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10年越しの片思い  作者: 桃塚陽向
第1 章
7/7

あの日の事実

 喜一くんと夏帆が付き合いだして以来、エレナは恋心を閉じ込めておく為にも、女友達との時間を今まで以上に大切にした。

クラスの子たちとはもちろん、小学校から仲良しの美玲とも過ごす時間が増えた。

女友達と過ごす時間は楽しくて、ほんの少しだけど喜一くんと夏帆のことを考える時間が減ってきていた。


堀くんはエレナの気持ちを察してか、あれから距離ができた。

この環境は、入学する前と同じだ。何一つ変わっていない。

喜一くんも堀くんも、結局のところは何を考えていたかわからなかった。


 それからというもの、エレナは『きっと私は誰かを好きになったり、男心を理解することはできないのだろう。』と、思うようになり、今まで以上にクラスメートの男子とも話す機会がなくなっていった。

自分が恋愛不適合者だと感じてしまったから。

他の男子と話していると、ふとした瞬間に喜一くんを重ねてしまうから。

モヤモヤとした心の中の”黒い何か”に支配されたくなくて、そのためには”男子”と距離を取ることが一番だとエレナなりに解釈していた。





 クラスでは休み時間のたびに夏帆が喜一くんにベタベタして、幸せそうに笑っている。周りの子達もニコニコしながら夏帆と喜一くんを取り囲んでいる。

目があうと、エレナに見せつけるかのようにニヤニヤしながら喜一くんの腕に絡みつく夏帆。

溢れてきてしまいそうな恋心に必死で蓋をしようとしているエレナにとって、この空間は嫌で嫌で仕方なく、エレナは休み時間のたびに教室から去った。



 そんな生活を続け、気がつけば3月になっていた。

最近お気に入りの休み時間の過ごし方は、3階の渡り廊下から町並みを見ること。

閉鎖的で嫌気がさす学校生活の中、ほんの少しだけ開放的な気分になれるこの時間はエレナにとって唯一の幸せだった。


「はぁ…。息が詰まるなぁ……。」

「どうして?」

ポツリと漏れたエレナの心の声を聞いたのは、堀くんだった。



「………」

「佐久良…、風邪ひくよ?」

「………」

「ねぇ、あの日からずっと…何でそんなに寂しそうなの?」

「………」

「今更かもしれないけどさ…何であの日泣いてたの?ずっと気になってたんだけど…次の日から佐久良の周りにガードっていうか…近寄らないでオーラがあって話しかけられなくて。ごめん。」

「……」

黙り続けているエレナを見つめながら、堀くんは続けた。



「あの時、俺が困らせるようなこと言ったのが原因だったらごめん。でも、今も気持ちは変わってないし、佐久良のことばかり目で追ってしまう自分がいるんだ。やっぱり佐久良のことが好きなんだ。ずっとずっと好きだった。」

「……ごめん。」

突然の告白に驚きつつも、自然と口から漏れてしまったのはこの一言だった。



「やっと口聞いてくれたと思ったら謝りの言葉?何も謝らなくていいから。」

堀くんは少し悲しそうな顔をしながらもふっと笑いながら、エレナの髪をグシャグシャにした。

「わかってたから。佐久良はさ、奥田のことが好きなんだろ?」

「えっ!?ちが…」

自分だって失ってからしか気付けなかった気持ちを、他の人が気づいてるなんて思ってもみなかったエレナは動揺してしまった。


「いや、分かってるから否定すんなよ!入学して割とすぐ気付いてたから。」

「………」

「奥田かっこいいもんな〜!!男でもいいやつだと思うよ。佐久良が惚れるのも当然と思ってる。」

「………」

「一緒に帰ろうって誘った時にはもう気付いてたんだ…佐久良が奥田のこと好きだってこと。あの頃さ、鈴木ともギクシャクしてただろ?いろんなことが重なってずっと気になってて…、声かけずにはいられなかったんだ。」

「…そう…だったんだ。知らなかった。」

「ははっ。そうだよな。俺さ、小学校の頃から佐久良のこと好きだったけど、見てるだけで幸せだったんだ。小学校の時の佐久良は恋愛とは無縁な感じだったから俺自身も欲が出なかったんだろうけど、中学に入って奥田に惹かれていく姿を見てると取られたくないって気持ちが芽生えてきたんだ。」

「……うん。」

「体育祭の日、本当は告白しようと思ったんだ。佐久良が奥田のこと好きなのは分かってても、取られたくなくて。少しは俺のこと考えて欲しくて。」

「……ごめん…。」

「…でもあの日、奥田は一瞬で佐久良を連れていったじゃんか。一瞬で俺のそばから佐久良を連れていった。もう…その瞬間に答えは出たと思ってたよ。俺は奥田には勝てないって分かってた。」

「勝つとか勝てないとか……そんなこと関係な…」

「関係あるから!」

エレナの言葉を遮るように、堀くんが強く主張した。



「関係あるから。目を腫らして教室に戻ってきた佐久良を見た時にも心の中では敗者宣言してたからな。」

笑いながらその時の状況を語っていたけど、少し寂しそうにも見えて…何故かエレナも胸が痛んだ。

「…あの時はごめんね。私、自分のことしかみれてなくて。」

「いや、それは全然いいんだ。……佐久良が教室に戻ってくる前に奥田も目腫らして教室にきたって話したよな?」

「うん…?」

「あの時、何があったか聞いたんだ。でも奥田は俺の質問には答えてくれなくて、一つだけ俺に聞いてきたんだ。」

「喜一くんが…?何て…?」

「『堀はエレナちゃんのこと好きなのか?』ってさ。びっくりしたよ。だけど俺は佐久良のことが好きだと答えた。そしたら奥田は『頑張れ』って一言残してそのまま教室から出てったんだけど……。」



 堀くんから話を聞かされたエレナは頭の中がはてなでいっぱいだった。

『頑張れって何?』『二人で話した時に確かめたかった…なんて言ってたのはどういう意味だったの?』

エレナは喜一くんが考えてることがわからなかった。


「頑張れって…どういう…意味なんだろう?」

「次の日には鈴木と付き合ったなんて盛り上がってたし…、正直俺にとっても奥田が何考えてるか分からなかった…。奥田が鈴木のこと好きだなんて風には見えなかったし。」

「…………」

「でも数ヶ月経った今も付き合ってるってことは、奥田も鈴木のこと好きだったのかなとも今は考えてる。」

「………」

夏帆と喜一くんが付き合い出しても、心のどこかで二人が両思いだなんて認めたくなかったエレナは、急に現実を突きつけられた気がして涙が溢れ出してきた。



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