第一章 出会い
11月。
冬の函館にしては暖かな街を私相原美雪は歩いている。
書店で店員をしている私は、いつもより早く終わった仕事後にずっと楽しみにしていた物を見に行く為にある場所へ向かっていた。目的地は五稜郭タワー。函館へ引っ越してきて半年経つがずっと仕事で街を見て回れていなかったのだ。函館市内を走っている市電に乗り込み、五稜郭タワーへと向かう。帰宅時間よりまだ早いためか、車内は空いていて座席に座り流れていく景色を眺める。ほどなくすると、少し先に五稜郭タワーが見えてきた。私は足取りも軽く市電を降り、五稜郭タワーへと向かった。
五稜郭タワーもちょうど観光客が途切れる時間だったためまばらだ。五稜郭が眺められる窓側へまわると、窓の外にうっすらと雪化粧をした五稜郭が見えた。念願だった雪景色の五稜郭だったので私はついはしゃいで携帯で写真を撮っていた。
すると、横からシャッター音がした。はっとしてそちらを見ると横には一眼レフカメラを構えた男性がいた。彼は、真剣にでも楽しそうに写真と撮っていて無意識のうちに彼の様子を眺めてしまっていた。
油断していた。よほど長い時間彼を見ていたのだろう。私の視線に気づいた彼が話しかけてきた。
「こんにちは。どうかしましたか?」
急に声をかけられて私は動揺しながら、返事をする。
「こんにちは。写真を撮っていたら横からシャッター音が聞こえたので。楽しそうに写真を撮るんですね。」
気恥ずかしさを抑え必死で笑顔を浮かべながら答える。
「写真を撮るのは楽しいですよ。自分が綺麗だと思った瞬間を世界から切り取れるようで。君も楽しそうでしたよ。楽しそうに写真を撮る君を見かけて視線の先に素敵な物があるんじゃないかって思って、俺もここで写真を取り始めたんです。」
彼から発せられた思いも寄らない発言に私は驚いてしまった。
彼の名前は森崎優。函館を中心に活動するカメラマンで、27歳。驚いた様子の私に森崎さんは
「君が良ければ、近くのカフェへ生きませんか?もう少し君と話がしてみたい。」
森崎さんに誘われ、五稜郭タワー近くのカフェへ場所を移すことにした。
カフェへ入ると明るい店内にコーヒーの良い香りが満ちていた。店員さんに案内されて席へつく。
「君何を飲みますか?ここはコーヒーが美味しいんです。君が苦手でなければコーヒーはどうかな?」
私は、森崎さんの進めてくれたコーヒーには興味があったが、苦いものが得意ではなかった。なので、そのコーヒーを使ったカフェオレを注文した。
「函館へは旅行ですか?」
森崎さんが訪ねてきた。
「いいえ。函館に住んでいます。といっても引っ越しをしてまだ半年で、ずっと仕事ばかりだったのであまり街を見れていないんです。」
森崎さんは残念そうな顔をする。
「それは残念でしたね。もしかして、やっとゆっくり五稜郭タワーへ登る時間が生まれたんですか?だから、"念願の雪景色の五稜郭"とか?」
「そうんなんです!引っ越してきてから本当は休日にはどこか街を見にいこう!って思ってたんです。でも結局、前半は荷ほどきと片付けで後半は生活雑貨と食品の買い出しがほとんどになってしまって・・」私は小さくふてくされた。
森崎さんとこの後も世間話をした。仕事の事・趣味の事など。楽しい時間はあっという間で、外はすっかり日が落ちていた。
「あぁ!もうこんな時間だ!俺1度職場へ戻らないといけないんです。良かったらまた話しましょう。」
この日はこれで森崎さんとは別れた。私もひさしぶりにゆっくりとお風呂に入れそうなので家路を急いだ。その時、ふと思い出した。
「また話しましょうって連絡先知らないのにどうするんだろう。