夫人は、勝ち誇った様にそう言った。
(ケシャルの王様が怪しいのかしら?)
じっと、ケシャルの王を見た。
(そう言えば、私も毒を盛られていたのよね?)
今は、体がすっかりよくなったが、アイシャにも攻撃していたのだ。
(やっぱり、ケシャルの王様なら、私がじゃまだから、仕掛けてもおかしくない)
まだ、二人残っているのだ。決めつけてはいけない。
(ケルペット夫人は、私が、失脚しても何も起こらない)
やはり、怪しいのは、ケシャルの王様。
(そういえば、ずっと、黙っているわね)
ケルペット夫人に押されていたのかと思ったが、そうでもないのかもしれない。
「ケシャルの王様、あなたが犯人ですか?」
「いいえ、私には、会議を止めても何の得もありません」
(そう言えばそうね)
一体、だれが?
頭をひねっていると。
「ねえ、給仕の女が怪しいんじゃないの?」
ケルペット夫人がそう言って、怒っている。
(給仕係は、ベティ!)
よく考えれば、ベティが裏切ったのなら、簡単に毒を入れられる。
(まさか、ベティがやったの?)
汗が噴き出す。
「そんなわけがない、べティがそんなこと……」
「あなたの親しい人だったの? でも、裏切ったのかもしれないわよ」
ケルペット夫人は、怪しく笑う。
(違う、違う、ベティじゃない)
心の中でそう思う。
「さあ、そのベティとか言う子を呼びなさい」
ケルペット夫人が大声でそう言う。
「呼ぶだけなら、いいですよ」
「そう、よろしく」
ケルペット夫人は、余裕そうにそう言った。
☆ ♪ ☆
そして、ベティが呼び出された。体を調べられたが、何も出て来なかった。
「これでも、ベティを犯人呼ばわりするの?」
ケルペット夫人に怒りを込めてそう言った。
「ええ、だって、あの子は、外に捨てることが出来たもの」
ケルペット夫人は、食い下がらない。
「ベティ、やってないよね」
「え、ええ」
「友達同士で確認なんて、一番怪しいわ」
ケルペット夫人は怒り狂っている。
少しだけ漂う違和感があった。
(何か違うような)
ケルペット夫人の必死さが変なわけじゃない、ケシャルの王様が黙っているのも変じゃない、でも、何か違う。
「ベティ、もしかして、ベティがやったんじゃない?」
「いいえ」
ベティの言い方は、迷いがなかった。
(ベティじゃない)
答えが見えない。
その時、薬師が、ベティの靴の間に、粉が付いている事に、気が付いてしまったのだった。
「これは、何ですか?」
「えっ!」
ベティは、軽く青ざめる。
「べティ、あなたが犯人だったのね」
「ばれたら仕方ないわね」
ベティは怪しく笑った。
「ある方の命令でやったのよ、その人の事は、言えないけれど、とても偉い方だと言う事だけは、言っておくわ」
「ベティをつかまえて」
ベティは、おとなしく捕まった。
「ほら、やっぱり、給仕の子だった」
ケルペット夫人のいい方も今は気にならなった。
(ベティが裏切るなんて……)
信じられなかった。
(偉い人に命じられたと言っていたわ)
ベティは、誰かのためにやっているのね。
そう思うと、犯人は、まだ別にいるのだ。
そこに、マティスがやってきて。
「ベティが犯人だったのか?」
「ええ」
「ショックだろうけど、気にするな」
マティスは優しく頭を撫でてくれた。
「うん」
「それで、ベティは、何かを言っていなかったか?」
「ええっと、すごく偉い人に頼まれたって言っていたわ」
「そうか、それなら、まだ、ベティは主犯じゃない、だから、重い罪に問われたりはしないだろう」
マティスは、ベティの事を心配しているアイシャを元気づけようとそう言ったのだろう。
「主犯を探さなくちゃ」
「そうだな、やっぱり『グリーンボール』か?」
マティスが、そう言っているので。
「何それ?」
「王子を恨む集団だよ、『グリーンボール』『プラチナ』『レッドバード』って言うやつらがいるんだ」
「その中で、王子と私を苦しめて得をするのは?」
「『プラチナ』かな?」
「それなら、そこが怪しいわ」
「まさか、『プラチナ』とはな……予想外だった。てっきり別なやつらなのかと思っていたよ」
マティスが怪しく笑う。
(えっ?)
「ベティは『プラチナ』の信者だったのか」
マティスは、困った顔でそう言った。
「犯人が分かったのなら、あとは任せろ」
「お願いします」
「よくやったアイシャちゃん」
マティスは、そう言っていなくなった。
(これでよかったのよね)
まだ、終わっていないことを思い出した。
(王子、大丈夫かしら?)
急いで医務室へ向かった。




