能力の発現
図書館で本を借りた日の夜、匠一たちは自陣の開けたところに集まっていた。そこに匠一たちだけでなく各々契約した神々の姿もあった。
「そんじゃ、俺らの与えた神権がどんな能力に発現したのか見てみようぜ」
『鍛冶』の神スミスが4人に問う。
彼らがここにいるのは、昨晩神々が与えた神権がどんな風に能力を発現させるか確かめに来たのだ。
「お前ら、自分の中に意識を向けてみな。感じるはずだぜ、心の中にある自分とは別の魂を」
4人は目を閉じ、集中する。4人を静寂が包み込む。
「感じたぜ」
「感じたわ、これがソングの神格ね」
スミスの言葉にすぐ返したのは健太と寧々だった。
「感じ取れたか。やはりいい精神をしているな、健太。上々であるな」
「寧々も良い子ですよ、私の神格をすぐに感じ取れましたし」
2人がすぐに出来たことが誇らしいのか、嬉しそうな表情をする2柱の神シナイとソング。
「……出来たよ、スミス」
少し経って匠一も返事をする。
「んー、まあ及第点だな」
2柱とは違い、少し辛口の評価のスミス。
「……」
しかし、残った1人から返事がこない。
感じ取れない焦りからか、表情が険しくなる。
そこ様子を見て、声を荒げる神がいた。
「火神! お前が俺を嫌いというなら……否定したいというならするがいい!憎みたいのなら、憎めばいい!……だが、目は背けるな! 背け続ける限り俺の神格を感じ取れることはない!」
蛍の契約神であるフレイムだ。何故感じ取れないか理解していたフレイムは蛍を叱咤する。
「うっさいのよ、あんた!! 分かってるわよ、そのくらい!! 一々暑苦しいし、ウザいのよ!! 私の過去を知ってる程度で私を理解した気にならないでよ!!」
しかし、蛍はフレイムの言葉に激怒し、反発する。目を開き、鬼の形相でフレイムを睨みつける。
その鬼気迫る雰囲気の蛍に3人は集中を辞め、どうしたものかと視線を見合わせる。
3柱は2人の関係だと割り切っているのか、静観している。
「理解しているというのに……何故向き会えない……」
「……あなたにはきっと理解出来ない。あなたには……感情が無いから」
「……」
眉を潜め、一瞬黙るフレイム。
「何を言っている? 俺は怒りもするし、喜びもする。寧ろ、他の神より喜怒哀楽が顕著だぞ」
「……いいえ、私が言っているのは人間的な感情よ。……まあ、人間じゃないあなたに無いのは当たり前なのかもしれないけど」
「……」
「……私を神格を通して理解した気になってるんでしょうけど、全てを理解しきることはきっと出来ない」
蛍は言い切ると、もう言うことはないと感じに口を閉じる。
フレイムも先ほどから、押し黙ったまま、蛍を見つめる。
「……スミス、進めてくれ」
「いいのか?」
「ああ」
埒があかないと思ったフレイムは、このまま時間が過ぎるより3人の神権を発現させた方がいいと判断した。
匠一は一瞬俯いく蛍に心配そうな視線を送るが、すぐに説明するスミスに戻す。
「ここから1人づつ確認していくぜ、まずは、健太からだ」
「おう!」
「これからやることは神権の発現だ。発現は1人1人違うから何が起こるか分かんね。少し離れな」
それぞれ間を開ける3人。4柱と俯いている蛍も3人から距離を置く。
「それでどうすればいい?」
「自分の願いを思い浮かべな。そうすれば自然と神権が形にしてくれる」
「……ああ、なるほど。これが俺様の神権か」
自分の神権を本能的に理解した健太は、いつも持ち歩いていた竹刀を掲げる。
すると、竹刀がほんのり新緑色の光を帯びる。
「これが俺様の神権『擬似真剣』だ」
「なんだ、竹刀が光っただけじゃない」
「ちげーよ、バーカ! シナイ、竹一本生やしてくれ」
「承知した」
『竹刀』の神シナイが承諾すると、健太の前に一本の竹が生えた。
健太は構えると、それを横に綺麗に一閃。
竹がバキッと音をたてて、折れる。
「俺様の神権は竹刀を硬くする能力だ」
「次は寧々だ」
注目が寧々に集まる。
「やり方はさっき健太に言ったのと同じだぜ」
「ええ、分かったわ」
目を閉じ、集中する。そして、目開いた。
「これがアタシの神権ね!」
すると、寧々の手にハンドマイクが現れる。
「『竹刀』の神様、竹出して!」
「ああ、承知した」
シナイが返事すると、健太と同じように寧々の前に竹が生える。
寧々は息を溜めると、口元にハンドマイクを当て、放つ。
それを受けた竹がバキッ!と半ばから音を立てて折れる。
寧々の口から放たれたのは声ではなく、音の域を遥かに通り越した衝撃波だった。
「どうよ、この威力! これがアタシの『高歌放吟』、声を倍増させる能力よ、凄くない!」
「うるせーよ、バカ! そんな能力ならやる前に一言言えや、耳が痛いだろ!!」
ドヤ顔の寧々が周りの面々を見ると、神々は大丈夫そうだが、代行者の3人は爆音に耳を抑えて蹲ってた。
寧々の爆音から回復した代行者たちは次の神権の発現に移る。
「僕も同じようにすればいいんでしょ、スミス」
「そうだ」
匠一も2人と同じように目を閉じ、集中する。
「……うん、こうかな?」
2人に比べ少し間があったが、無事に神権を発現させる。
目を開き、匠一は手を前に出す。すると、無骨な取っ手が長めの金槌が現れる。
「鍛治神だから金槌? 捻りが無いわねー」
「お前も似たようなもんだろ」
「うっさい、ガキンチョ。アタシはいいのよ。アイドルだし」
「あははっ、シナイさん僕にも竹を出してくれます?」
苦笑いする匠一は2人を放置し、シナイに頼む。
「承知した」
2人と同じように、匠一の前に竹が生える。
匠一は金槌を大きく振り上げる。
すると、頭部が急速に巨大化していく。
「これが僕の神権かな」
金槌の頭部は最終的に二階建ての家一軒ほどの大きさになった。
「ッセイ!」
そして、それは振り下ろされる。
大きな低い音をたてて、地面を打つ。
一拍して金槌を退けると、見るも無惨にひしゃげた竹が姿を見せる。
皆、予想外の威力に押し黙る。
「『』、ある程度大きさを変えられる金槌を扱える程度の能力かな」
「さて、3人とも神権を発現させたな。なら、早速試してみようぜ」
「試すって、何すんのよ」
「模擬戦だ」