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その後、三時間がして、マティスが戻って来た。
「外国の人のアリバイを探し出してきた」
マティスは、そう言って、資料を見せてくる。
「ポンポル夫人は、特に問題なし、ケルペット夫妻も問題なし、ここで、フリージア姫が謎の外出をしています。そして、ケシャル国は、それを隠そうとしていた」
『それなら、フリージア姫が怪しいのでは?』
「そう思うよね、しかし、俺の予想だと、フリージア姫は、好きな人に会いに行っていたと言う線がある」
『そうか、一度結婚の話をした国だから、チャンスがあるならもう一度と思っているのかもしれないね』
「そうだろ、それなのに、庶民の彼氏と会っていましたでは、話にならないからね」
『そうか、そうなると、犯人は国内の人間かもしれないな』
「みんな、怪しく見えてくるな」
マティスが考え込んでいた。
『マティス、落ち着いて整理して』
「おう」
マティスは、また、少し考えて。
「動機を考えようと思う」
『なるほど、そう言えば、会議を止めさせるためかもしれないと言っていたよね?』
「そうだ。それなら、『グリーンボール』だ」
『やっぱり、『グリーンボール』が怪しいよ』
「そうだな」
マティスは、三日後。
「ベルツ、『グリーンボール』のスパイから、返事があった」
『『グリーンボール』は、いつも通り金を数えて過ごしています』とのことです。
『『グリーンボール』は、本当にお金が好きだな』
「ああ、手紙には、『人より金、神より金』をモットーに作られた集団だと書いてあったしな」
『そうか』
「それで、この様子だと、今ある金の事でいっぱいいっぱいに見えないか?」
『そうだね、金を数えていると言う事は、まだ、増加させるよりも、把握に力を入れているようだしな』
「そうだろ」
マティスもそう思っていたようだ。
「『グリーンボール』の線は消えた」
『そうだな』
「これなら、次に怪しいのは、フリージア姫になるがね~」
『フリージア姫は、アリバイがないからね』
「でも、この姫、かなり手ごわいみたいですよ」
『何で?』
「恋人が一人じゃないんだ」
『!』
「だから、誰と特定もしづらいし、聞きづらいしでね」
マティスがため息をついた。
『ケシャルの王につないで、何とかしてもらえばいい』
「しかし、ケシャルの王も国の恥は隠したいだろう」
『そうだな』
「男が遊ぶのはいいが、女はダメだろ」
『確かにな』
フリージア姫の肖像画を見ると、落ち着いたかわいらしい女性に見えるので、少し驚いているところがある。
「ケシャルは、何か隠しているぞ」
マティスがそう言って、こっちを見る。
(つまり、ケシャル国が広告の犯人と言う事か?)
マティスを見ていると、そう思えてくる。
『フリージア姫の手下が殺しに来るって事かい?』
「フリージア姫とケシャル国が犯人なら、国を越えてくると、ばれるだろう」
『そうだね』
「だとすると、会議の日が怪しくないか?」
『……そうか、会議の日に殺しに来るのか』
「そうだと思う、だって、この三日間何もなかったじゃないか、つまり、すぐ決行する気はないと言う事だろう」
『でも、フリージア姫と言うのも、仮説だよね』
「ああ、証拠なんてない」
『それなら、別な人の可能性もあるよね』
「まあな、でも、フリージア姫は怪しい」
『でも、会議にフリージア姫は、参加しないよ』
「そうか、それなら、ケシャルの王が」
『そんなに愚かな人にも見えなかったけど……』
マティスの意見が正しいのか、怪しく見えてきたのだ。
「それなら、誰が?」
マティスが慌てていると。
『可能性は低いけど、アイシャも怪しくない?』
「何でだよ」
『私と別れる口実に』
