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第十九話 眠いけど、面接

「はい、しぃちゃん真ん中の椅子に座って」

 眠気に襲われてまともに歩くこともおぼつかないしぃちゃんを導いて、私は亜由美が確保した六階の教室にたどり着いた。左から亜由美、しぃちゃん、私の順に座る。

「届出を出した順に今日は十五のサークル、部活と面談します。面談の内容は……」

 そこまで言って亜由美は目を閉じ、顔を机へと傾けたが、

「面談の内容は、出し物の大まかな内容とコンセプトについてです」

 と、頬を右手で軽く叩きながら用意したプリントを渡した。亜由美も眠いのだ。

 私も眠いのだが、はるちゃんに二度も眠気覚ましをくらい、さらにしぃちゃんが心配なせいかあまり眠くない。

 最初に入ってきたのは髪の毛全体をまるで竹箒のように上に尖らせた、サングラス姿の男子学生だった。頭が派手な割には、服は緑のシャツにジーパンとインパクトが無い。

「毎度おなじみ鉄道倶楽部でございます。私部長の林田和義はやしだ かずよしと申します」

 いや、あなたと会ったのは今日が初めてだから。

「ほら、しぃちゃん起きて。面接始めるよ」

 私がしぃちゃんの肩を揺らすと、しぃちゃんは薄く目を開けて林田部長に尋ねた。

「鉄道倶楽部は今年、何をするつもりなのですかー?」

 しぃちゃんの質問に林田部長はサングラスの奥の目を光らせた。

「今年は『東京とともに六十年』のテーマに合わせて上映会をやろうかと」

 上映会? 鉄道に関する映画でも製作するのだろうか?

「東京を走る山手線から見える風景をずっと流し続けます。我々はそれを見ながら酒でも飲んだり、つまみを食べたり、鉄道について語り合ったりしようというわけですな」

「ちょっと、待ってください。酒を飲みながら、って言いましたね?」

 亜由美が身を乗り出し眠そうな眼を(いつもだけど)鋭く林田部長に向ける。

「はい、カップ酒なんかが電車の旅っぽくって丁度いいかと」

「文化祭には子どもや未成年の方も来るのですよ。お酒が出るのはあまり感心しません」

 確かに大人っぽい中学生や高校生がお酒を飲む可能性が出てくるな。って私たちも去年未成年なのにお酒飲んでいたな。

「んなこたぁー気にしない」

 林田部長は箒頭と右手を思いっきりふった。

「入り口でちゃんと年齢確認もするんで大丈夫でしょう」

 居酒屋でもそういったチェックをするお店が最近増えている。

「まあ……、ちゃんとそれができるならこちらとしては何も言いませんけど……」

「そんなに心配なら実行委員の誰かが時々見回りに行って確認すればいいじゃない」

 私がそう言うと、亜由美は「まあ、それなら……」と背もたれに背を預けた。

「鉄道と言えば……、かっちゃんも鉄道オタクさんだよね」

 いきなりしぃちゃんが私に微笑みだした。

「え……!?」

「違うわよ、私は鉄道マニアじゃないわ! 東京の大学生がみんな知っていることを知っているだけよ」

 東京近郊の駅名や路線なんて学生手帳の裏面に載っているじゃない。私が知っているのはその程度。鉄道マニアの方とは知識量に差がありすぎる。

「ほう、鉄道が好き。じゃあこの問題に答えられますか?」

 林田部長は私の言い訳を聞かずにサングラスの奥の瞳を光らせる。

「な、何よ。難しい問題なんて答えられないわよ」

「山手線内に唯一ある踏切は何駅と何駅の間にあるでしょうか?」

 そんな問題答えられるわけ無い。山手線の駅名は全て答えられるけど、山手線を電車に乗って一周したことなんて一度もないからだ。

「え、えーと……。目黒めぐろ五反田ごたんだの間?」

 私は通過したことのない駅を適当に答える。それを聞いた林田部長は

「素人が……」

 と鼻で笑った。

 鼻で笑われたのは悔しいが、鉄道マニアの方に鉄道マニアじゃないと認められたのはちょっと嬉しい。でもなぜか心に少し寂しさを覚える。

「なーんだかっちゃんは鉄道マニアじゃないのか……」

 しぃちゃんは残念そうに目を閉じた。


 続いてやってきたのは髪をポマードで固めてオールバックで鼻の下に貴族のような髭を生やした男子学生である。

 この顔どこかで見たことあるな……。確かスペインの画家だったかな……。えーとピカソじゃなくて、誰だっけ? ダリだっけ?

