プロローグ
初投稿です。よろしくお願いいたします。
ここは某所の応接室。この部屋には、俺と少女がいる。
巨大な机に巨大な椅子。シックな色合いの壁紙に豪華絢爛なシャンデリア。見るからに高価そうな花瓶に、大きめの額縁に入れられた絵画。
応接室と言うには、あまりにも立派すぎる内装だった。何というか、ドラマの劇中で登場する会議室を連想させる。
そんな場所に、俺と少女は面と向かって座っていた。ついさっきまで真面目な話をしていたのだ。
目の前にいる少女は仮面のような表情を未だに崩していない。
会話中ほぼ無表情だったので、終始、変な緊張が解けなかった。
……やがて少女は、緩いウェーブのかかったセミロングの黒髪をかきあげ、口を開いた。
「――ねぇ、浦上君」
「あ、はい!?」
俺は思わず背筋をピンと伸ばす。
「私のお願いを聞いてくれるかしら?」
「お願い……?」
少女は先程までの厳しい面持ちを崩し、穏やかな笑みを浮かべた。多分『楽にしていいよ』という暗示だろうが、まだ気が抜けない。
「先ほど説明した通り、あなたの入学は承認しました。その代わり入学条件として、浦上君には三つほどやってもらいたいことがあるの」
「いや、お前には感謝してるから、三つでなくとも、できることなら何でもやるけど――何だ?」
俺は胸を撫で下ろしながら、お願いの内容を訊ねる。
「一つ目は『この学園の生徒会に入ること』。あなたには、学園内や生徒の間で起こるトラブルを私達と一緒に解決してもらいます」
彼女は指で『1』を表す。
「あと、学園の様々な雑用もやってもらおうかしら」
「おいコラ!」
「さっき『三つでなくとも、できることなら何でもやるけど』って言ったじゃない?」
「あ」
そうだった。確かに俺はその言葉をキッパリと言い切っている。でも『何もかもやってもらう』というような内容の頼みを、一つ目のお願いの中に入れるなんて卑怯すぎる。
それに、嬉しそうな声色と顔で、『雑用もやってもらおうかな』とか言われるのも何か嫌だった。きっと本人には悪意がないだろう――と強く思いたい――けど、俺にとっては、まるでいじめを受けているみたいだった。
入学から卒業までずっとパシリにされる。
こんな灰色の青春は、死んでも送りたくない。
でも、入学と引き換えの条件だから、仕方ないけど、ここは受け入れるしかないか……。
「何だか癇に障るけど……OKだ。雑用やってやる」
「えっ?」
「学園の奴隷になってやるよ」
「ちょっと待って、雑用というのは冗談よ。それに奴隷なんて一言も言ってないし」
苦笑しながら彼女は両手を左右に振る。
言いなりになるつもりで腹を決めた俺って、一体何だったんだろう……?
それに真剣な話をしている最中に冗談なんて、何考えてんだ?
何だか無性に腹が立ってきた。
「そんな怖い顔しないでよ。まだカチカチだから、緊張をほぐしてあげようと思ったのに……」
「ふざけんな、肝を冷やしたわ。ジョークだとしてもTPOを考えろ。で、次は?」
「二つ目はね――」
そう言って、彼女は残り二つのお願いを言った。
★ ☆ ★
「以上の三つを、守ってもらえるかしら?」
「い、いや…………えっと」
「最後のお願いは難しいかもしれないけど、そんなに固く構えなくても大丈夫よ。実行するのは卒業式の後だから」
戸惑いのあまり言葉に詰まる俺を尻目に、少女は話を続ける。
二つ目のお願いの内容は、簡単とまでは言わないけど、不可能なものではなかった。時間はかかりそうだが、互いの信頼関係をある程度まで築けば何とかなりそうだ。
……ただ最後のお願いに関しては、意味不明というか、完全に常軌を逸していた。これも『不可能ではない』という点では先のお願いと同じだが、考えようによっては、ばつが悪いものだった。
彼女と初めて会った時から感じていたことだが、やっぱりコイツは何かがぶっ飛んでいる。
普通そんなことを人前で言えるだろうか? 思ったことをすぐ口にしてしまう俺でも、これはさすがに言えない。
……未だに戸惑いが治まらなかったが、「という訳で、話はこれでおしまい」と、彼女は話を締めくくった。けれど最後に、
「来週から、私とあなたは友達だから、何の遠慮もしなくていいわ。これから三年間よろしくね。浦上陽輝君」
――と、俺の名前を呼んだ。
「……こちらこそよろしくな。海藤由希会長」
俺も戸惑いを払い、彼女を名前で呼んだ。