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 深々と降る星のように小さな雪。積もった雪はまだ描かれていない真っ白な画用紙のよう。そこに明かりが街を染め上げる。

 薄っすら結露した窓からそんなありふれた景色が覗かせる。置いてある小さなテレビからは歌番組だろうか、6人組のアイドルグループがライトに照らされ、踊りながら歌っている。

 ベッドに横たわりながら、白髪の少女はつまらなそうにそれを見ていた。

 扉を開ける音。その音が聞こえた少女は嬉しそうに病室に入ってきた一人の赤みがかった黒髪の少年に笑いかける。


「お帰り、お兄ちゃん!」

「……ただいま桜。ほらお土産だ」


 そう言って少年は背負ったリョックから小さな包みを取り出し、そこから先端に小さなモアイがついたストラップを桜の手のひらに乗せる。


「…………お兄ちゃん何これ?」

「ストラップ」

「それは見ればわかるよ! っえ、もしかして何これがお土産!? 信じらんない、女の子に渡すプレゼントがこんなのなんて……。やっぱりお兄ちゃんのセンスおかしいよ」

「気に入らない? あれ、おかしいな〜? 今小学生の間でキモ可愛いのが流行ってるから欲しいって言ってたじゃん」

「違う違う違う、ちっがーーーーう! 確かに欲しかったけど、私は同時にポップさとキュートさも欲しかったの! それくらい察してよ!」

「言ってくれないとわかんないよ」

「わかってよ、もう! この間行ったイギリスのお土産だって、懐中時計だし! いや、これはこれでカッコイイからいいけど! 私はあの時ティーカップが欲しかったの!」

「イギリスらしいって要望だけじゃ分からないよ、暗号じゃあるまいし」

「分かれ、バカ!」


 そう言いつつテレビの下の棚にしまう。少年は肩を竦め、やれやれといった仕草で首を横に振る。

 噴火が収まり落ち着いた後、呟くように少女は少年に尋ねる。


「どうだった?」


 先ほどとは違い一言で伝わる。少年は先と同じ、しかし異なる意味で首を振る。


「……そう」

「もう一度ヨーロッパに行ってみようと思う。また一から探せば今度は見つかるかもしれないしな」


 消えそうな呟きに少年は明るく、慰めるような、希望を持たせるような声で答える。

 しかし、少年の内心は暗く、苦しく、絶望的であった。

 少年が海外に渡っていたのは妹、桜の体質を改善するためだった。桜はもともと体が弱く、そのせいで様々な病気を発症してきた。その体質をどうにかしようと、中学生ながら逞しく海外へ飛びヨーロッパ、オーストラリア、アメリカと渡ったが方法は見つからなかった。

 もう少年は頭では理解していたのだ。桜の体質は治らない。それは、これまでもこれからも様々な病魔を呼び入れ、桜を苦しめ続けるということ。自分ではどうしようもない。

 しかし、少年の心は納得していなかった。たった一人の妹を、それでも救いたかった。外に連れ出して、風を感じさせたかった。潮の香りを嗅がせてあげたかった。花畑を自分の瞳で見せたかった。

でも、それはもうおそらく叶うことはない。

 海外を巡ってみて少年は理解した。桜を治せる医者はいない。

 自分が医者になってその分野を開拓する選択肢もあったが、もしそうなったとしても桜の体が治るのは数十年先だろう。それではダメだ。桜の青春がふいになる。

 だったら、現実的なことでダメならば、非現実的に神頼みでもしようかと自分らしからぬ考えをしていた。


『次は今期待の新人アイドル、月島彩華さんです! 月島さん、白組ラストですが意気込みどうですか?』

『普段と変わらないわ、歌う時はいつも全力全開! 大喝采を聞かせてあげるわ!』

「おー、ねぇお兄ちゃん! 次彩華が歌うって!」

「……誰、彩華って?」

「えーーーー、お兄ちゃん知らないの! 最近有名になってきたアイドルでなんかお嬢様なんだて」

「へー」

「……お兄ちゃん興味なさそう」

「実際興味ないしね。最近のアイドルなんて全然わかんないし。桜、ファンなの?」

「うん」


 六人組のアイドルグループが終わり、ステージに華やかなミニドレスを着飾った金髪の少女が上がる。暗くなったステージの中央。スポットライトが照らし、存在感が一層強くなる。


『それでは月島彩華の「ハイテンションハレルヤ」です、どうぞ』


 曲が流れる。タイトル通りハイテンションなリズムで、聞いてると元気が出そうになる。画面では月島が曲に合わせて踊る。

 テレビを見てると桜が数学の教科書とノートと、棚から取り出し、教科書の折り目のついたページを開いた


「そういや、お兄ちゃんここの因数分解教えて」

「いいぞ、どこがわかんないんだ?」

「3番の式なんだけど……」




『はい、月島さんありがとうございました』


 曲が終わり、月島彩華がステージから退場。画面の中では白組の採点が始まっている。


「わかったか?」

「うん、ありがとうお兄ちゃん、さすが神童。説明がわかりやすいね」

「この歳で神童はないかなぁ、童って歳じゃなし。それを言ったら桜だって筋はいいぞ」

「そう、えへへ。嬉しいなあ」


 顔を綻ばせる桜。それにつられて少年も微笑む。


『それでは新年へのカウントダウンを開始します』


 テレビでは雪の降る中、神社に並ぶ人たちと除夜の鐘、カウントダウンのパネルとそれをめくるアナウンサーが映っていた。


「もうこんな時間か、時間が経つのが早いなぁ」

「もうお兄ちゃん、おじいちゃんみたいなこというの止めて。こっちまで年取った気分になる」

「はは、ごめんごめん」


 パネルが捲られ、カウントダウンが始まる。


「桜、今年は治す方法見つけられなかったけど来年こそきっと見つけてやるからな」

『3』

『2』

『1』

「お兄ちゃんに任せとけ」


 最後のページが捲られる。


『0』


 この瞬間、2014年の時間が静止した。

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