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二節:テンプレ巻き込まれ召喚に巻き込まれたオッサンの割とテンプレな展開?

 気がついたとき、自分が見たことも無い地面に横たわっていたので

ビクリとして飛び起きると…


「ああ…最後の異界の勇者様がお目覚めになられましたね…良かったです」

「へあっ?!」


 目の前には今も時折立ち読みやネットで読んでるドファンタジーちっくな

どう見ても王女様か洋風の巫女さん的な感じのオッサン的には

流石にちょっと目のやり場に困る感じのデザインの格好をした少女がいた。

傍らには分厚い本を持ったこれまた大魔導師とかそんな感じの老人や

護衛の騎士としか言いようのない面々もいる。


 そして何より…カズヨシの前には他にも…というかあの大畑ユリハと思わしき

女子高生含めた高校生数人も居て、彼を「これ、アレじゃね?」とか

何かゴニョゴニョ言いながら見ていたのだ。


「な…なんじゃこりゃあ!?」


 カズヨシはとりあえず自分の頬をぶっ叩く。痛い。普通に。

それを見ていた高校生らの二人くらいが「うわw定番w」とか言って

ケラケラ笑っていたが、そっちを気にしている余裕が沸かなかった。


「色々と戸惑われるのも無理は御座いませんが…どうか、私達のお話を

聞いていただけませんか?」


 ここで色々と大人として追求してみようかとも考えたが、

余計に面倒がありそうな感じをどうにも拭い去れなかったカズヨシは

「あ、どうぞ…」と言わざるを得なかった…だから高校生らが

「うわ…これ写メっとくべきだよねw」「やっべwマジヤッベww」とか

言ってる女子二人のその言動にこのモヤモヤをぶつけたくもなったが、

小心であるカズヨシは結局何も言えなかった。


「皆様にも元の世界での生活があるのは重々承知でしたが…」


 謝罪から始まった…ユーティリア王国の王女リースフィニアとかいう

王女様の話を聞けば、やはり聞くほどよくあるラノベのテンプレ感が否めず

つい小声で「だからといって…こうもテンプレなんて…」と口に出ていた。

そして高校生の唯一人の男子高城が妙に神妙な態度なのも色々モヤモヤした。

ユリハ(間違いなく高校生らの会話から名前はそうだった)は所々の所作が

やはり動揺を隠せず不安な面持ちだったが、今のところこの面子の中では

一番静かに話を聞いていた。


「ですので…皆様がこれから私達の神々の聖遺物"万物の映鏡エルミラリア"の力で

異界を渡った勇者様に備わった"先天職"を見出していただき…

そこからかなりお辛い事を強いる事になるのですが…私達の精鋭騎士団たちと共に…

我が国を含め世界を脅かす魔王と近い将来で良いので戦って頂きたいのです…」


 そして魔王を倒さないとこの地に満ちた瘴気なんちゃらやの影響で

自分達を元の世界に返すことはほぼ不可能になるという…否応なしに

自分たちが魔王なる得体の知れない強大な存在を

結局のところ討伐せねばならないという次第だった。


「呼べるのに今は返せないって何か嫌な感じだよねー…」

「だったら魔王がガチでどうこうする前に何回かやる気ある奴見出すとかさー…」


 さっきから結構強気な女子二人が王女にそうもっともな事を言うも…


「すみません…何分前例が600年ほど昔で…」


 と、まぁ深く突っ込むのもはばかられる一応は尤もな事が返ってくるので

強気な女子二人もうぐぅと言葉に詰まる。


「なあ皆…あ、そこのオジサンもなんですが…聞いてもらえませんか?」

「おじ…! あ、いや…続けてくれ」


 分かってはいるのだが、見ず知らずの子供に言われるとやはりギクリとくるのは

悲しき中年のさがかもしれないのだ。


「確かに色々不満はあるかもしれないが…ここでゴネたって仕方ないんだ。

帰る手段も今のところ魔王が作ったっていう神魔鬼竜晶とかいう代物を

どうにかして魔王諸共破壊しなきゃ駄目な上にそれどころじゃなくなるってのも

これ以上はゴチャゴチャ言うだけ俺らの立場も悪くなるだけだろ?

