表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願いの証明ー2014,5年の少年少女たち  作者: 釈書院ねずは
第1回戦 青い果実と弾けるポップコーン
6/13

泡沫の夢ではない

 檜木の香り漂う部屋の小窓から柔らかな日光が差し込み、匠一の顔を刺戟する。

 ベッドで寝ていた匠一はそれに抵抗するかのように身じろぎした後、ゆったりと瞼を開いた。

 上半身を起こし部屋を見渡す。木製の壁に机、椅子、棚、タンス。傘をかぶったような小さなスタンド。それらは匠一が寝る直前目にしていたものだった。


「……夢じゃなくてよかった」


 目を覚ました匠一は特別な昨夜の出来事を思い出し、両手で顔を叩いて脳を覚醒させる。

 あの出来事が泡沫の夢でないことに微笑する。

 匠一はベッドから降りると、昨晩の内に確認しておいた何着かある同じ服をタンスから取り出す。白を基準に赤いラインの入った簡素なTシャツとズボン。

 着替えた匠一は手を組み、睡眠で硬くなった筋肉をほぐすように背を伸ばすストレッチをした後、部屋を出る。




「お前らに神の力の一端を与えるぜ」


 スミスが赤い、ソングが黄色い、竹刀が深緑色の、フレイムがスミスよりも更に濃い紅色の光球を身体の心臓あたりからそれぞれ取り出す。

 4色の光球はまっすぐ進み、それぞれの代行者の体に溶けるように入り込む。


「そいつは俺たちの神格の一部だ。 『概念』の一部と言ってもいい。明日にはって、もう日付超えてんだっけ……今日の昼ごろには体に馴染んでるだろ。だから」

「……ふぁぁ」


 説明を続けようとするスミスの言葉を健太のあくびが遮る。その光景に全員が気が抜けたように微笑む。


「なっ、なんだよ笑うなよ! くしゃみみたいにちょっと出ちまっただけだろ、笑うな!」

「そうよねそうよね、お子様はもう寝る時間よねぇ〜。このアタシが子守唄でも歌ってあげようかしら?」

「いらねぇよ貧乳!」

「なによツンツン頭! アタシがやさ〜しく慰めてあげようとしたのに」

「そのニヤニヤ顏で言われても説得力ねぇよ、金髪染めアイドル!」

「この髪は地毛よ! それに罵倒語にアイドルを使うんじゃないわよ!」

「はいはい、喧嘩するんなら後でね」

「「ふん!」」


 手を叩いて匠一が再び仲介すると、いがみ合っていた2人は顔を背ける。匠一はどうしたものかと頭を掻き、蛍は手を軽く上げやれやれといったふうに首を振る。

 

「そういやもう1時か。そりゃあ眠くなるよな」

「俺は全然眠くなんかねぇっつてんだろ!」

「んじゃ、今夜はこれまでな」

「聞けよ、おい!」


 猛抗議する健太に誰も付き合わず、そのまま話を続けるスミスは指を鳴らす。すると、スミスの正面にいた匠一の背後に何かが出現する。それは簡素な木製の扉であった。これまでの装飾された2枚の扉と門とは異なり、凝った意匠が施されることもなく、大きさも至って普通でどこにでもありそうな扉だった。


「その扉の先はお前らの家になってるから、そこで仲良く暮らしな。んじゃ、明日の夜また来るから」


 そう言って4柱の背後の空間が砕け、それぞれその中に消えていった。




 中央に1階に降りる階段に、それを大きく囲む広めの通路。この2階にある個室は6つ。階段の側面の通路に3つずつ配置され、4つの部屋にはそれぞれ主の名が刻まれた掛け札が掛かっていた。使われていない2部屋には掛け札を掛けるフックだけが付いていた。上った先と反対側の通路には昨晩スミスたちから説明の受けた自陣の扉。そして、それら全てに木目がが見られた。

 匠一の部屋は自陣の扉から見て右側の真ん中。部屋から出た匠一は階段を降り、顔を洗おうと洗面台に向かう。

 

 昨晩スミスたちと別れた後、軽くシェアハウスの中を見て回った。ハウス内には大きなリビングダイニングキッチン、トイレ、バスルームといった水回りやタオル、バスタオル、自室にあった洋服、ひんやりとした冷気がたまる小さな地下室には数週間は過ごせそう量の食料が保存され、生活に必要な衣食住が揃っていた。もしこの家だけが孤立したとしても数週間は篭れそうな完備具合だった。

 なんでこんなに揃ってんだ?とスミスあたりに問うたら、「別に俺らはサバイバルさせたいわけじゃねぇ」などと答えられそうだな、と匠一は思った。スミスと出会ったのは数時間前だが、そんな想像できるくらいには匠一はスミスを理解していた。


「しっかし……ここまで至れり尽くせりだと選手の合宿みたいだな」


 歯磨きを終え顔を水で洗い目を覚ました後、タオルで顔を拭きながらそう呟いた。自分の腕輪と同じ色のタオル、歯磨き、歯磨き粉を見ながら。その横には紅、黄、新緑の色違いのタオル、歯磨き、歯磨き粉が揃っている。それぞれ寧々、健太、蛍用に用意されたものだろう。

 正直なところ匠一は争奪戦と聞いた時から中東のような殺伐とした混戦や乱戦、騙し騙されの強奪略奪が横行し、最悪終わりの見えぬ泥沼の戦場を覚悟していた。しかし、詳細を聞けばルールが決まっており、トーナメント戦だという。


「……いや、スミスは神々の戦って言っていたから昔とは違うのかもしれない? とある事情ってなんだろう……」


 戦というくらいだから死人が出たかもしれない。

 あれ、そういえば神様って『概念』そのものなんだよな。だったらもし、死んだら……。

 そう思い至ったとき、匠一の耳に微かに声が届いた。

 声の方へ足を進めてみるとリビングの大窓、先の庭に竹刀を大きく振りかぶりながら突進している健太の姿があった。

友人の幾つかの指摘で変更点があります。

 ・箱庭の大きさが9キロから20キロに

 ・『竹刀』の神バンブーソードの正式名称が竹刀に

 ・争奪戦のルールの1つの敗北条件、「3日間決着がつかなければ両者敗北」を「3日間決着がつかなければ、代表者による決闘」に変更しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