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第十一話 突撃!隣の文化祭

「突撃! 隣のぶんかさーい!!」

 と、勢いよく叫んで右腕を上げたのは六人の中で私一人だけだった。

「みんなノリが悪いなー。もう一度行くよー」

 私は腰につけた右ひじに力を入れる。しかし

「いや、もう一度それをやられてもやらないから」

 このけーまの一言に力が抜けてしまった。

「というか誰かの真似なの? それ」

 かわちゃんはこれの元ネタを知らないらしい。

「隣と言ってもうちの大学から歩いて十五分もするだろ」

 タカビーがもっともな意見を言う。

「それにここに来る途中女子大があったので、正確には隣の隣ですね」

 亜由美がいつもの冷ややかな声を私に向ける。

「もーう、見ているこっちが恥ずかしいよかっちゃん」

 とどめのしぃちゃんの一言。私の一発ギャグ(オリジナルじゃないけど)は全員のブーイングの中に消えた。

 私たち理事会のメンバー五人と、亜由美を含めた六人は今文京大学から歩いて十五分〜二十分離れたところにある東都とうと大学の正門前に来ている。

 歴史・レベルともに日本一のこの大学になぜ私たちが来ているのかというと、秋に行われる私達の大学の文化祭の参考のため、東都大学の文化祭を見に来たのだ。文化祭と言えば秋のイメージがあるけど、この大学は毎年五月に文化祭を行っている。さすが日本一の大学と言うべきか。

「この広い大学を六人全員固まってだと回りきれないと思うので、ここから二人ずつに分かれて行動したいと思います」

 誰が決めたわけでもなく私がグループ分けの合図を出す。

「私とダーリンは誰がなんと言おうと一緒です!」

「じゃあかっちゃん、私と一緒に行こうか」

 一瞬にして三つのグループが決まった。かわちゃんとけーま、私としぃちゃん。そしてタカビーと亜由美。

「……私、この人あまり知らないんですけど」

 亜由美が淡々とタカビーの顔を見る。

「そんなこと言うなよ。俺も君の事あまり知らないけど」

 タカビーが困った笑みを浮かべながら返す。

「まあまあ二人ともここでお知り合いになればいいじゃん」

 私は二人の肩を軽く叩く。

「そうだよ、これが恋の始まりになるかもしれないし!」

 かわちゃんがけーまの腕を強く握り締めて二人の仲をアピールする。

「恋の始まり……」

 亜由美とタカビーが互いの顔をじっと見る。そして小さく「うーん」と声を漏らして悩み始めた。二人ともものすごく低い声、まるで冷蔵庫のようだ。

「そ、それじゃあ東都大学文化祭、はりきって楽しみましょー」


「さて、しぃちゃんまずはどこへ行きましょうか」

 パンフレットを開きながら私はしぃちゃんに声をかける。

「そうだねー、まずはいろいろ出店を見て回ろうよ。どんなメニューが出ているか、参考になると思うんだ」

 広い東都大学の通路の両側をたくさんの出店がひしめいている。狭くなった通路をたくさんの人が行きかう。今日は文化祭の日なので、お年寄りからベビーカーに乗せられた赤ん坊まで道行く人の顔は様々だ。

