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音の子  作者: 花言葉
音の無い王子
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2

 その日から、女の子を巡る日々が始まった。

 まず、城下町で、王子のお見合いだと言って、女を集めた。マティスには、音の子の事は、王妃から、伝えてあった。

「王子が何を考えているか当ててください」

「私がかわいい?」

「王子答えは」

『ポーチドエッグ』

「はずれです」

 マティスと嫁選びが始まり、焦っているように見せていた。

「しかし、百単語の中からベルツが適当に言葉を選んで、当たる子なんて本当にいるのかね?」

 単語にしたのは、分かりやすい上に、当てづらいと言う考えがあるからなのだ。

『当たったら、それが音の子だ』

「まあ、そうだね」

 ベルツは、少しばかり人に合うのが苦手だったので、たくさんの人と見合いをして、とても疲れたようだった。

「ベルツ、大丈夫?」

『まあね』

(インク壺と鈴をつけた俺を見て、みんな笑っていたに違いない)

 心の中でうじうじしてしまった。

「ベルツ様――」

 外から女の声が聞こえる。

「王族になったら、金と権力が手に入るから、お見合いに行ったのに、ベルツ様、全然相手する気なかったわよ」

「そりゃあ、私達庶民ですから」

「でも、私を選んでくれないとか最悪」

「それは、みんな思っているよ」

「口もきけないくせに、偉そうにするなよな」

キャラキャラ笑って女達はいなくなった。

「うわ~、最低」

 マティスが引いていると。

『世間の評価なんて、こんなものだ』

 そう書いてうずくまる。

「ショックだったのなら、ショックだったって書いてもいいんだぞ」

(……)

 羽ペンを取って。

『ふざけるな、この女ども、こっちとしても、お前達みたいなのは、願い下げ何だよ、散れ』

「わ~、本音か、なんかいいな」

 マティスが嬉しそうにしている。

 この時ばかりは、本音を書いてよかったと思った。


☆ ♪ ☆


 次の日もその次の日も見合い、見合いの毎日だった。

「次の女性」

「はい」

「王子の手を握って、王子は何を思っている?」

「ペペロンチーノ」

「王子答え」

『マカロニ』

「違う、だめね」

 どうやら、街の女性達は、単語が正解だと言う事をどこかで聞いたのか、単語しか言わなくなった。だが、音の子は見つからず、体力だけが減って行った。

『疲れた』

「そうか、ベルツ、お疲れ」

 休んでいると、むなしくなった。

『こんなことしていても、音の子なんて見つかるの?』

「みつかるよ」

 マティスは、開き直ってそう言った。

『そんな気がしない』

「大丈夫だよ、ベルツ、みつかる」

 頭を撫でられて、安心した。


☆ ♪ ☆


 その日の午後、賢者がまた来ていた。

「王子にお見合いをさせるよりも、同じ日に生まれた人を集めた方がいいのではありませんか?」

 モンネは、そう言っていた。

「音の子は、同じ時間に生まれた子、つまり、同い年の同じ誕生日の姫ですよ」

「そうか、それならば、見つけられそうだ」

「音の子は、運命の子なのよ、王子の将来の伴侶になる位の」

「おお、そうか」

 王とモンネが話をしているのを聞いてしまった。

(運命の子……)

 部屋に帰って、運命の子について考えていた。

(かわいくて、優しくて、いい子だといいな)

 顔を想像すると、ドキドキする。

「やっ、ベルツ」

 マティスが来ていた。

「何を考えていたの?」

『運命の子について』

「音の子の事、キスするんだもの、かわいい子だといいよね?」

(! キス)

 すっかり忘れていた。



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