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第五十一話 一日目と二日目の間に

 しぃちゃんの殺人(?)事件や、「ミス文京大学コンテスト」での告白騒動もあったけど、一日目はなんとか無事に終わりを迎えようとしている。

「クリームシチュー残り僅か、一杯百五十円でーす」

「焼き鳥今なら五本百円でーす!」

 今日作った分をなんとか売り切ろうとしているのか、各屋台で一斉に値下げが始まっている。それを目当てにお客さんも屋台へと群がる。はるちゃんのサークルの屋台も同じような状況だろう。

 その光景を傍目に見ながら私としぃちゃんは文化祭室に入った。

「どうもお疲れ様でしたー。『ミス文京大学』ではとんだハプニングがありましたが、なんとか乗り切れましたね」

 亜由美が先に入って私達を出迎えてくれた。どこかの屋台で買ったのか、鳥の唐揚げやポテトフライ、焼き蕎麦が数人分机の上に置かれている。これが私達の今日の晩ご飯なのだろう。その証拠にタカビーがすでに唐揚げを頬張っている。

「まあハプニングというのはイベントに付き物だ。普通ならどうしようかと戸惑うところだが、よくぞいい具合に乗り切ってくれた」

 あれはねー、ああいう風にしないとどうにも収拾がつかなかったからねー。

「そうそう、その『ミス文京大学コンテスト』、早くも票が集まっているんですよ」

 「ミス文京大学コンテスト」は文化祭が開催される三日の間にお客さんが「この人が『ミス文京大学』にふさわしい」と思う人を記名して投票する仕組みになっている。どこかの国みたいに投票する人の名前の下に穴を開けるパンチカード方式にすると誰に投票したか分からなくなって裁判沙汰になってしまうからね、それは防がないと。

「投票の締め切りと結果発表までの間は一時間しかないので、すばやい開票作業が求められますね」

 私としぃちゃんは司会だからその作業には参加しなくていいけど、最悪お手伝いすることになりそうだな。

「あと当選した人にあげるだるまを用意しておかないと」

 ほら、片方だけ目が描かれているやつ。

「もーう、かっちゃん。ほんとの選挙じゃないんだから……」

 しぃちゃんが呆れた声を上げる。

「今から発注しても到底明後日に間に合いませんよ」

 亜由美は冷静に現実を語る。

「いっそ自分の瞼に目を描いたらどうだ」

 タカビーは私に徳川十三代将軍の三人目の奥さんになれ、と言う。

 冗談のつもりで言ったのだが、三者三様のひどいツッコミを私にくれる。

「疲れたー。あ、みんなそろっているー」

 かわちゃんとけーまが汗だくになって部屋に入ってきた。二人は総務係として文化祭で出たゴミの処分を中心に仕事していたのだ。

「二人ともお疲れ様、どうだった? ゴミは」

 しぃちゃんが素早く紙コップにウーロン茶を注いで二人に差し出す。

「いやー、もう割り箸とか紙皿とか多いこと多いこと……」

 ウーロン茶を受け取ったかわちゃんは一気にそれを飲み干す。

「あまりにも多すぎるから最終日に呼ぶ予定だったリサイクル業者を呼んで今日の分だけでも引き取ってもらったよ」

 けーまも一気にウーロン茶を飲み干したが、冷たくしてあるウーロン茶に頭痛が走ったようだ。こめかみを押さえていかにも痛そうな表情を浮かべる。

「まあリサイクルに持っていったからいいけど、もしあれが全部リサイクルできなくてゴミとして処分されるとしたらとんでもない資源の無駄遣いだわ。まさにムダ、ムダ、ムダ使いー!!」

