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そして、会場に入って行く。会場の壁には、絵画が飾られており、高価な机と高価な椅子は並べただけになっている。紅茶を出されているが、ピリピリした雰囲気までは、解消できないようだ。
「あー、皆さん、ベルツ王子と通訳のアイシャだ」
「アイシャ・カーネストです」
ドレスの裾を持って頭を下げる。その姿は、レディだった。
「まあ、通訳なんて、しゃべれない相手にできるの?」
「私には、彼の声が聞こえてくるのです」
「賢者か何かなのかしら?」
「ええ、まあ、そうです」
『いきなり絡んできたのは、フラル・ケルペット夫人、貴族の夫人』
この言葉は、アイシャに直接言っているので、周りには聞こえない。ケルペット夫人は、大きな宝石をたくさん指に着けていて、お金を持っていることをアピールしているようだった。
「それで、賢者さん」
「いいえ、アイシャと気軽に呼んでください、何分賢者は庶民なので」
「そうなの、それじゃあ、アイシャ、その歩き方はやめた方がよくてよ」
「えっ?」
『少し足のふり幅が大きいんだ』
「そうですか、何分庶民なので」
「そうね~、庶民と言う感じね」
「さあさあ、皆さん、話し合いを始めましょう」
一番年を取っている女の人がそう言った。年だけに落ち着いているようだ。
「今日は、その女の子をいじめに来たんじゃないからね」
「私がいじめなどしませんわ!」
ケルペット夫人は、声を荒らげた。
「そう見えただけですよ」
ケルペット夫人は、怒って座った。
『ポンポルおばあさんは、いつもすっきりするな』
王子が手を伝えてそう言ってくる。
「そう言えば、ゲンドル国の橋が、改装が必要なんだってな」
「まあ、ゲンドルと言う事は、恋人橋と言われた。パーム橋の事ね」
「そうです。伝統の物がなくなるのは、寂しいですね」
「それで、その予算なのですが、少し貸してくれないでしょうか、一流のデザイナーにデザインしてほしい物で」
「まあ、パーム橋なら、二代目もきれいでいてほしいな」
「お願いします」
『聞き取れた? アイシャ?』
ウインクしてきたので、分かったのだろう。
「そう言えば、王子、そろそろ結婚などどうかね?」
『い、いや、いい』
「え~と」
アイシャが困ったふりをする。
「我がケシャル国の姫フリージアは美人だぞ」
『お断りして』
「どんな方なのですか?」
『アイシャ!』
「ああ、いい子だよ、ケシャル国は裕福だから、アギスト王国と結婚したら、必ず栄えるだろうね」
「それは、良い話ですね」
『アイシャ!』
「王子もそう思うか?」
『アイシャ、断って』
「はい」
『アイシャ』
「今度は、写真を送らせてくれ」
「楽しみにしています」
『アイシャ! 何を言っているんだ』
「ケシャルとアギストが結婚ね。いいんじゃない、フリージア姫がかわいそうかもしれないけど」
「失礼よ」
辺りで、くすくす笑いがこぼれる。
「アギストは、パーム橋の事は、協力してくれるか?」
『それは、協力して』
「協力すると言っております」
「そう、それなら、楽しみにしているわ」
会議は、主にパーム橋について盛り上がったが、ベルツは、アイシャの事が許せなかった。
「いい会議だったわ」
人がどんどん帰って行く。
☆ ♪ ☆
そして、アイシャとベルツは二人きりになった。
『アイシャ、手を離さないでね』
「えっ?」
「俺は、怒っている」
「ええ?」
「アイシャは、ケシャルのフリージア姫との話を断らなかった」
「だって、王子は、結婚した方がいいですよ、相手がしてもいいと言っているのに、断るのですか?」
「俺は、いつも断って来たんだ。結婚なんてするつもりはない」
「それは、しゃべれないからですか?」
アイシャは、目をきつくしてそう聞いた。
「ああ」
「それなら、今、ここでキスをしましょう。そうすれば、すべて解決じゃないですか」
「できない」
「王子は、私に魅力がないから出来ないのですね」
「違う」
「王子は、勝手ですよ。音が欲しいくせに、キスをしてくれないなんて、私、離れられないでしょう」
アイシャは、泣いていた。
「アイシャ」
焦ってそう言うと。
「王子は、何がしたいのですか? 私を縛り付けたいんですか?」
「……」
困っていると。
「私は、王子の事を好きになりそうで怖いです」
「!」
びっくりしていると。
「もう、やめてください。私は、身分違いの恋なんてしたくない。だからキスをして下さい」
「いやだ」
「王子!」
「君はわかっていない、俺の事を。俺は、フリージア姫との結婚を断る」
「何で、何で……」
「一日頭を冷やさせてくれ」
ベルツは、そう言って、部屋を出て行った。
☆ ♪ ☆
しかし、王子は、部屋に戻ると。
(アイシャに言い過ぎてしまった)
ものすごく反省していた。
(確かに、俺はアイシャを縛り付けているのかもしれない)
心の中で罪悪感が生まれた。
(でも、好きになってしまいそうだって……)
少しニタニタしていた。
「おーい、ベルツ」
部屋のドアを叩く音がする。ドアを開けると。
「よっ」
マティスが立っていた。
「アイシャちゃんとけんかしたんだって」
(話が伝わるのが早いな)
驚いていると。
「アイシャちゃん、フリージア姫との縁談を受けちゃったんだって?」
『ああ』
「それは、困ったね」
『アイシャは、俺に結婚してほしいらしい』
「それは、あれだよ、きっと、身分違いの恋を終わらせたいからだよ、脈ありってやつだよ」
『そうなのか』
「ベルツ、いっそ、アイシャちゃんを無理やり姫にするのはどうだい?」
『無理やり姫に?』
「そう、無理やり姫にしちゃうの」
『いいのかな?』
「アイシャちゃんは、たぶん、怒るだろうけど、一度姫にしてしまえばこちらの物だと思うぞ」
『そうか?』
「アイシャちゃんが、好きなんだろう」
『うん』
「じゃあ、やるべきだ」
マティスは、そう言って部屋を出て行った。
(無理やり姫にする)
考えもしなかった。
(アイシャは、怒るだろう、でも、そう言う関係になれば、離れられない)
アイシャを何としても手に入れたかった。
「よし、やろう」
☆ ♪ ☆
その後、王と王妃がそろっている所で。
『アイシャを姫にしたい』
と書いた。
「ベルツ、何事だ!」
「庶民の娘にそこまでしなくてもいいじゃない」
王妃と王は、反対の様だ。
『好きなんです。アイシャが』
「だが、お前は、王子だ。結婚するなら、どこぞの姫としなさい」
『嫌だ』
「ベルツ」
王は、困っている。
「それでは、姫候補の方と言う事で、城に置きましょう。だから、手は付けてはいけませんよ」
『はい』
ベルツは、まず、それで満足だった。
(アイシャといられるんだ)
心がウキウキした。
その夜は、アイシャと結婚する夢を見ていた。