それに、もしかしたら他の手段もあるかもしれないんだ。なら、ここは王国の

人たちと協力して近い将来…手遅れになる前までには魔王一派と戦う前提で…

他に帰る手段も模索するしかないんじゃないか?」

「けどソウタ(高城の下の名前)ぁ…」

「万物のエルなんとかってオーパーツ的な何かでウチらに備わってるとか言う?

"先天職"とかってのが使えない能力ならどうすんのさー?」


「その点に関しましては…623年前の記録便りで申し訳ないのじゃが…」


 そう言って大魔導師…もとい賢者オルロフとかいう魔法爺さんが

魔法と思わしき力でやたら分厚い本をパラパラめくって、こっちには

さっぱり読めない文字だったが見開いたページを見せて語りだす。


「現れた勇者様方には必ず魔王との戦いで役立つ能力が出ておりますのじゃ。

無論…万が一そこなお嬢さん方の言う不遇能力というのも否定し切れませぬが…

もしも万が一そうなってしまった場合は…その方はワシらの方で

国庫にある魔法の武具類なども貸し与えますし…何でしたらワシ自らも

皆様の旅に同行して皆様が少しでも戦えるよう教導します故…

どうか! どうかお頼み申し上げます! 若き勇者様方! この年寄りの

覚悟と願いに応じていただけませぬか!!」


 そして畳み掛けるよう膝を突いて頭を下げるのだ。これはゴネたらもう

勇者とか以前に人としてどうかというものだ。これはもうハイと答えるしかない。

そうする以外にカズヨシには選択肢が浮かばない。


「高城くん…」

「ああ…わかってるよ大畑…頭を上げてください賢者様…」

「おお…! やはり異界の勇者様! どの代の勇者様も伝承どおりじゃった…!」


 オルロフ爺さんは涙ぐんでいた。あれを演技だと疑うのは

自分が相応に穢れている気もしたが、営業やってる人間なら

誰だって思うんじゃないだろうかとそこそこ無理やりな気がする考えで

悪い大人の邪推だと納得した。


「結局のところ、俺たちが万物の映鏡エルミラリアなるオーパーツで

自分達に備わっているという"先天職"なる能力次第ですし…」

「ありがとうござりまする! ありがとうござりまする!!」


 王女様や騎士さんたちの一部もほろりと来ているが、やはりそこは

自分が穢れてるんだろうなと考えて邪推しないよう勤めたカズヨシ。


>>>


 そんなわけで、カズヨシとソウタ、ユリハ…強気だった女子二人こと

サラサ、エリナの五人はとりあえず代表っぽい位置に収まってた

ソウタから順に万物の映鏡エルミラリアとかいう…なんかこう…

ちょっとおしゃれな枠のステータスウィンドウみたいな物体に触れ、

王女様方の言うとおりに待つことにした。


「……!?」


 ソウタがピクリとすれば、例のエルミラリアの表面に…

やっぱりこっちにはさっぱり読めない文字の羅列が浮かぶ。


「オルロフ…!? これは…!!」

「お待ちくだされ…! ふむ…ふむ…むむむ!!」


 こっちは何が書いてあるのか読めないが…どうもあちらもオルロフ爺さんが

都度都度分厚い本のページを睨めっこしつつ解読する必要があったようだ…

そしてオルロフが説明をしようとした時、それは見ていなかったソウタが


「待ってくれ…文字は読めないが…頭の中で…わかるぞ…! 皆! 

念のためちょっと離れてくれ!」


 そう言ってカズヨシたち四人他を離れさせる。

(その際ついついカズヨシは見てしまった…オルロフが肩を落としている様を…

しかしそこは大人として見なかったことにした)そして彼は両手を出して

何かを念じるような表情をすれば…


―ヒィィィン!!


 透き通った共鳴音と共に、ソウタの手には…ガンソードとでも呼ぶべき

ちょっとファンタジー世界にはややSFちっくな武器が二つ現れる。

てっきり左右対称シンメトリー感のある双剣みたいなのかと思ってたら、

片方はフェ☆ザー+ビームサーベル風、もう片方は若干妖刀じみた刀身に

かなり今風にお洒落にしたニューナンブみたいな装いの

刀拳銃とでも言えばいい感じの装いだった。


「使い方もわかるぞ…! まぁ、ちょっと練習が必要だけろうけどな?」

「おおおおお! 装いこそワシらには未知を感じますが…!

