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10年越しの片思い  作者: 桃塚陽向
第1 章
4/7

見守ってくれていた人

 入学式から一週間経ち、通常授業も始まった。

中学生としての生活が徐々に進んでいく中、エレナの心の中は喜一くんと夏帆のことでいっぱいだった。



「横取りなんて汚い真似だけはしないでよね!」あの日、夏帆に言われた言葉だけが頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。

 あの日の夜、喜一くんからメッセージも来ていたけど、夏帆の言葉と冷たい表情が離れず、メッセージに返信することさえできなかった。

学校で喜一くんが何度か話しかけようとしてくれたけれど、避けてしまっていた。

まだ恋心としてなのか友達としての好意なのかもわからないエレナと、恋愛として好きだという夏帆との状況を考えると、こんなに未熟な自分が喜一くんと接することさえ難しく感じてきたのだ。



『関わらなければ夏帆の怒りに触れることもないし、これ以上気持ちが大きくなることもない…』

恋愛に消極的なエレナはそんな風にしか考えられなかった。

 そんなエレナの感情を読み取ってか、喜一くんも次第にエレナに話しかけることがなくなっていった。





 時は着々と過ぎていき、二学期の体育祭が近づいてきた。

体育祭直前はエレナの委員会も増え、クラス委員と連携して体育祭の決め事を進めていかなければならなかった。

ホームルームではもちろんのこと、放課後もやることは多く、二人と接する時間が増えた。


『あれ以来、喜一くんとも夏帆ともほぼ話していないから、少し気まずいんだよな…。』

そんなエレナの気持ちに気づいてか、同じ保健委員の堀裕太くんが率先して動いてくれていた。


「じゃあ、今日はこんな感じでまとめておきましょう!次はホームルームで出場種目のメンバー決めをしていくのでよろしくお願いします」

喜一くんが締めの挨拶をして、その日の委員決めは解散となった。

そうすると、夏帆がすぐさま「喜一〜!一緒に帰ろうよぉ〜!!」と、甘い声で喜一くんに駆け寄っていた。

チラチラとエレナの方を見ながら、喜一くんの腕を掴む夏帆の姿を見ると、少し胸が痛くなった。

そんな二人の姿を見たくないエレナは無言のまま教室を出て、下駄箱へ向かっていた。

「別に好きじゃない…。恋愛じゃない。人として好きだと思っただけ…」

 自分に言い聞かせるように、ブツブツと呟きながら教室を後にしたエレナを呼ぶ声が後ろから聞こえた。

「佐久良!待って!」

振り返ると、堀くんがいた。


「…どうしたの?何か伝言あった?」

「いや、理由はないんだけど…一緒に帰らない?」

「堀くんから委員以外のことで話しかけてくれるなんて珍しいね。うん、一緒に帰ろっか」

「やった!」

 エレナの顔を見て、堀くんはニコッと笑った。

『この人ってこんな顔で笑うんだなぁ…』と、思いながら、そんな堀くんの顔をエレナはただ見つめていた。



 堀くんはクラスの中でも女の子と話すタイプではなく、男同士でつるんでいるタイプだった。

小学校も同じだったけどその頃から正直絡みづらい人だと思っていた。

だから、委員決め以外で親しくすることはなかったけど、初めて笑顔を見て少しだけ距離が近づいた気がした。



 二人で並びながら通学路の川沿いを歩く。

一緒に帰ろうと誘った割には話をしてくれない堀くんに疑問を感じながらも、エレナが先に口を開いた。

「あの…堀くん。ごめんね。」

「…え?何が?」

「私が入学式直後、夏帆と気まずくなってしまったから委員決めも堀くんが積極的に動いてくれてる気がして…。もし勘違いだったらごめんけど。」

「あー…。小学校でも佐久良と鈴木仲良かったのに、中学入ったら全然話さなくなったからどうしたんだろうとは思ってたんだよな。」

「ごめん…」

「いや、別に佐久良が謝ることじゃないと思うんだけど。ただ、佐久良が気まずそうにしてるから俺が動いた方が佐久良も鈴木もお互い気楽かなと思って。」

「ごめんね」

「いや…それは全然いいんだけどさ……。ただ…」

「ただ…?」

「佐久良が元気ない気がして気になってた。他の女たちとつるんでててもどこか影があるっつーか…」

「……」

「…何があったかなんて聞かないからさ。ただ、聞いて欲しいことあったらいつでも聞くし、俺にできることあったら頼ってくれていいから。」

「堀くん、ありがとう。」

堀くんの優しい言葉に涙が出てしまいそうになるのをこらえるエレナは震える声で一言だけ呟いた。



「…佐久良はさ、小学校の頃も鈴木みたいに目立つポジションじゃなかったけどいつでも楽しそうに笑ってたじゃん。中学に入ってからも鈴木は変わらないけど佐久良は元気がない気がして…ずっと気になってたんだ。」

「…ふふっ。堀くんめちゃくちゃ私のこと分析してるじゃん」

「あ…。いや、別にそんな見てないから!ストーカーじゃないからな?!」

顔を真っ赤にしながらオーバーに手をブンブン横に振る堀くんが何だか面白くて、涙よりも笑いが出てしまった。


「そんなこと思ってないよ!でも、嬉しい。そんな風に気にかけてくれる人がいて。」

「…当たり前じゃねーか。何年も佐久良だけ見てたんだから。」

「え?!」

「いや!!何でもないから!忘れて。」

そう言い、堀くんは歩くペースを速めた。


「一体どういう意味?」と聞きたかったけど、最後まで何も言えなかった。

言葉が見つからず、そのままエレナの家まで送ってくれ、堀くんと別れた。

 

 その日はご飯を食べていても、お風呂に入っていても、復習をしていても、堀くんの言葉だけが脳にこびりついていた。



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