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第四十五話 カウントダウン(二)

 文化祭まであと八日――。

「今日も遅くまでお疲れ様でーす」

 私はしぃちゃんと亜由美に頭を下げた。遅くまで頑張ったのは私も含めてだけど。

 今日は屋台を出す団体の人たちに注意事項を説明し、正門の作成のお手伝いをし、「ミス文京大学コンテスト」のパンフレットの仕上げ作業と……。大変な一日だったなー。

「『ミス文京大学』のパンフレットは明日私が業者に直接届けます。完成は……三日後ですね」

 亜由美がパンフレットの原稿をプリンタから取り出しページを丁寧に揃える。

「そういえば、文化祭のパンフレットも明日入稿だったね」

 私の脳裏に夜遅くまでコピー機やPC相手に闘っていたけーまの姿が浮かんだ。

「けーまもここ数日は家に帰れなくてかわちゃんの家に泊まっていたからねー」

 しぃちゃんが何気なく呟く。

 けーまの彼女であるかわちゃんの家はここから歩いて十五分の千石せんごくにある。彼女の家に泊まったということは……。

「しぃちゃん、何気に危ない発言しないでよ」

「えー? 彼氏が彼女の家に泊まるのは普通のことでしょー?」

 しぃちゃんは帰り支度をしながら首を傾げる。

「そう、だから泊まるってことは普通……」

「はい、ストーップ!!」

 亜由美の右手が私の口を塞いだ。

「かっちゃん、それ以上は言わないことです。そんなことを考えている部分を文化祭のために使ってください」

 まあ確かに切羽詰った時期だけどさ……。もう今日の仕事は終わって帰る時間でしょ。と、私は立ち上がって亜由美の右手から解放された。

「ところで亜由美は『ほにゃらら』とか『ふにゃらら』とかしたの?」

「は? 『ほにゃらら』、『ふにゃらら』ってなんですか」

 ああ、そうか亜由美は知らないんだったな。

「もーう、かっちゃんそんな厭らしい話しないでよ……」

 しぃちゃんが顔を赤くさせながら私に抗議する。しぃちゃんは去年から聞いているから「ほにゃらら」「ふにゃらら」の意味を理解している。

「いやー、女同士だしさー息抜きにぶっちゃけた話をしながら帰ろうかと思って……」

 私はバックを右肩にかけて部屋の出口へと向かう。

「なるほど……、先ほどかっちゃんが想像していたことが『ほにゃらら』と『ふにゃらら』という言葉に集約されるわけですね」

 亜由美がバックを左肩にかけて立ち上がる。さすが亜由美、理解が早いこと。

「その件についてですがしぃちゃんには既に言ってあるのでかっちゃんにだけ言わないのは不公平ですね。答えましょう」

「え!? しぃちゃんには話しているの?」

 亜由美の意外な回答に私は驚いてしぃちゃんを見た。しぃちゃんはまだ顔が真っ赤だ。

「そりゃ毎日お泊りしていたらそのうちそんな話になるよ……」

 しぃちゃんは真っ赤な顔のまますたすたと部屋を出てしまった。私と亜由美がそれに続く。

「ところで、亜由美。私の質問の回答は?」

 階段を下りながら私は亜由美にもう一度質問を投げかける。

「ああ、その件ですか……」

 亜由美は上を見ながら頭の中で回答を整理する。上を見ながら階段を降りるなんてよく足を踏み外さないな、と私は感心しながら亜由美を眺めた。(そういう私もよく階段を踏み外さないな)

「今まで彼氏になった人は二人です。その二人とも『アリ・アリ』でした。これで納得ですか」

 「アリ・アリ」って「ほにゃらら」と「ふにゃらら」が両方あったってことね。なんかアイスコーヒーを頼むときのような回答だな。

「では」

 と、階段を降りきった亜由美が私の目の前に姿勢正しく立った。

「かっちゃんの話も聞きましょうか」

「えー、私も話すの……」

 私は亜由美をかわして質問から逃れる。

「私だけ恥ずかしい話をさせて自分が話さないというのは無礼の極みと言うものですよ」

 亜由美が私の右隣にぴったりとくっつく。

「そうね……、亜由美の言うとおりだね……」

 と、言うわけで私は白山はくさんの町を歩きながら過去に付き合ったことのある唯一の彼氏の話をした。えーと確か名前は小田林おだばやしだったかな。

「酷い話ですね……、かっちゃんの体を散々弄んだ挙句、『名前が変だから別れよう』だなんて……」

 亜由美は本当に酷いと思っているのだろう。目が怒っている。

「こらー、亜由美。『弄んだ』なんてこと言わない。私が惨めになっちゃうじゃない……」

 私は左手で亜由美の頭を軽く小突く。

「すいません、ついその男が許せなくなって……」

「かっちゃんの彼氏のことはここまでにしようよ。かっちゃんやっとそのショックから立ち直れたのだから……」

 しぃちゃんが私と亜由美の間に割って入った。

 過去の彼氏のことが整理できたのは、私の名前に対するコンプレックスが克服できたからである。それと同時に私が「御徒真知」になった真の理由としぃちゃんの実家に対するコンプレックスを知ることができ、私としぃちゃん(それとはるちゃん)の仲はますます深くなった。

 気がつけばあれからもう一年が経っている――。

「そう言えばそんなことがショックだったこともあったね、しぃちゃん」

 私はしぃちゃんの頭を優しく撫でた。


 文化祭まであと四日――。

「パンフレットができましたよー」

 亜由美がどこから借りて来たのか、台車に出来上がったばかりのパンフレットを持ってきた。

「こうして見ると五百部って結構な数だね」

 一冊一冊は薄いものだけど塵も積もればなんとやらだ。(でもこのパンフレットは決して塵じゃないからね!)

「あと、けーまから文化祭のパンフレットを何冊か譲ってもらいました」

 亜由美が机の上に置いた文化祭のパンフレットは、私たちが作った「ミス文京大学コンテスト」のそれよりも数倍厚い(しかも表紙はカラーだよ!)ものだった。

「けーまもよく頑張ったよね・・・。これで一安心ってところかな」

 私は表紙から数ページを適当にめくっていくと、偶然にもうちの広告に行き当たった。でかでかと「御徒和菓子店(おかちわがしてん」と書かれているその広告を見て、私は照れ臭くなり冊子を閉じる。自分で頼んだこととはいえ、こうして形になったものを見ると恥ずかしいものだ。

「でもまだ門は完成していませんから、まだ彼の仕事は終っていませんよ」

 亜由美はそう言いながら私の前にパンフレットの山を積み出した。

「それに、パンフレットが正確に印刷されているか確認する仕事が残っています。もちろん私たちが作ったパンフレットもこれから確認をしないと」

「嘘!? これ全部見るの」

 五百部もあるパンフレットを三人で確認するの?

「もちろん、他のイベント企画のメンバーを呼びますけど、全員が集まるとは限らないので、一人当たり二十部から三十部は覚悟したほうがいいでしょうね」

 それだけでも大変な数だが、事実私はこれから二十五冊のパンフレットの確認作業に映らなければならないのであった。そのため今日の帰りの時間も午後十時を過ぎてしまった。

 文化祭まで残りは三日。その三日間もこんな調子になるのかな……? 

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