これは873年前の先々代勇者様も使われていたと記されておる

"天帝エルスァイ=地皇エリオルグの双剣使い"に違いありませんぞ!!」


 まぁ、ソウタ本人とオルロフの言葉の真偽など確かめようが無いので

カズヨシは普通に「あー、なんかもう彼が主人公的たち位置なんだなー」と

どこか他人事で感心するしかない。


「わー…なんかソウタが真面目にアニメとかで出るキャラっぽいわー…」

「やべwいつもよりカッコ良いかもwwんじゃー次あたしwww」

「ちょっと待ってよ! 何かこの感じだと次メインヒロインのフラグっぽいから

ウチがやりたい!!」


 と、サラサとエリナが揉め出したので…ここは先にユリハがやっちゃって

これもまたテンプレかもしれない展開…と思っていたのだが…


「ホントに戦えそうな感じなんだね…」

「ああ! 戦い方とか! なんていうか技みたいなのの出し方とかさ!

やべーよ! これスッゲーテンション上がるぜ!! 早く練習してぇー!」

「ふふ…高城くんって本当に後輩みたい」

「事実早生まれだから否定できねーwww」


 と、まぁこれはこれでメインヒロインフラグってるし、それを見てた

例の女子二人が「なぁー!?」とまぁこれまたサブヒロインフラグっぽい

ハモり叫びをした挙句、まぁまぁラブコメ臭を出してオルロフ爺さん達も

どうしたもんかと……カズヨシに視線を移してきたので…


「ああ…じゃあ俺…私が先にやっておきますよ…本当は私が大人として

ソウタくんより先にやるべきだったという反省もありますので…」


 一応それで話を進められそうになったので、気取られない程度には振舞うが

内心渋々なカズヨシは溜息も堪えつつエルミラリアに触れる。


「…さて…(これで普通に何か武器とか出てこられたりってのも…何だかなぁ…

正直直接切った張ったとか…魔物とかだけじゃなく人っぽいのも…いや、

下手すりゃ盗賊とかそれこそ魔王に組するかもしれない人間なんかも

相手にする可能性があるわけだろ…? となれば…あー…なるべく

近寄らず攻撃なりできる能力とか備わってたらなぁ……って、

そうそう自分に都合よく来るほど甘くは無いだろ…いくら現実離れしててもさ…

はぁ…そういやー…悪魔とかを仲間に出来る凄い能力とかゲームであったな…

あ、いやでも悪魔がこっちでも協力的とかじゃない可能性を考える…

やめやめ! 無心無心! となるとせめてライフルとかバズーカとかそういう…

だから邪念を無くせって俺!! 万一引き寄せちゃったら洒落にならん!)」


 等と考えながら体感ではソウタと同じくらいの時間が経った辺りで、

カズヨシにもソウタと同様の兆しが現れ、エルミラリアにはまた不明文字の羅列。


「むむむむむむ!?」


 オルロフは勢い良くページをめくりまくっている…先に落ち込む様を見てしまった

手前もあり、なんとなく社会人として自分より一応目上で年長者のやる気な様に

またしても水を挿すような真似をするのもどうかと思ったので頭に入ってきた情報を

一応説明できるカズヨシは敢えてトボけてオルロフの説明を待ってあげることにした。


「……何なんでしょうかね…私の場合うまく説明できないんですが…」

「それは無理もありますまい! 何しろカズヨシ殿の能力はですな…!

これは実に7229年という最早神話の…しかもカズヨシ殿で未だ二人目という!