 かわちゃんが突然白目をむいて叫びだす。どうやら浅野先輩が乗り移ったようだ。

「まあ、今日のゴミの量を考えると明日と明後日は今日以上の量になるだろうな」

 まあ三連休だからね、お客さんが多く来るだろうな。

「それじゃあ明日も朝九時に集合ということで、晩ご飯食い終えた奴から解散!」

 そう言い終えるとタカビーはさっさと部屋を出て行ってしまった。私達が入ってきたとき既に唐揚げを頬張っていたからな。一人で先に食べ終えてしまったのだろう。

「私は家にご飯があるからいいや」

 私はこのメンバーで唯一の実家暮らしだから、食事の心配はしなくていい。

「私も一応作ってきたからなー。いくつかお持ち帰りして帰ろう、亜由美」

 用意していたのか偶然なのか、しぃちゃんがタッパをバックから取り出して唐揚げとポテトフライを幾つかつまんだ。亜由美はここ数日しぃちゃんや私の家にお泊りしている。着替えの服が無くなったので、それを取りにやっと昨夜一週間ぶりの帰宅を果たしている。


 四号館から出て中庭のステージの前に出ると、何者かが私の体にぶつかってきた。

「うわー、かっちゃんだー! 会いたかったよー!!」

 ぶつかってきたのは明石先輩だ。今までずっとダンスの練習をしていたのだろうか、ちょっと汗臭い。

「明石先輩……、練習お疲れ様です」

「三人に会うのは久しぶりだね」

 はるちゃんが明石先輩の肩越しに笑顔を見せる。そういえば、私としぃちゃんと亜由美は文化祭の仕事、はるちゃんと明石先輩はダンスの練習でここ数日会う機会が無かったな。

「せっかく久しぶりに会ったんだから、『豚殿念』へとんかつ食べに行こうよー」

 明石先輩が私に頬ずりをする。なぜか明石先輩は私と亜由美には抱きつくけど、しぃちゃんには抱きつかない。しぃちゃんに殴られるのを異常に怖がっているようだ。

「せっかくのお誘いですが、家にご飯を用意しているので……」

 私としぃちゃんが同時に同じことを言う。いつものことながら私がアルトでしぃちゃんがソプラノ。

「えー、せっかく会えたと言うのにつれない返事ー!」

 はるちゃんが不満げに口を尖らせる。

「それじゃあしぃちゃんの家に行って晩ご飯を食べよう! それなら文句無いでしょ」

 明石先輩が私に抱きついたまま、しぃちゃんに顔を近づける。

「そうですね、先輩。最近ずっと学校に泊まりっきりだったし、たまには他の人の家に泊まるのもいいでしょう」

 図々しくはるちゃんが合いの手を入れる。

「えー、みんなしぃちゃんの家に泊まるなんて私だけ仲間はずれみたいじゃない」

「それだったらかっちゃんもしぃちゃんの家に来ればいいじゃない。ついでにかっちゃんの家の晩ご飯も持ってきて」

 はるちゃんがさらに図々しいしかし私にはちょっとありがたい提案をしてくれた。

「しぃちゃんが『いい』と言ってくれるなら私は構わないよ?」

 以前にも晩ご飯を持ってしぃちゃんの家にお泊りしたことはあるからね。

「よーし、それじゃあ荷物部室から持ってくるから三人はちょっとここで待っていて」

 はるちゃんと明石先輩は楽しそうに四号館の階段を駆け上がっていった。

 私としぃちゃんと亜由美は疲れた表情、明日も頑張るぞというような気合の入った表情、それぞれの表情を出して家路へとつく学生達を眺めながら二人を待った。

 十分ほどしてはるちゃんと明石先輩が四号館の階段を駆け下りてきた。バックを持っているので、足取りはさっきより少々遅い。

「それじゃあしぃちゃんの家にレッツゴー」

 明石先輩がいつもの笑みを浮かべながら右手を元気よく突き上げた。

 こうして私達五人はしぃちゃんの家にお泊りすることになった。晩ご飯はタカビーが用意してくれた唐揚げとポテトフライ。そしてしぃちゃんが作っていたカレーライス。そして私の家から持ってきた鯖の味噌煮。うーん統一感が無いような気がするけどまあいいか。

 明日も頑張ろうっと。

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