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音の子  作者: 花言葉
姫になるとは
12/24

1

 次の日、姫候補生が決まった事は、大々的に広まっていた。

「アイシャさんは、すっかり有名人ね」

 ベティは、アイシャにそう声をかけている。

「何で、こんなことに~、私は、精一杯お断りしたつもりないのに~」

 アイシャは、悲鳴を上げていた。

「今日から、レッスンが始まるそうよ」

「うげっ」

「その下品なしゃべり方もしっかり直しましょうね」

「ベティ、逃げたい」

「ダメですよ」

 アイシャは、部屋で、カンカンに怒っていた。

(何なのよ、王子って……)

 イライラしていた。

 ところが。

「「アイシャ様」」

 たくさんの女の人が、部屋に入って来た。

「私は、食事指導の女です」

「私は、ダンス指導です」

「私は、歩き方指導です」

「私は、言葉指導です」

(目が回る~)

 アイシャは、一回気絶した。

「「アイシャ様~」」

(いやよ、こんなの)

 心の中で、そう思っていた。


☆ ♪ ☆


 気づくとベッドの上にいた。

「お目覚めですね、アイシャ様」

 ベティが林檎をむいてくれていた。

「お疲れだったのでしょうね、倒れてしまいなさって」

「は、夢だったの?」

「いいえ、夢ではありませんよ、あなたが姫候補なのは、まぎれもない、事実でございますよ」

「いや~」

 もう一回倒れた。

「あらあら、王子も大変ですね、この方をお好きなんて」

 ベティは林檎をむきながらそう言っていた。

 そして、目が覚めると、女の人がたくさんいた。

「ひ~」

「レッスン、始めさせていただきます」

 ネグリジェのまま、連れていかれてしまった。

「あの~、林檎、私、食べちゃいますよ」

 ベティは、そう言ってお見送りしてくれた。

(いやだ。姫なんて、私には、出来ない……!)

 それから、レッスンが始まった。

「歩き方は、もっと背筋を伸ばして」

「ひ~」

 アイシャは、涙目だった。

「ドレスは、どのサイズでしょうね」

 ドレスルームに連れられて、大量のドレスを見せられる。

(目がチカチカする)

 困っていると。

「うん、寸法を測った方が早そうね」

 女の人がメジャーを持って歩いて来る。

「私は、仕立屋で働いていた経験がございますから、心配なさらずとも、立派な物が仕上がりますわ」

 メジャーが腕に回される。

(ひ~)

 アイシャは、怖がっていた。

(みんな、姫って、こんなことされるのかしら?)

 ぽたぽた汗が落ちる。

「まあ、緊張なさっていますのね、レディとして、それではいけませんよ」

「は、はい」

(レディになんてなる必要はないのよ)

 心の中では、そう思っていた。

(いや、いや、嫌だわ)

 辺りを見て、冷や汗が止まらない。

「どうしたのですか?」

「私は、こんなの望んでいないわ」

「逃げる気よ」

「押さえておきなさい」

 女の人に強く腕を握られて動けない。

(もう、こんなのいや!)

 アイシャは、逃げ出したくて仕方がなかった。

「よく考えてみて、アイシャさん、あなたは姫候補です。のちの姫君になるのですよ、そんなのでは、いけません」

「私は、そんなの望んでないんだってば」

「まあまあ、そんな言葉使いじゃダメですよ」

「いいのよ」

 アイシャが抵抗している時、ドアを叩く音がした。

「はい、今、取り込み中ですが」

 リンリンと音がした。

(王子だ)

 アイシャは、藁をもつかむ思いで、王子に駆け寄ろうと思った。

『皆さん、こんにちは』

「こんにちは」

『アイシャのレッスンは、うまくいっていないみたいだね』

「すみません」

「ちょっと、王子がこれを用意したの?」

 アイシャは、ベルツに向かってそう言った。

「私は、姫になることなど、望んでいません」

『知っているよ』

「だったら、私を解放して」

『いやだ』

「何でよ」

『君を縛っておきたいんだ』

「王子、そんなこと言っていいんですか、それなら、あなたに音を返さず、逃げて差し上げますよ」

『アイシャは、しないよ、音を返すまで、いるでしょう』

 王子は、笑顔でそう言う。

(私は、どれだけ信頼されているのよ)

 王子の信頼には、なぜかこたえなければいけないような気がしてくる。

「わかったわ、でも、王子、私に疎まれていることを忘れないでね」

 王子は顔を青くして。

『そんなつもりじゃないんだ』

「じゃあ、どんなつもりなんですか? こんな状態にして」

 アイシャは、力強く足を前に出して言った。

『アイシャ、太ももが見えている』

 ドレスを着る用の下着姿だったことを思い出した。王子は赤い顔をしている。慌てて隠すと。

『立て込んでいるみたいだから、また』

 赤い顔をしていなくなった。

(王子~)

「さあ、レッスンを始めましょう」

(うぎゃ~)

 コルセットの調整が始まり、アイシャの悲鳴は、やまなかった。

「ぐぎゃあ、ぐぎゃあ」

「そんなに苦しいのですか、城では、このサイズがベストなのですよ」

「山……育ちだから……ごめんなさい」

 絞り出すような声でそう言った。


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