稀有な点でも特異な"先天職"なのですじゃ!!」

「名前としてはどう記されてましたか?」

「うむ! …伝承では"万妖魔英霊主"という…この世界と異界を含めた

古今東西の妖精や精霊、さらには英霊さえもを使役できる能力なのですじゃ!!」

「…召喚みたいな感じですかね?」


 またトボけることにしたカズヨシ。頭の中に入った能力の情報では…

いわゆるモンスターテイマー的な能力だったのだが…実際ソウタの能力も

多少の差異があったため、まぁそこまで大きな違いは無いだろうということで

自信満々なオルロフの顔を立ててやることにした。


「そうなのですじゃ!!」

「えっ…?」


 大きな違いが出ていた。これはヤバい! と思ったが、カズヨシの口は

引きつっており、興奮するオルロフには肯定の意味で微笑んでいるように

見えていたようなので…さりとてここで水を挿すのは…と悩んでいるうちに

オルロフが得意げに「この力は得たときこそ何も呼べないが、

戦闘経験などを積む事でその経験に応じた精霊や良いモンスターの類を

呼び出して使役できるッ!」と言ってしまったため…まぁ戦闘と言う意味では

間違っていないので引きつった顔をごまかすように笑顔を作って、

爽やかな風を装い、サラサとエリナの二人に「じゃあ後は君達だね」と

どうにか注目を押し付けて少しだけ隅に立ち位置を移して思索することにした。


「あー…(どうしたもんか…今更「戦って認めさせないとダメな仕様」と

言ってしまっては…オルロフさんの名誉が酷く傷つく…第一彼だって

この"先天職"とかに関してはあの分厚い本頼りなワケだし…?

だからといってそこを真面目に突っ込んだらやっぱ涙もろい感じだから

結果的に俺がかなりの悪者になりそうで嫌だし…うわぁ…やっちまった…?!)」


 等と悶々としているうちに、一人称が"あたし"なサラサと"ウチ"なエリナが

思っていたより早く"先天職"を把握したらしく、この二人は二人で

オルロフを待たずにそれぞれ"古代魔女王アネイラの術式転生てんしょう者"とかいう要するに

ほぼ全属性の攻撃魔法使いとかいう結構なチート職と、"波動拳聖"とかいう

まぁ有体に言えば某戦闘民族のスーパーモードで空飛びエネルギー波も撃てる

これまたチート級武術職だった。最後を飾ることになったユリハに至っては…

もう名前だけでわかる"大聖癒術神ヒルルスの再来"とかいう自他共に

認めないと駄目そうなメインヒロインにありがちなテンプレ能力だった。

そして完全にカズヨシ達以上にハイテンションになってしまったオルロフが


「殿下ぁ! これは素晴らしいですぞ!! 今回の勇者様方の先天職は

どれもこれも歴代最強格と言ってよい代物ですじゃ!! ぬほほーう!!

しかも大魔法職と言える者が四人ですじゃ!! 姫様ぁ!! ワシ決めました!

