永遠少年とウェンディ
永遠少年と言えばピーターパン。
彼に連れられてネバーランドに行った子どもたちは、誰しもその世界に憧れを抱き、そして永遠少女になり損ないました。
ウェンディもその一人です。
断っておきますと、かの有名なウェンディではありません。つい最近ネバーランドから帰ってきたばかりの15才の少女です。半分子ども、半分大人のような年の頃で、すっかり世の中がイヤになってしまっていたのでした。
子どもはバカばかりだし、大人はズルいわ。みぃんなみんな大嫌い!
それがここしばらくの彼女の口癖でした。
本当ならば15才だとネバーランドには連れて行かないのですが、ウェンディがあまりにもかわいそうに思えたピーターは右手を差し伸べました。ウェンディは疑い半分、期待半分の目をしてその手を握り返しました。
それから先は、みなさんが知っているのと同じお話が続きます。妖精の粉を全身に浴びて宙を飛び回り、子どもたちと一緒に冒険ごっこをして遊び、眠たくなればどこでたって目をつぶりました。実はネバーランドにお客さんが来るのは大分ひさしぶりのことでしたので、ピーターも子どもたちも大はしゃぎでした。初めはどうなることかと思いましたが、ウェンディとは非常に打ち解けることができて、もうまぎれもなく仲間入りするのではないかと誰もが思っていました。
ところがある時のことです。
本当にささいなことで、ひとりの男の子とウェンディが言い争いを始めました。
「ウェンディが悪いんだろ!」
「何よ、そうやってまた言い逃れするつもりね!」
「またってなんだよ、またって! ウェンディこそいつもへ理屈ばったじゃないか」
子どもたちはお祭りのように周りで騒ぎ立てました。それが更に気にさわったのでしょうか。ウェンディがねえ! と大声を出しました。
ピーターはびっくりして、
「どうしたんだい、ウェンディ」
と聞きました。
ウェンディは答えました。
「どうしてあなたたちはそんなに……考えなしなのよ!」
そのとたんです。
あれだけうるさかった子どもたちが、しーんと静まりかえりました。
ウェンディはまずい、と思ったのですが、もう半分大人の彼女はとっさに謝ることができません。ふくれっ面をしたまま明後日の方向を向いていました。
「ウェンディ、ねえウェンディ?」
返事がないので、もう一度、
「ウェンディ、ねえウェンディ?」
なによ、とつぶやいたウェンディは、しかし、ピーターの声の冷たさにドキッとしました。
「ウェンディ、君は、もう大人だったんだね。半分すら子どもじゃないんだ」
はっとしました。
ウェンディはこれまで、子どものことをバカだと思ったことはありましたが、なにも考えてないだなんて思ったことは一度もなかったのです。今も思っていたつもりはなかったのに……。
そう、一番ショックを受けたのはウェンディ自身でした。なによりも、もうこの世界にいれないことが悲しかったのです。
残念だけれど、そのことに関してはピーターも妖精も、どうしてやることもできませんでした。
これが、永遠少女になり損なった元少女の物語。