マティスはベルツを平手打ちした。
「そんなわけがないだろう、心配になりすぎて、彼女まで疑い出したか」
『だって、それなら、納得がいく』
「お前がアイシャちゃんに、はっきり拒絶されればあきらめきれると思っているだけだろう」
『!』
「ベルツは、アイシャとの結婚を認められないと不安になっている。それだけだろ、アイシャちゃんを疑うな」
『ごめん』
「アイシャちゃんに謝れよ」
マティスは、そう言って、また考え出した。
「そうか、身内の可能性を忘れていた」
『身内?』
「メイドとか、使用人とかかな?」
『そうか、あの人たちが裏切る理由は、何かはある物』
「そうだよ、給料上げろとか、休みを増やせとかな」
『それだったら、一番いいのにね』
「そうだな」
『でも、メイドか使用人が、殺すと書いても、給料も休みも増えないんじゃないかな』
「脅しだよ、脅し、仕事のうっぷん晴らしだよ」
『そんなことする人がいるの?』
「使用人達は、多いから、一人位は、いるんじゃないか?」
マティスは、呆れたようにそう言った。
『そうか、それなら、狂言か』
「そうみたいだな」
一生懸命考えていたのが、ウソみたいだった。
「正し、警戒を怠るなよ、使用人なら、殺そうと思えば殺れるわけだから」
『わかったよ』
本当は、犯人が特定できていないのだが、すぐに結果が出ることでもなさそうだったので、別れた。
☆ ♪ ☆
会議の日が目の前に来たが、犯人は、動く気配すらなかった。
廊下でアイシャと会い。
『アイシャ、おはよう』
「王子、犯人見つかりましたか?」
アイシャは、心配そうに聞いてきた。
『犯人は、たぶん狂言』
「な~んだ」
アイシャは、ため息をついた。
「でも、それなら、私も安心です」
アイシャは、笑顔でそう言った。
『ありがとう』
なぜかアイシャにとてもそう言いたくなった。
(声は、出せないから、この一言しか言えないな)
心の中でそう思っていた。
「私、あの後、ものすごく、勉強がんばったんです。会議でも恥はかきませんよ」
アイシャは、ガッツポーズをしてそう言った。
『ありがとう』
もう一度書いた。百回位書きたかったが止めた。
「さて、アイシャさん、ドレスの調整をしますよ」
ベティに連れられてアイシャは行ってしまった。
(アイシャ)
変わらない彼女が何よりの救いだった。
「おう、ベルツ」
マティスが正装していたので、驚いた。
『何があったの?』
「王が、危ないから、ベルツの護衛をしてくれって、その衣装合わせ」
『そうか』
「お前、会議中気をつけろよ、会議中、何か起こるらしい」
(何か、起こる!)
それは、ベルツが狙われると言う事なのか?
(もしかして、狙われているのは、アイシャ?)
アイシャの元へ行くとアイシャは寝込んでいた。
『何かあったの?』
「微量の毒が入っていて」
(毒!)
「やめて、言わないで」
「ここ一週間で、二回目です」
『アイシャ!』
「大丈夫、ごく微量で、殺す気なんてないみたいだから」
(これは、警告だ)
ベルツは、そう思った。
犯人は、『プラチナ』だ。アイシャを狙うとしたら、それしか考えられなかった。
(やっぱり、アイシャとの結婚は、アイシャを苦しめてしまうのか?)
目の前の寝込んでいるアイシャを見ると、どうしてもそう思ってしまう。
「大丈夫だから」
『アイシャ! もういい』
「大丈夫よ、明日の会議がんばらせて」
『わかった。それが最後だ。無事に終わらせて、エルガドに帰って』
「……王子?」
弱気にベルツが立っていた。
(ああ、アイシャを苦しめる位なら、あきらめよう)
初めてそう思えた。
☆ ♪ ☆
そして、会議の日の朝、ベルツは、覚悟を決めた。
(アイシャとキスして、お別れしよう)
それが、一番なのだ。決意を決めて、正装に着替えた。