これはワシも共に行き勇者様方により一層励んで頂くべくワシの知る全ての

魔法のノウハウを授けることが双方にも良い未来ががが確信ががが!」

「オルロフッ!?」

「いかん! おい担架をもって来い!! 白魔女たちも呼べ!!」


 と、興奮しすぎた挙句卒倒騒ぎになったので、出発はオルロフが色々な意味で

落ち着いて話をしてから…ということとなった。


【Huldrefolk Eigandi】


 結局王国の重鎮でもあるオルロフが俺達に是が非でもついて行くと

硬く固く言って聞かないので…そのためにも色々と準備がいるとのことで

俺達は能力の試運転やら折角だから王都観光もしてはとのことで

二、三日それぞれが王都で時間を色々と費やさねばならなくなった。


「まぁ、お陰さまで俺もそれなりに体裁を整える機会が出たわけだが…」


 そういうわけで俺は騎士団の人たちからまる一日は武術訓練を受けた。

一応俺の能力にはある程度戦うための技能も付加されていたので

単なる社会人でしかない素人の無様な姿を見せることは少なく済んだ。

まぁ、騎士さん達も「戦いの無い異界の国の勇者というのもいたらしいし」と

いう話もあったから手ひどく負けても笑われたりはしない。っていうか

普通に「私より年上の素人に大した手加減もできず申し訳ない」と謝られたりで

何とも言えない気持ちに苛まれた。あー…いつものカフェラテ五杯は飲みたい…。


「では、参りましょうか!」

「あ、うん…宜しく頼むよ」

「カズヨシィ様が危なくなったら直ぐ助けますよ!」


 最初は騎士さん達からも「レッサーゴブリン一匹くらいなら大丈夫」と

お墨付きを貰ったのでいざ一人…とその場の勢いで行こうとしたが…

正直貰ったこのショートソードで魔物とはいえ人型を切り殺せるのかと

不安になったのでとんぼ返りで騎士さん達の元へ戻ったんだが…。

まぁ、俺の心情を察してくれたのか優しい…とはいえ騎士さんにも

腕利きや偉い人には旅立つまでついでにこなしたい残務とかあるらしいので

一応暇な部類で旅にはついて来ない新米っちゃ新米な騎士であるサント君が

一緒に魔物の試し討伐に付き合ってくれることになったんだが…


「何というか…申し訳ない」

「お気になさらず! むしろ勇者の一人であるカズヨシィ様に

何かしらを教えたという末代にも残せる名誉が得られて光栄ですよ!」


 良い奴だな…サント君…兎にも角にもそんな彼のお陰で…

俺はとりあえずレッサーゴブリンとかいう普通のゴブリンよりも弱いし

脅威度も種族も違うらしい小さいサル鬼みたいなモンスターは

最初こそ少し怖かったが、サント君が補助してくれたおかげで

多少の罪悪感こそあれど、レッサーゴブリンを倒すことが出来た。


「死体…残るんだな…」

「もしやカズヨシィ様の世界の魔物は死ぬと

やはり異世界らしく光などになったりするのですか?」

「いや、むしろ逆だと思ってた…」

「成るほど! そういう考えもありますね! いや…固定観念で申し訳ない!」


 寧ろ俺が謝るべきだったわ…あとこの世界にはレベルとかそんな

わかりやすいのは無いようだ。強いて言うなら魔物を倒すと

何かしらの力は間違いなく上がるっていう…懐ゲーの仕様みたいなのはあった。

ただ何が強くなったのかは戦いを繰り返さないと実感できないっていう点で

ほとんどリアルと似てた。まぁ、そうそう世の中甘くないな。


「そろそろお昼ですね…っと! そうだ! であれば折角なので

私が昼食をお持ちしますよ!」

「え、いや一緒に食べに…」

「カズヨシィ様…! 私は貴方様の旅には行けぬ身です…! ですので…

折角ですから30分ほどでも良いので慣れていただかないと!」


 尤もな事を言われては反論も出来ないので、俺はサント君を一時

見送らねばならなくなった…。


「…折角だからタバコでも吸うかな…」


 あんまり吸わないようにはしてたんだが…こういう微妙な気持ちでの

微妙な待ち時間の時は吸いたくなるから持ってたので…

吸いすぎには注意しつつ…俺はタバコを吸う事にした。


「…ふぅ~…」


 別に美味しくは無い。美味いっていう人は美味いんだろうけど…

俺の場合はちょっとクラッと来てそのあとスーッと落ち着くのが

何となくグジャグジャした気持ちが引き締まってく感じがして吸うんだよね。

営業とかで似たような状況の時とかはお世話になってた…

だから携帯灰皿もあったりする…異世界とはいえ…タバコのポイ捨ては…うん。


「今後は学生達の手前もあるから…最後のつもりで吸っとくか…」


 ちょうど良い感じに吸い終って灰皿に捻り込んだその時だ。


「!?」

「ゲゲゲ…!」


 ふと気づけば…俺の前方数メートルくらい先に…レッサーゴブリン…?

ただ何か肌色がゲームとかではよくいる感じの緑色で…え…?


「あれ…そういや俺…レッサーゴブリンについてサント君に…」


 ちゃんとした話聞いてねえぞ?! え? じゃあもしもこれで

さっきのレッサーゴブリンみたいなネズミ色の肌色がデフォとかなら…?!


「ど、どうする…!?」


 こういう時は…って! もしも最悪ゴブリンだったら…!

いやそれ以前に逃げ方すら聞いて無いじゃん!!


「と、とりま剣…!」


 下手に逃げて熊みたいな事は避けたいとかもうまた頭がグジャグジャな…!

とにかく俺は護身のために剣を抜くしかなかった…が。


「ゲギャギャギャギャッ!!」

「だわああ!!?」


 ゴブリン? はこっちに凄い顔で走ってくる! 畜生!!

こうなりゃやるしかない! 下手に逃げて回り込まれただの背中からだのとか!

