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助手席  作者: 狸
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ホンメイ

「こんにちは〜。」


今日も杉本さんは力の抜けた声で挨拶をしていた。


「よろしくお願いします。」


いつものように助手席に座ると


「最近あったかくなってきたね。」


「そうですね〜。」


「こういう時期が一番風邪引くだろうから気をつけてね。」


「はーい。」


「そういえばもうすぐ卒業検定が近づいてきてるね。」


「わ〜。長いようで短いようで長かったようなw」


「どっちそれ。」


「でもまたそんなスムーズにいけますかね。補習になる気がしますけど。」


「最初から補習する気でどーするのw」


「だって絶対補習になりますもん。」


「もう慣れっこになっちゃたねw」


「まぁ失敗できるうちにしとかないと怖いですしね。」


「考え方をプラスにしたんだねwそうだね。僕が横にいる間だけねw」


今日も路上を走っていると


「ちょっと車停めよっか。」


そう言われ車を傍に停めると


「うん。見てると周りと速度を合わせられてたんだけど、気づいた?」


「え?」


「やっぱり無意識的だったんだね。不安はまだあるみたいだけど着実に上手くなってるから。それだけは覚えておいてね。」


久々にど直球に褒められ戸惑っていると


「はい。じゃあまた走らせていこうね〜。」


とありがとうございますもいえずまた走り出した。

普段通りにと思えば思うほど緊張してくるのは

後部座席に置いたバックの中にクッキーが入っているからなのだろう。


今日講義が終わり助手席に移動した際に渡そうと思っていたものの

戸惑いと恐怖がよぎる。


大丈夫。変なことを言わず感謝の気持ちと言えば

と逃げることを考える。


せめて今日は目立ったミスを犯したくはない。

何気なく渡せられればそれでいい。


この願いが神に伝わったのか

その日は何事もなく終わった。


「じゃあ、交代しよっか。」


そう言われナンバープレートをひっくり返し助手席に乗り込む


少しの沈黙の後

なけなしの勇気を振り絞り


「あの...。」


と口を開いた。


「ん?どーした?」


「あの、まだまだ先なんですけど流石にバレンタインの日までには卒業してるだろうから日頃の感謝を込めて...。」


「あ。嘘!!本当?くれるの?」


予想よりも嬉しそうだったから拍子抜けしてしまった。


「あ。でもそこまで甘いものもどうかと思ったので大したものではないんですけど。」


「え!全然嬉しいよ。今は危ないから駐車場についたらでいいからね。」


「はい。」


駐車場に着くまでの間何を話せばいいか分からず。終始無言になってしまった。


車を止めると杉本さんはキラキラ目を輝かせている。


「あ。」


と焦るように袋を取り出すと


「知ってる〜そこ!有名なとこじゃん。」


と袋に書かれたお店のロゴを見つめる。


「ちょうど前を通ったので。」


苦し紛れでわかりやすい嘘だった。それでも彼は


「これは...ホンメイってやつですか?」


とおどけたように言って見せるのでつい


「そうかもしれませんね。」


と笑って返した。

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