プロローグ
――地獄絵図。
その言葉がピタリと当てはまる空間だった。
ある者は赤い水を垂れ流しながら地に伏せ。
ある者は火に包まれながら踊り狂い。
またある者はその場に膝をつき横たわる人を揺らしながら泣き叫んでいた。
逃げ惑う人々。くすんだ、家で見たものと比べればいかにも安物だと分かる装飾も何もない剣を振りかざしながら駆ける者。
どうしてこうなっているのだろう?
どうして夜のはずなのに、こんなにも明るいのだろう?
どうして昼のように喧騒としているのだろう?
私は外に出たことがなかった。何をするにしても召使の人がしてくれて、私はただ家の中で勉強するだけで。つまらない、退屈な毎日だった。そんな私を楽しませてくれたのは本だった。本の世界はどれも色鮮やかな世界で。私は外を見て見たくなった。
そして今。なぜか召使の人が慌てていて、私のことを見ていなかった。その隙に玄関の扉を開き、初めて目にした本物の街は、本の世界とは全く違った。
目の前に、鮮やかな赤に彩られた剣を持つやつれた男がいた。男と面識はない。けれど、男は私をこれでもかというくらい怒りに満ちた形相で睨んでいた。
剣が振り上げられる。普段飾られているだけのものをどうやって使うんだろうと思っていると、それは私に向かって真っすぐ振り下ろされた。
向かってくる剣。当たる。そう思ったとき、目の前が真っ白に染まった。
男の人だった。真っ白なマントと煌めく白銀の髪。とても、綺麗だと思った。今までに読んだ本のどの世界よりも。
それからその人は、私の前で赤や緑、青や黄色といったいろんな色を見せてくれた。
私はその人から目が離せなくなり、虜になった。
私はこの人のようになりたいと強く願った。十二歳のある日のことだった。