そっちのほうが危ない! 経験を! 経験を信じるしかない!!


「引き付けろ…! 当たる距離まで…!」

「ゲギャーッ!!」


 騎士さん達もサント君にも繰り返し聞いたんだ! レッサーだけども!

一匹だけならゴブリンは引き付けてから切れば高確率で大ダメージが決まるって!


「今だァ!!」


 俺はゴブリン? が俺目掛けてその拳を振るった瞬間を狙って…!


「せいやぁ!!」

「ゲギャーッ!?」


 振りぬくように斬る! 仰け反ったら斬る! 動かなくなるまで斬る!

これしか知らないからこれしかできない!!


「ゲ…ギャ…が…ぁぅ…ぅぅ…」


 血まみれになったゴブリン? の目には涙が…御免よ…!

でもこうしなきゃ俺がやられるんだ…! ああ、もう! やっぱ一人だと

見栄すら張れないから! ごめんよ…ごめんよ…!


「許してくれッ!!」


―ズグリ!! 


「ゲ…!」


 刺すしかなかった。レッサーは斬っているうちに倒れて動かなくなったが…

やっぱりこの子はゴブリンだったんだ…生命力が違う…ああ…

レッサーは涙なんて流さなかったのに…ごめんな…。せめて生まれ変われるなら…

今度はゴブリンなんかじゃない幸せな生き物に生まれ変わってくれ…!


「…仕方なかったとはいえ…泣いてる生き物を殺しておいて…勝手だな…」


 こんなんじゃ…ソウタ君たちとの旅も厳しいかもな…。


「………ごめんな」


 正直…"万妖魔英霊主"って能力で良かったんだか悪かったんだかわからん…。

そもそも俺の能力は倒したモンスターをテイムって感じのイメージだったし…

つまるところ…殺したモンスターの魂が…ってことなのか?


「なんか…そう考えると…俺的にはかなりハズレ能力じゃないか…?」


 もし自分の最終的なイメージ通りなら…人間とかもこうやって…?


「だとしたら…ちょっとひどいな…」


 モンスターテイマーというよりはネクロマンサー的な…?

ダメだ…そういうことばっかり考えてたら……………あ?


「ゴブリンの遺体が光ってる…!?」


 倒しても光になったりはしないって…!?? 良く分からないうちに…

ゴブリンの死体は光の粒粒になったかと思ったら…

それが寄り集まって……!?


―ぽわん☆


「はぁ!?」


 何かもう…音からしてファンシーな効果音と共に…


「……ふぇ?」


 倒したゴブリンの死体が光の粒粒になって寄り集まったのが…

どう見ても肌の色以外が人間みたいな可愛い幼女になったァ…!?

あらぁ!? 何か背中からそれこそティンカーなんとかさんみたいな!

どう見ても妖精みたいな羽生えてるんですけど!?

あとこの子普通に裸じゃんよ!! さっきまで某マヨネーズの

マスコット人形みたいな風体だったじゃんか!!

いかんですよいかんですよこれは!! 下手すりゃ事案だよこの野郎!?


「これを着なさい今すぐッ!!」


 言葉なんて通じるとは思ってなかったが、俺はスーツの上着を

この謎のゴブリン変化幼女? にふわっと被せ渡した。


「……ん~?」


 幼女幼女と言ってるのもアレなのでゴブリン変化ちゃんで!

とにかくゴブリン変化ちゃんは俺のスーツの上着を手にとって眺め、

俺と上着を交互に見やる! やっぱ通じてないか!!


「それ! 着る! こう!」


 俺は誰にも見られてないことを祈ってシャツを脱いで着てみせる。

するとゴブリン変化ちゃんは理解したらしく。

俺の上着を真似して着込んだかと思えば…


「おっきいね…これ、最適化していい?」

「ヘァッ!?」


 くっそ流暢に喋ったかと思ったら服が光ってゴブリン変化ちゃんにピッタリな

スーツの色はそのままだが今風の妖精チックな格好になっんっなんだこれッ!?


「ねーねー…あるじ様?」

「ふぁっんぬふぅッ!?」


 俺はもう何が何だか分からなくなり過ぎて、生まれて初めて気絶した。

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