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次の日、姫候補生が決まった事は、大々的に広まっていた。
「アイシャさんは、すっかり有名人ね」
ベティは、アイシャにそう声をかけている。
「何で、こんなことに~、私は、精一杯お断りしたつもりないのに~」
アイシャは、悲鳴を上げていた。
「今日から、レッスンが始まるそうよ」
「うげっ」
「その下品なしゃべり方もしっかり直しましょうね」
「ベティ、逃げたい」
「ダメですよ」
アイシャは、部屋で、カンカンに怒っていた。
(何なのよ、王子って……)
イライラしていた。
ところが。
「「アイシャ様」」
たくさんの女の人が、部屋に入って来た。
「私は、食事指導の女です」
「私は、ダンス指導です」
「私は、歩き方指導です」
「私は、言葉指導です」
(目が回る~)
アイシャは、一回気絶した。
「「アイシャ様~」」
(いやよ、こんなの)
心の中で、そう思っていた。
☆ ♪ ☆
気づくとベッドの上にいた。
「お目覚めですね、アイシャ様」
ベティが林檎をむいてくれていた。
「お疲れだったのでしょうね、倒れてしまいなさって」
「は、夢だったの?」
「いいえ、夢ではありませんよ、あなたが姫候補なのは、まぎれもない、事実でございますよ」
「いや~」
もう一回倒れた。
「あらあら、王子も大変ですね、この方をお好きなんて」
ベティは林檎をむきながらそう言っていた。
そして、目が覚めると、女の人がたくさんいた。
「ひ~」
「レッスン、始めさせていただきます」
ネグリジェのまま、連れていかれてしまった。
「あの~、林檎、私、食べちゃいますよ」
ベティは、そう言ってお見送りしてくれた。
(いやだ。姫なんて、私には、出来ない……!)
それから、レッスンが始まった。
「歩き方は、もっと背筋を伸ばして」
「ひ~」
アイシャは、涙目だった。
「ドレスは、どのサイズでしょうね」
ドレスルームに連れられて、大量のドレスを見せられる。
(目がチカチカする)
困っていると。
「うん、寸法を測った方が早そうね」
女の人がメジャーを持って歩いて来る。
「私は、仕立屋で働いていた経験がございますから、心配なさらずとも、立派な物が仕上がりますわ」
メジャーが腕に回される。
(ひ~)
アイシャは、怖がっていた。
(みんな、姫って、こんなことされるのかしら?)
ぽたぽた汗が落ちる。
「まあ、緊張なさっていますのね、レディとして、それではいけませんよ」
「は、はい」
(レディになんてなる必要はないのよ)
心の中では、そう思っていた。
(いや、いや、嫌だわ)
辺りを見て、冷や汗が止まらない。
「どうしたのですか?」
「私は、こんなの望んでいないわ」
「逃げる気よ」
「押さえておきなさい」
女の人に強く腕を握られて動けない。
(もう、こんなのいや!)
アイシャは、逃げ出したくて仕方がなかった。
「よく考えてみて、アイシャさん、あなたは姫候補です。のちの姫君になるのですよ、そんなのでは、いけません」
「私は、そんなの望んでないんだってば」
「まあまあ、そんな言葉使いじゃダメですよ」
「いいのよ」
アイシャが抵抗している時、ドアを叩く音がした。
「はい、今、取り込み中ですが」
リンリンと音がした。
(王子だ)
アイシャは、藁をもつかむ思いで、王子に駆け寄ろうと思った。
『皆さん、こんにちは』
「こんにちは」
『アイシャのレッスンは、うまくいっていないみたいだね』
「すみません」
「ちょっと、王子がこれを用意したの?」
アイシャは、ベルツに向かってそう言った。
「私は、姫になることなど、望んでいません」
『知っているよ』
「だったら、私を解放して」
『いやだ』
「何でよ」
『君を縛っておきたいんだ』
「王子、そんなこと言っていいんですか、それなら、あなたに音を返さず、逃げて差し上げますよ」
『アイシャは、しないよ、音を返すまで、いるでしょう』
王子は、笑顔でそう言う。
(私は、どれだけ信頼されているのよ)
王子の信頼には、なぜかこたえなければいけないような気がしてくる。
「わかったわ、でも、王子、私に疎まれていることを忘れないでね」
王子は顔を青くして。
『そんなつもりじゃないんだ』
「じゃあ、どんなつもりなんですか? こんな状態にして」
アイシャは、力強く足を前に出して言った。
『アイシャ、太ももが見えている』
ドレスを着る用の下着姿だったことを思い出した。王子は赤い顔をしている。慌てて隠すと。
『立て込んでいるみたいだから、また』
赤い顔をしていなくなった。
(王子~)
「さあ、レッスンを始めましょう」
(うぎゃ~)
コルセットの調整が始まり、アイシャの悲鳴は、やまなかった。
「ぐぎゃあ、ぐぎゃあ」
「そんなに苦しいのですか、城では、このサイズがベストなのですよ」
「山……育ちだから……ごめんなさい」
絞り出すような声でそう言った。




