帰り道
学校近くのファーストフード店で、それぞれが注文したメニューを食べながら自己紹介をしていく。
まずは夏帆が自己紹介をして、奥田喜一の自己紹介となった。
「はじめまして、今回クラス委員となった奥田喜一です!サッカーが好きで校外のサッカークラブに所属しています。よろしくお願いします!」
なんて事ない自己紹介。
だけど、奥田喜一の話すペースや声、表情や仕草、オーラ…一つ一つに視線が離せず、エレナの心を奪うのに時間はかからなかった。
「どうしよう…。今日会ったばかりなのに奥田喜一の事…好きかもしれない。」
そう実感した瞬間から、今まで感じた事がないような世界が目の前に広がった気がした。
これまで恋をした事がないエレナにとって、誰かを好きと認めるだけでもいっぱいいっぱいだ。
あれこれ話しても何一つ頭に入ってこない。
気づけば3時間経っており、そろそろお開きという事になった。
「じゃあね〜」
「また明日!」
「ばいばい」
別れの言葉が響く中、エレナの肩に何かが触れた。
振り向くと、奥田喜一が目の前にいた。
「…え?奥田君…?」
一瞬にして心臓が大きく飛び跳ねるのがわかった。
「佐久良だよな?今日…全然話せなかったから帰りながら話さない?」
ニコッと笑う奥田喜一。なんて感じが良い人なんだろう。
「うん…いいよ!一緒に帰ろう」
表面上はクールに振舞ってるけど内心は焦ってる。
ああ、恋をするってこういう事なのか?皆こんな気持ちになるのかな?
初めて感じるふわふわとした感覚に心地よさを感じながらも、奥田喜一の隣を歩いている自分に違和感を感じる。
「あ、俺のことは喜一って呼んで!エレナって呼んでもいいか?」
「うん、エレナでいいよ。喜一くんね」
「くん付けじゃなくていいんだよ?」
「でも…呼び捨ては何か緊張しちゃうから。もっと仲良くなったら呼び捨てにするね」
「そうだよな、馴れ馴れしくてごめん!じゃあ俺もエレナちゃんで!」
「あ…うん!好きに呼んでいいからね」
まだまだあどけない距離の二人だからこそ、少しだけ困ったような笑顔で微笑みあった。
小学校の時、クラスの男子と話す感覚とは違う。
制服だから?それとも、相手が喜一くんだから…?
一体何がこんなにも気持ちを高ぶらせるのかは分からなかったけど、心地良さしかなかった。
「…そういえば、何で一緒に帰ろうって誘ってくれたの?帰り道一緒で仲良い子いるんじゃないの?」
「あぁ、エレナちゃんとは席が遠くて全然話せなかったから、話してみたかったんだ」
「そっか、気にかけてくれてありがとう」
エレナがニコッと微笑むと、喜一くんは目をそらして黙り込んだ。
「………?」
「や、……それだけじゃないんだけどね。」
「え?どういうこと?」
「…ホームルームでさ、目があったじゃん?あの時、自分の中で何かピンと来て、話してみたいなって思ったんだよね」
「…喜一くんモテるから女の子にそんなキザなこと普通に言っちゃうんだ?」
少し嫌味っぽく聞こえるかもしれない。だけど、喜一くんに対して興味を示しているからこそ、どんなタイプなのか探りたい気持ちがエレナの心の中にはあった。
「あ…。ごめん!軽く聞こえるよな。そうじゃなくて…友達として仲良くなりたいって思ったんだ!」
学ランの袖で真っ赤になった顔を隠しながら話す喜一くんの横顔は、これまで見てきた人の中で一番美しく見えた。
「そっか…。声かけてくれてありがとう。私も喜一くんと仲良くなりたいと思ってたんだ」
「…ほんとか?ありがとう。なぁ、番号交換しない?」
「うん、教えて?」
そうして、二人は連絡先を交換した。
「ありがとな!帰ったら連絡する!」
「うん、またね」
そう言って二人はそれぞれの帰路についた。