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音の子  作者: 花言葉
権力者
11/24

3

 そして、会場に入って行く。会場の壁には、絵画が飾られており、高価な机と高価な椅子は並べただけになっている。紅茶を出されているが、ピリピリした雰囲気までは、解消できないようだ。

「あー、皆さん、ベルツ王子と通訳のアイシャだ」

「アイシャ・カーネストです」

 ドレスの裾を持って頭を下げる。その姿は、レディだった。

「まあ、通訳なんて、しゃべれない相手にできるの?」

「私には、彼の声が聞こえてくるのです」

「賢者か何かなのかしら?」

「ええ、まあ、そうです」

『いきなり絡んできたのは、フラル・ケルペット夫人、貴族の夫人』

 この言葉は、アイシャに直接言っているので、周りには聞こえない。ケルペット夫人は、大きな宝石をたくさん指に着けていて、お金を持っていることをアピールしているようだった。

「それで、賢者さん」

「いいえ、アイシャと気軽に呼んでください、何分賢者は庶民なので」

「そうなの、それじゃあ、アイシャ、その歩き方はやめた方がよくてよ」

「えっ?」

『少し足のふり幅が大きいんだ』

「そうですか、何分庶民なので」

「そうね~、庶民と言う感じね」

「さあさあ、皆さん、話し合いを始めましょう」

 一番年を取っている女の人がそう言った。年だけに落ち着いているようだ。

「今日は、その女の子をいじめに来たんじゃないからね」

「私がいじめなどしませんわ!」

 ケルペット夫人は、声を荒らげた。

「そう見えただけですよ」

 ケルペット夫人は、怒って座った。

『ポンポルおばあさんは、いつもすっきりするな』

 王子が手を伝えてそう言ってくる。

「そう言えば、ゲンドル国の橋が、改装が必要なんだってな」

「まあ、ゲンドルと言う事は、恋人橋と言われた。パーム橋の事ね」

「そうです。伝統の物がなくなるのは、寂しいですね」

「それで、その予算なのですが、少し貸してくれないでしょうか、一流のデザイナーにデザインしてほしい物で」

「まあ、パーム橋なら、二代目もきれいでいてほしいな」

「お願いします」

『聞き取れた? アイシャ?』

 ウインクしてきたので、分かったのだろう。

「そう言えば、王子、そろそろ結婚などどうかね?」

『い、いや、いい』

「え~と」

 アイシャが困ったふりをする。

「我がケシャル国の姫フリージアは美人だぞ」

『お断りして』

「どんな方なのですか?」

『アイシャ!』

「ああ、いい子だよ、ケシャル国は裕福だから、アギスト王国と結婚したら、必ず栄えるだろうね」

「それは、良い話ですね」

『アイシャ!』

「王子もそう思うか?」

『アイシャ、断って』

「はい」

『アイシャ』

「今度は、写真を送らせてくれ」

「楽しみにしています」

『アイシャ! 何を言っているんだ』

「ケシャルとアギストが結婚ね。いいんじゃない、フリージア姫がかわいそうかもしれないけど」

「失礼よ」

 辺りで、くすくす笑いがこぼれる。

「アギストは、パーム橋の事は、協力してくれるか?」

『それは、協力して』

「協力すると言っております」

「そう、それなら、楽しみにしているわ」

 会議は、主にパーム橋について盛り上がったが、ベルツは、アイシャの事が許せなかった。

「いい会議だったわ」

 人がどんどん帰って行く。


☆ ♪ ☆


 そして、アイシャとベルツは二人きりになった。

『アイシャ、手を離さないでね』

「えっ?」

「俺は、怒っている」

「ええ?」

「アイシャは、ケシャルのフリージア姫との話を断らなかった」

「だって、王子は、結婚した方がいいですよ、相手がしてもいいと言っているのに、断るのですか?」

「俺は、いつも断って来たんだ。結婚なんてするつもりはない」

「それは、しゃべれないからですか?」

 アイシャは、目をきつくしてそう聞いた。

「ああ」

「それなら、今、ここでキスをしましょう。そうすれば、すべて解決じゃないですか」

「できない」

「王子は、私に魅力がないから出来ないのですね」

「違う」

「王子は、勝手ですよ。音が欲しいくせに、キスをしてくれないなんて、私、離れられないでしょう」

 アイシャは、泣いていた。

「アイシャ」

 焦ってそう言うと。

「王子は、何がしたいのですか? 私を縛り付けたいんですか?」

「……」

 困っていると。

「私は、王子の事を好きになりそうで怖いです」

「!」

 びっくりしていると。

「もう、やめてください。私は、身分違いの恋なんてしたくない。だからキスをして下さい」

「いやだ」

「王子!」

「君はわかっていない、俺の事を。俺は、フリージア姫との結婚を断る」

「何で、何で……」

「一日頭を冷やさせてくれ」

 ベルツは、そう言って、部屋を出て行った。


☆ ♪ ☆


 しかし、王子は、部屋に戻ると。

(アイシャに言い過ぎてしまった)

 ものすごく反省していた。

(確かに、俺はアイシャを縛り付けているのかもしれない)

 心の中で罪悪感が生まれた。

(でも、好きになってしまいそうだって……)

 少しニタニタしていた。

「おーい、ベルツ」

 部屋のドアを叩く音がする。ドアを開けると。

「よっ」

 マティスが立っていた。

「アイシャちゃんとけんかしたんだって」

(話が伝わるのが早いな)

 驚いていると。

「アイシャちゃん、フリージア姫との縁談を受けちゃったんだって?」

『ああ』

「それは、困ったね」

『アイシャは、俺に結婚してほしいらしい』

「それは、あれだよ、きっと、身分違いの恋を終わらせたいからだよ、脈ありってやつだよ」

『そうなのか』

「ベルツ、いっそ、アイシャちゃんを無理やり姫にするのはどうだい?」

『無理やり姫に?』

「そう、無理やり姫にしちゃうの」

『いいのかな?』

「アイシャちゃんは、たぶん、怒るだろうけど、一度姫にしてしまえばこちらの物だと思うぞ」

『そうか?』

「アイシャちゃんが、好きなんだろう」

『うん』

「じゃあ、やるべきだ」

 マティスは、そう言って部屋を出て行った。

(無理やり姫にする)

 考えもしなかった。

(アイシャは、怒るだろう、でも、そう言う関係になれば、離れられない)

 アイシャを何としても手に入れたかった。

「よし、やろう」


☆ ♪ ☆


 その後、王と王妃がそろっている所で。

『アイシャを姫にしたい』

 と書いた。

「ベルツ、何事だ!」

「庶民の娘にそこまでしなくてもいいじゃない」

 王妃と王は、反対の様だ。

『好きなんです。アイシャが』

「だが、お前は、王子だ。結婚するなら、どこぞの姫としなさい」

『嫌だ』

「ベルツ」

 王は、困っている。

「それでは、姫候補の方と言う事で、城に置きましょう。だから、手は付けてはいけませんよ」

『はい』

 ベルツは、まず、それで満足だった。

(アイシャといられるんだ)

 心がウキウキした。


 その夜は、アイシャと結婚する夢を見ていた。


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