「茶道部部長、古屋佐助ふるや さすけでございます」

 古屋部長はパイプ椅子に正座すると私たちに頭を下げた。

「いや、正座なんてしないで普通に座ってください……」

 そんな姿勢では不安定ではないか。

「このほうが落ち着くのでございます」

 背筋を伸ばして私たちを鋭く見つめる。

「あ、それならどうぞご自由に……」

「ところで茶道部は今回どのような企画を考えているのですか」

 亜由美がペンで何かを書きながら尋ねる。

「四号館の屋上を貸し切りにし、そこで野点のだてをしようかと思います」

「えっ、のだ○?」

 それまで小さな寝息を立てていたしぃちゃんが突然目を開ける。

「いや、しぃちゃんの○めじゃなくて野点だから。屋上でピアノを弾くんじゃなくて、茶の湯をするのよ」

 屋上でピアノを弾くなんてどんな茶道部だ。しぃちゃんは再び眠りの世界へと入る。

「そう野点。屋上で茶をたててお客に振舞うのでございます」

「でも……毎年部室でお茶をたてていたのにどうして今回は屋上なんかでするんですか?」

「今年のテーマに合わせて、東京の景色を見ながらお茶を振舞おうと思いまして……」

 そう言いながら古屋部長は体を前にかがめる。

「幸いこの周囲には高いビルもありません。東京の風景を見ながら温かいお茶を飲むというのは、まさに数寄すきのきわみ……」

 ほらほらそんなに体を前に出すと……。

 ガタンと音を立てて椅子が前に傾く。当然そこに正座している古屋部長は前へと倒れるわけで……。

「げひいいぃぃぃぃぃ!!」

 哀れ古屋部長は思いっきり顔を床に叩きつけられるのであったー。


「次の方どうぞー」

 私の声に促されて入ってきたのは背の高くて短髪の男子学生。だけど初対面だけどなんだか頼りなさそう。私たちを見ておどおどしているし……、緊張しているのかな?

「そんなに緊張しないで座ってください」

「は、はい……」

 亜由美の淡々とした言葉に反応して彼は椅子に座る。

「あ、あの……さっきの人鼻血を出していたんですけど、何かあったんですか? それに床にも血が落ちているし……」

「ああ、あの人ですか」

 亜由美が半ば呆れたような声で事情を話す。

「そ、そうだったんですか……。てっきりあなたたちの誰かに殴られたのかと思いました……」

 おどおどしている割にはなかなか結構なことを言ってくれるな、この人。ほっと胸を撫で下ろす仕草を見るにたぶん悪意は無いのだろうけどチャレンジャーだと私は思う。

「そんなわけがないじゃないですか。……まあこの真ん中で寝ている人が殴ったら鼻血ぐらいじゃすまないと思いますけどね……」

 亜由美がしぃちゃんの頭を優しくなでる。しぃちゃんは「うーん」と小さな声を上げて体を正面から右向きに変えた。

「えっ、そんな……」

 可愛そうに、彼はガタガタ震えているぞ。

「大丈夫だって、しぃちゃんが怒ることなんて滅多に無いからあなたは殴られないわよ」

「そ、そうですか……。よかった……。あ、忘れていましたすいません。男子バスケ部の部長を務めます、成瀬守なるせ まもるです」

 姿勢を正しくきりっとした視線を私たちに送る成瀬部長。この頼りなさそうな人が部長か……。

「それで、男子バスケ部は今年何を企画するのですか?」

「体育館のコートを半面借りまして、そこでダンクコンテストを行いたいと思います」

「ダンクコンテスト?」

 私の問いに成瀬部長は笑顔で頷いた。

「はい、みんなにダンクシュートを打ってもらい、その優雅さ、カッコよさで勝負を決めたいと思います。ダンクというのはボールから手を離さずにそのままゴールに入れるシュートのことです。両手でリングに掴まったり、片手で叩きつけるように打ってもオッケーです」

 ダンクコンテストか……。面白そうだけど一つ問題がなぁ……。

「でもそれって、参加者が限られません? 背の高いジャンプ力のある方じゃないとダンクシュートなんて決められないでしょう? 私たちみたいに身長のない女性はただ見るだけと言うんですか?」

 亜由美に先に言われてしまった。

「その心配はありません。このダンクシュートは二人一組でも三人一組でも大丈夫です」

「と、いいますと?」

「要はボールがゴールに入るときまで手を離さなければよいのです。みんなで力を合わせてダンクシュートを打てばいい。極端な話二人で肩車をしてゴールにボールを置くだけでも充分このコンテストでは成立するのです」

 熱心に自分の企画を語りだす成瀬部長。入ってきたときはなんだか頼りなかったが、自分の考えについて語っている彼を見ていると、話に引き込まれるというか……、なんだか頼もしそうだ。

「体力じゃなくてとんちで勝負! ということだね」

 しぃちゃんが突然目を開けて頷く。「とんち」って、室町時代のお坊さんじゃないんだから……。

「そうですね、体力よりも知力や発想力を使ったほうが優勝できるかもしれません」

 発想力か……。例えば小学生のクラス三十人で龍の仮想をして口からバスケットボールを吐き出させるとか……。二人で「ししおどし」の仮想をして「コン!」と音が鳴るタイミングでボールをゴールに叩き込むとか……。おいおい、これじゃあダンクコンテストじゃなくて仮想大賞だぞ。十五点以上で合格かい?

 まあさっきの二人よりはまともなキャラだったな、成瀬部長は。

「まあ三人も面接すると疲れるねー」

 私は机に手を伸ばしだらける。

「まだあと十二人と面接するんですけど」

「えっ! まだそんなにいるの!?」

 私の大声にしぃちゃんは目を覚まして。

「よーし、二人とも一緒に頑張ろう」

 と呑気に声を上げるのであった。

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