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第五十九話 そろそろフィナーレ

 はるちゃんたちのダンスが終わり、私としぃちゃんと亜由美は楽屋へと向かった。

「はるちゃん、明石先輩お疲れ様ー」

 楽屋の扉を開けると真っ先に私に向かってぶつかってきた人物。明石先輩だ。

「うわーい、かっちゃんだ。かっちゃんだー」

 抱きつかれた私の目の前に開かれた明石先輩の胸元。しかし残念なことに明石先輩は胸が小さいのでセクシーさは感じられない。だけどほんのりと汗のにおいが感じられる。

「三人ともダンスを見てきてくれたんだー」

 明石先輩の肩越しにはるちゃんの姿。赤いTシャツが汗でびっしょりと濡れている。

「仕事があって最後のしか見られなかったけど二人ともすごい踊りだったよ」

 私の脳裏には満月に照らされながら空中を一回転した明石先輩の姿が浮かんでいる。あれだけの高さを飛べるなんてよほどの練習をつんだのだろう。

「あー、あの最後の私たちの踊りね。すごくいやらしかったでしょう」

 明石先輩が体をくねらせそして胸を押し付ける。しかし何度も言うけど気の毒なことにその胸にボリュームは感じられないのでそんなに息苦しくは無い。

「お客さんがいなかったら本当にはるちゃんにキスしようと思っていたんだから」

 女子高生アンド女子大生好きの明石先輩なら本当にやりかねない。

「練習では実際何度もされたんだけど……。あたしのファーストキスが……」

 はるちゃんが口を押さえて悲しげな表情を見せる。ああ、実際にやってしまったんだな。

 明石先輩は私から離れるとはるちゃんに歩み寄り、あごをつかんで

「大丈夫だって、女の子同士ならノーカウントだから」

 とキスをした。

「え、え、ええっ!!」

 私だけではなく、楽屋にいる他の方からも驚きの声が出る。浅野先輩だけもう慣れてしまったのかやれやれと半ば呆れた表情を見せている。

「ぷはあっ、というわけで私明石真奈美と伊井国遥は本日結婚しまーす」

 唇を離した明石先輩ははるちゃんの右肩を抱いて楽屋中に宣言した。

「ち、ちょっと明石先輩?」

「あの二人きりの練習を重ねて私たちの恋は芽生えたのよ」

 戸惑うはるちゃん、暴走する明石先輩。誰か止めないと

「はいストップ、そこまでー」

 浅野先輩が明石先輩の顔を抑えてはるちゃんから引き離した。

「真奈美何やっているの、本番が終わって気持ちが高揚しているからっていくらなんでもやりすぎよ」

 そうだよな、明石先輩たちは一仕事終えたんだもんな、テンションが高くなって当然だ。

「でもせんぱーい、遥が本当に頑張ったから今日のダンスがあったわけで、そのお礼に明石の苗字を……」

 はるちゃんが明石先輩に嫁入りする設定なのか。

「わかったから、それは後で話しましょう」

 浅野先輩の指に力が入る。

「あ、浅野先輩、痛い痛いって」

 手足をジタバタさせる明石先輩は置いといて私たちははるちゃんへ歩み寄る。

「今日のはるちゃんほんとにかっこよかったよ」

「そう、あ……ありがとう」

 手を腰に当てていつものポーズを見せてはいるものの、照れているのか顔が少し赤くなっている。

「ほんとだよー、明石先輩じゃないけど私も結婚したいなーって思っちゃった」

「しぃちゃんまで……そんなこと言わないでよ」

 しぃちゃんとはるちゃんが結婚したら絶対はるちゃんが夫でしぃちゃんが奥さんだろうな。

「私も、はるちゃんの麗しき男装の姿に胸が……」

「亜由美、乳を寄せるな!」

 私は亜由美の手を掴む。

「私たちのダンスは終わったけど、あとはかっちゃんたちだね。あと数時間しかないけど頑張って!」

 はるちゃんが右こぶしを勢いよく突き出した。

「うん、最後まで頑張るよ!」

 私としいちゃんとはるちゃん、亜由美は互いに右のこぶしを合わせた。


 ここ一号館のとある教室では「ミス文京大学コンテスト」の開票作業が行われている。

 開票作業は私としぃちゃんと亜由美が中心にイベント企画チームのメンバーが責任を持って行っている。

 文化祭が開催された三日間はすべて晴天だったこともありお客さんの入りは多く自然と「ミス文京大学」への投票数も多くなっている。

 その中からまず無効票を除き、残った有効票で誰に何票入ったか振り分ける。それらの作業は全部手作業だ。

「……」

 私は無効票の一つを見つけため息をつく。

『唐揚げが美味しかったです』

 これは感想を書くアンケートじゃないって。

『うちのポチが行方不明になってしまいました』

 町内の問題は大学に持ち込まず町内で解決してください。

『川○憲伸』

 野球選手? オールスターゲームのファン投票じゃないんだから。

『小○純一郎』

 ……。本当の選挙になってしまった……。この元総理大臣は神奈川の人で東京じゃないでしょう。

 ふざけて書いているのかそれとも本気で書いているのか分からない無効票を次々と除いていく。私が担当する票のうち四分の一が無効票になってしまった。

「多くの票が集まったのはいいけどこんなに無効票がでたんじゃ、意味が無いわ」

 私は無効票が積まれたテーブルを見てまたため息をついた。

「まあ本当の選挙にもこういった無効票が結構出ていると聞きますし、これはしょうがないんじゃないですか」

 亜由美が無効票の山をさらに高くしていく。

「それはそうだけどさ……。企画した側としてはみんな関心がないのかなーと思って」

「この国の国民の性癖なんじゃないですかね」

 亜由美が突然社会風刺をしだした。亜由美は時々スケールのでかいことを言うな。

 票の集計が終わり「ミス文京大学」が誰になるか決定した。これからその結果を中庭のステージでお客さんに伝えることになる。

「よーし、それじゃあ結果発表といくかしぃちゃん」

 結果の紙を持った私にしぃちゃんが笑顔で答える。

「そうだね、この結果発表が終わったらいよいよフィナーレだね」

 しぃちゃんのその言葉にステージへ向かおうとした私の足が止まった。

 そうか、文化祭ももうすぐ終わりか……。

 時刻は午後五時半を過ぎたところ。文化祭の終了まであと一時間を切っている。

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