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願いの証明ー2014,5年の少年少女たち  作者: 釈書院ねずは
第1回戦 青い果実と弾けるポップコーン
8/13

起床

 2階に上がり、『望月寧々』と芸名ではなく本名で書かれた掛け札の掛けられた部屋の前に立つ。

 自陣の扉から見て左側の真ん中、ちょうど匠一の向かいになる部屋が寧々の部屋だ。

 

 コンコンッ! コンコンッ!


「望月さん! 起きて、朝食だよ!」


 強めに2回ノックし、大声で呼ぶ。

 しかし、待っても返事が返って来ない。

 扉越しに起こそうとしたが効果がなかったため、匠一は”しょうがない”とつぶやきながらドアノブを回す。

 


 室内は匠一のそれと同じ構図だった。ただ違ったのは室内に昨夜来ていた歌番組の衣装であろうミニドレスが脱ぎ散らかしてあったことだけだった。

 入って右手にあるベッドに彼女はいた。

 そばによると布団はあまり乱れておらず、寝相は足が出ているくらいで比較的良い方なのだろう。

 幸せそうな寝顔に微笑すると彼女を起こそうと布団越しに揺らす。


「ほら、起きて望月さん朝食が冷めるよ」

「……う〜、マリー……もう朝……?」


 身じろぎした後、ゆったりと体を起こす。だが、まだ完全には目が覚めていないのだろう、目は閉じてぼーっとしている。

 そして、そのまま寝息をたてる。 


「いやいや、寝ないでよ。ほら、起きて起きて」


 再び彼女を揺らし、ヴェーブがかった金髪が波打つ。

 目は閉じたままだが、少し覚醒したようだ。


「先に下行ってるからね」


 もう大丈夫かな、と思い立ち去ろうとしたができなかった。

 服が掴まれていたからだ。誰に? 勿論寧々しかいない。

 

「……させて……着替えさせて、させなきゃ寝るわよ」


 寧々の可愛らしい脅迫にどうしようかと匠一は顔を引き攣らせる。入院生活を強いられている妹の桜の着替えを手伝ったことはあるが、それはあくまで介護の一環であり妹であるから兄としてやったにすぎない。

 しかし、同年代のお嬢様だと話は違ってくる。おそらく彼女はメイドさんに毎朝起こしてもらっていていて、そのついでに着替えまで付き合ってもらっていたのだろう。まだ覚醒しきっていないうちにこの発言だから、よく口にしていたことがうかがえる。

 しかし、だからと言って同年代の男の子である匠一がやるには問題があり、どうしようかと逡巡する。

 とりあえず、服を放してもらおうとする。が彼女の握力が予想外に強くうまく放せない。

 

「とりあえず、わかったから放して」

「……うん」


 そう言ってなんとか開放してもらう。仕方なくといった様子で入り口の近くのタンスに近づき、迷わず上から2段目の引き出しを開ける。

 そこから匠一や蛍と同じ柄で、白地に彼女の腕輪と同じ黄色のラインが入っTシャツとズボンを取り出す。

 着替えをベッド脇にある机に置く。


「着替えはここに置いておくから、自分で着替えてね」

「……え?」


 着替えさせてくれると思っていた寧々はやっと匠一の方を向き、瞼を開ける。

 目と目が合い、沈黙が流れる。

 

「…………」

「…………」

「…………なんであんたがここにいんのよっ!」

「おおっと……朝食が出来たから起こしに来たんだよ。いつまでも寝ているのは良くないからね」


 フリーズから再起動した寧々が慌てて枕を投げつける。

 それを、”女性の寝起きは大体機嫌が悪いのと勝手に侵入していたことの二重でご機嫌斜めだろうからなんか投げつけてくるかな”などと予想していたため、案の定かわす。その際、枕の速度が思ったより早く目を見張ったが。ちなみに予想のソースは妹の桜。


「かわすんじゃないわよ! 当たりなさいよ!」

「ドードー、部屋に勝手に入ったのは悪かったけど、起きない君も悪いからね。ほら、起きたんなら着替えて、朝食出来てるんだから」


 そう言い残し、憤慨している寧々を残して匠一は彼女の部屋から退散した。

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