 お客を呼び止めようと自分の店をアピールする学生達の声や歩く人々の話し声――。様々な音が三百六十度の方向から私達の耳に入る。

「鳥の唐揚げいかがですかー!」

「次どこ見に行くー」

「冷たいカキ氷でーす!」

「ママー、いちご食べたーい」

「キャベツと豚肉いっぱいの焼きそばどうでしょー!」

 人ごみを掻き分けながら私は屋台のメニューに目を向ける。

「うーん、どれもおいしそうだな……」

 しぃちゃんは時折爪先立ちになって屋台の様子を眺める。

「やっぱり屋台の定番と言うべきメニューが多いね。かっちゃん買っていく?」

 鮮やかな緑色の長針と短針を持つ腕時計を眺める。時刻は十時三十分をちょっと過ぎたばかり、お昼ごはんを食べるには早すぎる。

「いや、まだ時間的にいいような……。何か変わった屋台があったらそれを買おうよ」

「うん、そうだね。まだお腹空いていないし」

 人にもまれながら歩くこと五分。噴水の向こう側に大きな薄茶色の建物が見えた。

「これは図書館だね。入り口の前の広場でイベントをやるらしいよ」

 パンフレットを片手にしぃちゃんが解説する。

「今はダンスの時間だね」

 ダンス……、私はふとはるちゃんの顔を思い出した。

「かっちゃん、今はるちゃんのこと考えていたでしょ」

 しぃちゃんが私の顔を覗き込む。

「まあダンスと言ったらはるちゃんだからね。私もはるちゃんのことを考えていたよ。あと明石先輩と浅野先輩のことも」

 あー、いつも明るい笑顔のちょっとスケベな部長さんと、最近就職先を決めた頼れるお姉さんか。

「彼女達は今頃ダンスの練習でもしているのかな」

「そうだね、文化祭実行委員の仕事じゃなくてただの遊びだったらはるちゃんも誘っていたんだけどね」

 歩くにつれ薄茶色の図書館が私達の視界を占めていく。その下のほうにたくさんの人の背中――、その隙間からはダンスを踊る男子学生の姿。

 おそらく白い服を着ているであろう男達は時折「そいや! そいや!」と声を張り上げる。

 人ごみの手前にある噴水に目をやると、つい先ほどまでダンスをしていたのであろう、赤いユニフォーム姿に身を包んだ女の子達が汗を拭いて、ってあれは……。

「はるちゃん!?」

「そうだ、はるちゃんだ」

 はるちゃんは声に気づいたのか、こちらを向き私たちの姿を確認すると、「おーい」と手を上げる。私たちは小走りではるちゃんに駆け寄る。

「わー、すごい偶然、二人ともどうしてここに来たの?」

 はるちゃんは喜びのあまり先ほど汗を拭いていたスポーツタオルを放り出してしまった。

「うちの大学の文化祭の参考になればと思って来たの」

 しぃちゃんははるちゃんの投げたタオルを空中でキャッチしながら答える。

「それよりはるちゃんはどうしてここで踊っていたの?」

「そうだよ、はるちゃん。ここは東都大学だよ」

 はるちゃんは、右手を腰に当てて得意げな顔で、

「確かに、ここは東都大学。私たちが所属している文京大学じゃないわね」

 その後で厭らしい笑みを浮かべ、

「それでもここで私たちが踊れるのは明石先輩と浅野先輩がここの関係者に放ったお色気戦法のおかげ……、かな?」

 お色気戦法って……。なんだかくの一みたいだな。

「確かに、二人とも綺麗だからねー」

 しぃちゃんが笑顔でうなずく。私から見るに、浅野先輩はカッコよさの中に綺麗さと色気があり、明石先輩は明るく元気なかわいさの中に色気を感じる。

「こら、遙。それじゃあ答えになっていないでしょ」

 はるちゃんの頭を軽く手のひらで叩いたのは、「ISSEI」と大きく青で書かれた白いTシャツと水色のジーンズ姿の浅野先輩だ。

「うわー、かっちゃんとしぃちゃんだ。かわいいー!」

 明石先輩もつられてやってきた。今にも私たちに抱きつかんという気合を見せている。

「明石先輩、ここで抱きつくのはやめてください」

「分かっているわよかっちゃん、私もそれくらいの分別はついているから」

 と言う明石先輩だが、その目は大好きなビーフジャーキーを目の前にした私の飼い犬のペルと同じ光を放っている。本能がそうさせているのだろうか? とにかく彼女に隙を見せるわけにはいかない。

「ところで、なぜここでダンスをしていたのか、ということなんですが……」

 しぃちゃんが浅野先輩を見上げて話を戻す。

「あ、そうそうその事」

 浅野先輩曰く、先輩達が所属しているダンスサークルには自大学の中だけでなく他大学ダンスサークルとのつながりもあり、その縁で文化祭に呼ばれることもあるとのこと。

「私は就職活動のせいで練習できる時間が無かったから今日はマネージャーとしての参加なの」

 なるほど、文化祭で他の大学のサークルを呼ぶという方法もあるのか……。

 ところではるちゃんはこの後暇なのだろうか? せっかく、会ったのだから一緒に回りたい。

「はるちゃん、よかったら一緒に文化祭回ろうよ。『文化祭とサークルの関係』について聞きたい話もあるし」

 他のメンバーとの手前、文化祭関連の話もしておかないとただの遊びになってしまうじゃない。まあただ遊ぶだけのつもりはないけれどね。

「え、いいの? 先輩、次の出番までまだ時間があるからいいですよね」

「いいわよー。時間になったらちゃんと戻ってきなさいね」

「せんぱーい、私も三人と一緒に行きたいよぉ」

 私たちに飛びつこうとする明石先輩のこめかみを浅野先輩が強く抑える。

「あなたは部長としての仕事をしなさい。他のサークルへの挨拶周り済んでいないでしょ」

「うう、前が真っ暗で見えないよぉ」

 手のひらを思いっきり前へ広げて前に進もうとしている明石先輩を見ながらはるちゃんが部長の仕事について解説する。

「東都大学外のダンスサークルでこの文化祭に来ているのは私たちだけじゃないから、これを機会に知り合いを増やそうってことなのよ」

 部長の仕事は大変だなぁ。

 というわけで、私たちの文化祭めぐりにはるちゃんが加わった。

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