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のんびりした感じの小説

墓参り

作者: オリンポス

ブログにも掲載しています。

 目の前には巨大な墓石が建っており、そこには幾人かの参拝客が見えた。

 目の前とはいってもそこは丘陵地帯になっており、すこし下ったところに墓石がある。だから、目の前と描写したものの、目と鼻の先という意味ではない。つかず離れずの位置のことだ。

 ぼくの両隣には、両親ならびに叔母さんがいた。

 彼らからはどこかゆったりとした心持ちが感じられる。

 しばらく辺りを眺望していると――参拝客が手を振ってきた。目を凝らしてみると親類縁者らしい。故・従兄弟の姿もあった。

 あれ……。従兄弟は亡くなったはずでは?

 だとするとこれは夢か。

 ぼくは従兄弟の葬式の際、一度たりとも一滴たりとも涙を流さなかった。

 当時のぼくはそんなぼく自身を俯瞰的に、まるで舞台のモノローグでも聞いているかのように受け止めて――自分の感情を分析していた。

 ぼくは悲しんでいないのだ。ぼくには人情がないのだ。ぼくには思い出がないのだと決めつけ自虐し続けてきた。

 当然だと思った。

 ――「人とちがう」ということはそれだけで『罪』なのだから。罪には『罰』が必要だと思った。

 だからこその自虐。

 人でなしゆえの苦しさを背負ってきた。

 しかし――それはちがった。

 ちびまるこちゃんの作者、さくらももこは、息子の葬式では泣かなかった――どころか笑っていた。

 と、どこかのエッセイ本に書いてあったような気がするが、もしかしたら人ちがいかもしれない。しかし彼女は決して気ちがいではなかったし、悲しんでいないわけでもなかった。

『受け入れられなかった』のだ。ぼくも同じだ。

 棺桶に入っている遺体はまるで熟睡しているようで、寝ぼすけだからこんなところに入っていても気付かないんだなーなんて思っていた。死化粧が施されているから、顔色もいつも通りだった。仏間で線香臭い部屋にいることをのぞいてはなんの変哲もなかった。

 ただし、心のどこかでは覚悟していたのかもしれない。

 遺体に触ることができなかったのだ。

 ぼくは愛犬を失ったことがある。寿命なのだが、死後、間もなかったのでまだ温もりがあった。

 しかしその温度もしだいになくなり、犬の身体は硬くなっていった。死後硬直だ。

 それを確かめるのが怖くて――確かめたら従兄弟の死を受け入れさせられそうで、それだけは避けた。

 明日になればまたヒョッコリと姿を現すだろうと信じていた。たぶん平常を保つにはそれしか方法がなかったんだと思う。

 出棺までの一日は、遺族の家で過ごした。

 ぼくは2階にある従兄弟の部屋に行って、プレステ3をやった。戦国無双だったような気がする。

 従兄弟が寝ているうちにすこしでも進めてあげようと思った。進められずともレベル上げはできると思った。

 部屋の中はタバコ臭く、生活感が漂っていた。

 外が暗くなってきても、ぼくはそこに居続けた。もしかすると亡霊に会えるかもしれないからだ。

 結果――会えなかった。

 階下がだんだんと騒がしくなってきた。

 故人の同級生・同僚・親類縁者だとわかった。

 すすり泣く声が聞こえる。――対してぼくは泣いていない。

 とにかく泣かなきゃ! なんて思いながら「YUI」のライブDVDをみた。TOKYOという曲を聴いているとなんだか泣けてきた。

 これは上京の寂しさと希望をつづった歌だ。

 この世からあの世へと上京する従兄弟と重ねて泣いたのかもしれないし、YUIの歌に感動しただけかもしれない。

 十中八九、後者だったはずだ。


 なんとなく墓石を眺めていると、従兄弟と親類縁者は拝み始めた。

 しばらくして顔を上げると、従兄弟は墓石に近づいていった。石階段を上っていく。

 ぼくはもしや、と思った。

 もう一度人数を数えてみる。ひとり足りなかった。それは紛れもなく、従兄弟の姿だった。

 ぼくは号泣した。

 人目を気にせずに泣き喚いた。

 寂しくて悲しくてどうしようもなくて、泣いた。

 しゃくりあげるように泣いた。

 だけど――嬉しかった。

 自分にも人情があるんだとわかって嬉しかった。

 仕事がんばれよと勇気づけられたようで、嬉しかった。


 夢から覚めても、ぼくは泣いたままだった。

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