肉屋のラジカセから 優しい応援歌
♪きっといいことあるさって♪
♪いつかいいことあるさって♪
「うーん♪もうひと踏ん張りできる感じがするよ。
あっやべ 鼻ツーンとなってきた。
商店街のここの肉屋さん いつも この人の歌 流してんだよね。
山形県 出身の店主さんだから、同郷のこの歌い手さんを ごひいきにしてるんだってさ。
山形出身の肉屋さんは 関東にはそう無いけど、
都内の銭湯の経営者は新潟の人が多いらしいよ、なんでかな?
俺は知らないよ 興味があるなら調べて、ぺぺっとすぐでしょスマートフォンでさ。
話戻すけど 彼女 地元山形じゃ車検やら お酒やらのCM何本もやってて、CM女王って話だけど一度見て見たいな、
超かわいいんだよね。
何て名前の歌い手さんかって?
それも調べてよ、(山形 なまり歌)って検索してさ、きっと夢中になっちゃうよ。
歌い手っていうより作り手でもあるんだよね、
曲と詞ね、シンガーソングライターってやつだね。
で、フラフラ近寄って。」
「毎度 揚げたてだよ。」
「熱っつ、うんめ!
曲と美味そな匂いで素通りできないんだよね、コロッケ買っちゃうんだ。
え?根拠も無く いいことあるとかっていう歌が嫌いじゃなかったかって?
まあね、ようするに歌い手さん次第ってことだよね。
好きか嫌いかってだけね。
好きな人が歌うなら何でも大好き、悪い?
そんで大好きな人の大好きな歌で 今日も ひと踏ん張り。
で、その前に、商店街のはずれの あの あやしいバーの張り紙を…
「あっ!良かった…見つけてたんだ。」
今のカギカッコは実際に声に出したセリフだと思ってね。
一週間くらい前かな、このバーの店の中に最近 亡くなった ヨハン クライフのポスター見かけてさ。
え?サッカーにはもう興味 無いんじゃなかったかって?
ええとね、やっぱりこれも 好きか嫌いかってこと。
クライフは好きでイブラヒモビッチとクリスチアノ何とかって腹筋バカは大嫌い。
話戻すよ、ポスター見かけて 通りに面した窓から覗いてたら、
足元に花壇があって 綿毛になったタンポポが植えてあったんだ。
珍しいよね、野っ原に勝手に咲いてるタンポポ植えるなんてさ。
で、しゃがんで見てみたらカントウタンポポでさ、なるほどねって思ったんだ。
珍しいんだよカントウタンポポ、良く見るタンポポは外来種のセイヨウタンポポなんだよ、全部がそうと言わないけどさ。
で、しゃがんだ高さの窓の探し犬の貼り紙が貼ってあったって訳。
で、…(で)って話を切り出すのって 最近見ないけど(にしおかすみこ)みたいだよね、さっきから俺 連発してるけど。
探し犬の貼り紙見て商店街 ウロウロ探してたのはどこのどいつだい?
あたしだよ!
でもさ、見つかったって貼り紙が重ねて貼ってあったから良かったよ。」
「見つけてて くれたのかい?」
「え!?ああ!はい!見つかった良かったです。
あの ここの お店の方ですか?」
「そう、僕は このスポーツバー BEND KNEEの店主 一字 勇人 宜しく。
ここじゃなんだし、お気に入りのポスターもあるようだし 店の中で話そうか、
条件だとか勤務時間とか。
このアクリル板のドア 古っ臭くて良いだろ?
店の中はこんな感じになってるんだ。」
「え?!」
「素っ頓狂だな、探してくれてたんだろ?
アルバイト。」
「え?僕は犬を…ああ!隣に貼ってある!アルバイト募集の貼り紙!」
「そう、そういうこと、君は僕にハメられたって訳だね。
アルバイトね、雇うにも人柄って重要なんだ。
君はタンポポにも気付いたし、この一週間の間 真剣にミニチュアダックスを探してた。
ああ、誤解しないで欲しいのだけど、犬は本当に居なくなって、
本当に今日の朝 登校中の小学生が見つけてくれた。
魚屋の魚蔵さんの 4歳になる お孫さんは喜んでたよ。
時給はとりあえず850円、あとオリンピックとかワールドカップのイベントには 特別手当を出す。
勤務時間は学業に支障の無い程度で…」
「いや!いや!引っ張らないで!
ちょっと待って下さい!そりゃあんまり強引…ああ!プリンスのポスターも貼ってある!デビッド ボウイのポスターも!
最近 亡くなった人 特集なんですか?!」
「へえ、そんな昔の知ってるんだ、良いねえ!
死んだ人 特集じゃないよ、まだ存命のクラプトンもあるし、しばらく前に死んだジミヘンもある。」
「スポーツバーなのにミュージシャンばっかり!」
「そんなことは無いね、カル リプケンもランディ ジョンソンも野茂もイチローもあるし、
ニキ ラウダもジェームス ハントもある。
時々 ローテンションして貼り替えるけどね。
僕の個人的な趣味だね。」
「僕もみんな好きです!あ!上原亜衣!
超シンパシーです!!」
「気に入ったかい?だったらドアから顔だけ突っ込んでないで座りなよ。
上原亜衣のポスターはサイン入りでもう一枚あるんだけどな。」
「え?!未使用ですか?!」
「もちろん未使用だよ、40過ぎがポスター使うのもね。」
「僕18です!使います!佐藤 実樹貴と言います!」
「決まりだね。
早速で悪いんだが、これからちょっと出掛けるんだが 店番をして欲しいんだ。」
「ええ?!いきなりそりゃ無理ですよ!」
「いや 大丈夫、まだ開店時間じゃ無いんだ。」
「じゃあ店番いらないじゃないですか?!」
「そうでもない、開店前から勝手に入ってくる常連から金庫を守ってくれ。
それじゃよろしく、これエプロンね、カッコいいだろ?よくバーテンが着けてるやつ。」
「こんなの着てたら 何でも出来そうじゃないですか!」
「壊したり 割ったりしなければ 何を使ってもいいよ。
たしなむようなら あのステージの上のテレキャスターも弾いていい、アンプの音量は御近所迷惑にならない位でね。
ああ、ウチはライブハウスもやってるんだ。
それじゃよろしく。
そんな訳で またいつになるか分かりませんが、別居中の妻のご機嫌 伺いに参りますので、皆さんごきげんよう。」