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助手席  作者: 狸
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駆け寄り

教習車に乗り込み決められたコースを走る。

検定中は教官からどこに停車、この先右左折のどちらかなどの最低限の指示だけだった。

特に目立つミスはなかったものの走り終えて特に自信は持てなかった。


後の人たちの運転を後部座席に座りながら結果を待つ。


教習所に帰り1人ずつ名前を呼ばれた。

自分の名前を呼ばれ恐る恐る教官の方へ行くと


「合格です。」


その一言を聞いて単純に嬉しく思えないのは

杉本さんから見た生徒

と言う関係性がプツリと切れてしまうと言うことを意味していたからなのだろう。


もう後は彼の記憶から薄れて最終的には無くなってしまうだけになってしまった。

検定に合格すると、その後の卒業式に参加しなくてはいけないらしく

まだ時間があったため私は一度家に帰ることにした。


1人、部屋でポツンと座り込み

これで終わったんだな。と改めて実感した。

自然と頬を伝うこの涙にきっと意味はない。

ただただ恵まれていたなと思うだけだった。

数ある教習所の中で多くの教官の中で

杉本さんに担当してもらえたことがただただ幸せだった。


諦めの悪い私は最後のあがきで

杉本さんに

「卒業おめでとう」

と言われるか言われないかで自分自身にかけをした。


もし卒業式の後もう一度会えたなら

感謝の気持ちを綴った手紙を渡そう。


でもその手紙に想いは見せない。

あくまで感謝だけを述べよう。

そう心に決めまた家を出る前に私は手紙を書いた。


こんな落ちこぼれに優しく接してくれたこと。

今までどれだけ救われたか

どれほど恵まれていたか


全て時が経てば一生徒として消えていく私の

精一杯の悪あがきだった。


私はその手紙をバッグに入れ、教習所へ向かった。


少人数の卒業生の中教室で

これからのこと

今までのこと

全て話を聞いて


「卒業おめでとうございます。」


と最後を締めくくった。

階段をおり受付に向かう


やっと長かった教習所生活が終わる。

入学した時は早く卒業するぞと意気込んでいたのに...。


もうここに来ることは無くなってしまうのかとどこかでぽつんと置き去りにされた心が今になって痛み出す。

長居をするつもりはなく、その足で教習所をでた。


あぁ結局会うことはなかったなぁ。

儚く恋が終わってしまった。

でもこれで良かったのだと事実を飲み込もうとしたその時


「橋元さん!!」


とこちらに駆け寄ってきたのは

杉本さんだった。

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