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音の子  作者: 花言葉
姫になるとは
15/24

4

 そのころ、ベルツは、マティスといた。

「よく考えるんだ。アイシャちゃんが立てこもっているのは、なぜかって」

『アイシャは、姫になりたくないからね』

 ベルツは少し不機嫌だ。

(あれだけ伝えたのに、まだダメなのか)

 イライラしてしまっていた。

「ベルツは、庶民と王子の結婚を簡単に考えすぎだと思うぞ」

 マティスはそう言って、ベルツを見る。

『そんなに大変なことなのかな?』

「それりゃあ、国と国をつなげるチャンスを捨てて、金も権力もない女と結婚なんて、今ですら陰口がすごいのに、もっとひどくなるぞ」

『それは、俺は気にしない』

「お前はな、でも、アイシャちゃんは? お前以上に言われるんだ。身分がないから、それでも、アイシャちゃんが幸せになれると思うか」

『……』

 ベルツは、黙ってしまった。

(そんなにアイシャに負担がかかるのか、嫌と言うのもわかる気がする)

 アイシャは、庶民なのだ。悲しい位に。

(俺が王子でなければ、すぐに連れ去るのに)

 心の中では、自分の位の高さを呪っていた。

「まあ、考えてみれば、貴族の女性とか、姫なら文句は言われないんだから、そいつらに乗り換えると言う手もあるな」

(乗り換える……)

 嫌な気持ちになった。

(アイシャじゃなくちゃいやだよ、好きなんだから)

下を向いてそう思っていた。

「あれ~? アイシャちゃん意外とは、考えたくもないって顔だね」

 マティスがそう言ってからかう。

『実は、そうなんだ』

「恋しているんだな」

『うん』

「それじゃあ、冷めるまで、時間がかかるな」

(冷める?)

 アイシャをあきらめると言う事だろうか。

(アイシャの事をあきらめるなんて、出来るのだろうか?)

「百年想い続けることができるのは、片思いと叶わぬ恋だけ、ベルツは、百年も引きずるなよ」

『引きずってしまいそうだ』

「それでも、王族なら、権力のために結婚するべきだ」

『そうか……』

 ベルツは、考えこんだ。

(愛する、愛している。愛される……)

 途方もない話のような気さえしてくる。

(アイシャは、愛してくれても、忘れなければいけない相手なのだろうか?)

 実際はそうだとわかっていた。しかし、好きなのだ。

(どうしたらいいのだろう)

 ぼ~、と考え込んでいると。

「ベルツ、ベルツ、大丈夫か?」

『大丈夫』

 マティスが声をかけてきたので、そう書いた。

「悩んでいるなら、アイシャちゃんへの愛は本物って事さ」

『本物だよ』

「だって、ベルツ、本当は、わがまま言ってアイシャちゃんを姫にしたいんでしょう、ずっと一緒にいたいんでしょう」

『……』

 ベルツの答えは、「はい」だったので、書けなくなってしまった。

「でも、それは、やめた方がいいぞ、悲しい結末を産むだけだ」

 マティスが冷たくそう言う。

(わかっているんだ本当は……)

 ベルツは強く手を握りしめた。

(アイシャのいない城になるのだろうな)

 それは、想像するだけで切なくて、悲しくて、水の中に沈んでいくようなそんな感覚だった。

(嫌だ。嫌だ)

 心の中に重い石がのっかったような気持ちもした。

(アイシャ)

 手足をもがれるようなそんな痛みのようなものも感じた。

「大丈夫か、ベルツ?」

『アイシャと離れたくないよ』

 ベルツは、涙目でそう書いた。

「そうか、しょうがないやつだな」

 マティスは、ベルツが落ち着くまで側にいた。そのうち目が開かなくなって、ソファで寝ていた。

(ここは、部屋か)

 目が覚めると、マティスの上着がかかっていた。

(マティス、ありがとう)

 心の中でそう思っていると、べティがベルツの元へ来た。

「マティス様が、アイシャ様を口説いています」

(へ?)

「迷惑ですから、回収してください」

『わかった』

(俺が寝ているうちにアイシャを手に入れようとしたのか?)


☆ ♪ ☆


 アイシャの部屋に向かうと。

「好きなら、なぜ、断るんだ」

「だって、私は、庶民です」

 アイシャとマティスが言い合いをしているようだ。

「君は、ベルツが好きなんだろう」

「ええ、好きよ、でも、私じゃダメなの」

「ベルツは、アイシャちゃんの事本当に想っているんだ」

「知っています」

「俺から頼みたいんだ。城に残ってくれないか?」

「嫌です」

「そこを何とか」

 チリンチリンと音がして、マティスが振り返る。

「ベルツ! 聞いていた?」

『うん』

「あ~、その、ベルツ、悪い、こんなことをして……」

 マティスは反省しているようだ。

『アイシャに無理やりいう事を聞かせようと思ったの?』

 ベルツは怒っていた。

「ベルツ、だって、お前、アイシャちゃんの事が好きだろう」

『そうだけど、こんなの違う』

「でも、ベルツ、何とかしてあげたかったんだ。俺は、ベルツが幸せになれないのは、嫌だからさ」

『マティス……でも、アイシャの幸せも大事』

「わかっている。でも、でもな、ベルツを放っておけなくてな」

 マティスは、苦笑いしていそう言った。

『それは、うれしい』

 ベルツが微笑むと、マティスは。

「ベルツ、悪かった」

 その時、アイシャが赤い顔をしている事に気づいた。

『アイシャ? どうしたの?』

「聞いていたのよね?」

『ああ、私を好きって事?』

「いやー、ばれている」

『アイシャ、君が私を想ってくれているのなら、城に残ってくれないか?』

「絶対にいや」

 アイシャは、強くたんかを切った。

「私は、エルガドに帰るのよ!」

 力いっぱいそう言って、マティスとベルツを追い出した。

「とんだお嬢さんだね」

『そうだね』

 マティスと笑い合っていた。

「アイシャちゃんは、好きだからこそ遠慮してくれているのかな?」

『好きだから?』

「自分のせいで、ベルツが悪いことに合うって、そう思っているのかも」

『そんな、二人で乗り越えたのに……』

「その、乗り越える覚悟が決まらないのかな?」

『そう言う可能性もあるの?』

「まあ、女の子は複雑だから」

 マティスはそう言って開き直る。

「それより、近々、また会議があるそうだよ」

『そうか、また通訳をしてもらわなくちゃ』

「ベルツは、キスをする気がないんだな」

『だって、アイシャが逃げちゃうから』

「縛っているんだな、悪いやつだな」

『その位は、ずるくやらなくちゃね』

 マティスと笑っていた。


☆ ♪ ☆


 そして、ベルツは、書類に目を通す時間があったので、書斎で見ていた。

『パーム橋、改築への寄付金』

 その桁は、数百万と書いてあった。

(妥当だろう)

 ポンと判を押した。

(会議か……)

 アイシャは、また、余計な気を聞かせて、どこかの姫との結婚を承諾してしまうかもしれない。

(アイシャは、それが正しいと思っているんだ。仕方がない)

 しかし、必ず断ると決めているので、アイシャがいいと言っても断る決意でいた。

(アイシャ)

 ぼ~とアイシャの事を考える。

(はっ、いけない、仕事をしなくては)

 急いで、書類に目を通す。


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