喫茶店でホッと一息してみませんか?
短編小説初投稿作品です。
文章力の成長のため、至らない点がございましたら、ぜひご指摘宜しくお願いします!
また、感想頂けると嬉しいです♪
カランカランカラン。
朝早く、ドアに付けられた鐘が軽快なリズムで来客を知らせる。どうやら初めての客が来たようだ。
「いらっしゃいませ」
少し緊張気味の上擦った声で挨拶をして、カウンター席に案内する。
最初の客は20代くらいの男性で、少しくたびれた背広を着ていた。
「コーヒー一つ、ホットで」
「かしこまりました」
レトロなジャズの音楽が、朝の店内に静かに流れる。私はオーダーのコーヒーを淹れながら、チラリと男性を盗み見た。
若さの残る顔には似つかない、背広と同じ疲れたような表情。そして目の下にはひどい“くま”。朝だというのに先程から続くため息の嵐が、より一層彼を老けさせて見せている。
「お疲れ、ですね」
「…あぁ、はい。もうかれこれ3日は、ろくに寝ていませんよ。今も会社からこっそり抜けて、外の空気を吸おうと歩いてたんです」
男性のハハハと笑う顔すらも、もはや笑えていなかった。
「お若く見えるのに、苦労されてるのですね…」
「入社して、まだ一年も経っていないんですよ僕。新人だから、色々とこき使われるのかなって思うことにしてますけれど。正直、これ以上身体が保つかどうか…」
ぽつりぽつりと男性は、仕事の愚痴をこぼし始める。きっと誰かに自分の辛さを、彼は聞いてほしかったのだろう。私は静かに、彼の話に耳を傾けることにした。
「叫び出したい衝動にも、幾度も駆られましたよ。でも大声で叫んでも怒られない場所なんて、都会じゃ見つからないですけどね…」
そこまで聞いたところで、ちょうどコーヒーができあがる。コポポ、と音を立てて、私は彼のために少し熱めのコーヒーを入れた。
カウンターに置かれたマグから漂うコーヒーの香りが、私と男性の鼻を軽くくすぐる。
「でしたら、もしも叫んでも怒られない場所が近くにあるとしたら、お客様はどうなさいますか?」
「そりゃあ、ぜひとも教えて欲しいですね。叫べば少しはストレスも減るような気もしますし」
それは良かった。実はあてがあったりするのだ。
「ではお教えしましょう。その場所とは…」
彼の眠そうな目が、大きく見開いて私の言葉を待っている。
そんなに期待されるような案でも無いのだけれど。
きっと誰しも一度は行ったことのある場所だから。
そう、その場所とは…
「カラオケ、ですよ」
静まりかえった店内に、お気に入りのクラシックの曲が、私と男性の間を静かに流れる。
「な、なるほど。それは盲点でした。カラオケ…確かに一理ありますね」
そう言って、こくこくと美味しそうにコーヒーを飲む男性の顔色は、心なしか晴れていた。
ため息の嵐も過ぎ去って、今はすっかり穏やかそうだ。
それがコーヒーのせいか、それとも叫べる場所を見つけたからかは分からない。
しかし多少なりともこの場所で、お客様が疲れを癒すことが出来たのならば、こんなに嬉しいことはないだろう。
「コーヒー美味しかったです、ご馳走さま」
「これでお客様の目が、少しでも覚めればよろしいのですが…」
「お気遣いありがとうございます。また、来ますね」
「はい、ぜひまた。ありがとうございました」
互いに軽く会釈を交わして代金を受け取ると、男性は軽く延びをしてから席を立った。
これからまた、会社へ戻って仕事なのだろう。
初めてのお客様である男性は、厳しい社会へと帰って行くのだ。
カランカランカラン。
その後、彼がカラオケへ向かったのか私は知らない。
でもいつか再びこの店に来てくれたなら、きっと教えてくれるだろう。
私はただそのときに、彼が心から笑えていることを願うとしよう。
ーfinー
お読み下さりありがとうございました。
カラオケに行きたいなぁという作者の気持ちから生まれた作品です笑