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未知への期待

作者: 山石口十


「まだ寝てるのー。学校遅刻するわよー。」


聞きなれているのに、未だに耳障りな母親の声を聞きながら今日も僕の1日は始まる。

いつもの様に寝間着から高校の制服に着替え、リビングへと向かう。

手短に朝食を済ませると、歯と顔を洗い、長いこと履いてボロボロになったスニーカーに足を通して学校へ向かう。


いつも通りの通学路、見慣れた学校。

友達と交わす何気ない会話。

相変わらず不細工な先生の、これまた相変わらず面白くない授業。

当たり前のように午前中を寝て過ごし、昼休憩を迎える。

昼飯の途中友達がやいのやいの話しかけてはくるが、上辺で返事をして少し自分と向きあってみる。


いつもと変わらない毎日に少し嫌気が差す。

別に不満がある訳では無い。

しかし満足しているわけでも無い。

友達や家族は好きだし、一緒にいると楽しいけど、何かが足りない。

昔はこんなこと思わなかったのに。


小さい頃は楽しかった。

今では何が面白いかも分からない鬼ごっこやかくれんぼに必死だった。

友達の家にあるビデオゲームに夢中になった。



見るもの全てが新鮮だった。



しかし今はどうだろうか。

見慣れたもの。

知っている問題。

やった事のあるようなゲームをして。

宿題は答えを写して終了。

規則正しい生活をして。

ルールに縛られ...。



同じような毎日を過ごしているだけ。



まあ、だからといってどうこうできることでも無いしな。

そうやって諦めて今日も僕は、ただ生きる作業をこなしている。


「おーい、聞いてるかー。

来週出るドラモンクエストってゲーム、めっちゃ面白いらしいんだけどさ...。」


うるさいな、聞いてるよ。

なんて声には出しては言えないが、少しそう思ってしまう自分が居るのが情けない。

まあいい、考えるのはまた後にしよう。


そうやって昼休みを終えるとまた、午後の授業を寝て過ごし帰路につく。



ドラモンクエストか、まあ話題に出るだろうし買っとくかな。

帰りの通学路の途中、そんな事を考えながらふと顔を上げた。


...ん?


何かが、何かがいつもと違う。

そんな錯覚に一瞬襲われる。


いつも通りの風景。

それなのになぜか始めてくる場所の様に感じた。


その感覚は一瞬だったが、意識してみると意外なことに気付く。


「あれ...あの木ってあんな形だっけ.....。」


思わず口に出してしまったことに自分でも驚く。

他にも何故か違和感を感じる物だらけだ。

電柱の色、道路の大きさ、挙げ句の果てには見覚えの無いポストがある事にまで気付く。


しかしそこは確実に僕の通学路だった。

いつも通りの、いつも歩いている通学路だ。


ただ、僕が今まで見てなかった所を見て、知らなかった事を知っただけ。

ただそれだけの事だった。


僕は何もかも分かったつもりになっていた。

通学路だって道順を覚えただけで、全て知った様な気になっていた。



でも本当は、僕は何も知らなかったんだ。


まだ、あの小さい頃のワクワクは感じられるんだ。



知らなかった事に気付いた喜びを噛み締めながら、どうせだから一言発しておく。


「なんか、人生まだまだこれからだな。」


明日が今日よりも楽しくなる気がした。

この作品は「既知への安堵」という作品と対になるものです。

この作品単体でも楽しめますが既知への安堵も読んでいただけるとより考えさせられるかも?

ぜひ、両方セットで読んでみてください。

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