表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

sweet edge

ハルがサークルを辞めた理由

作者: 真織

 ハルは、格好いい。

 見た目がとにかく群を抜いている。

 男の目から見ても、そりゃ惚れるよなーって感じのイケメンだ。性格も、あっさりしてて嫌味がなく、よく気がついて、気配り上手。彼氏にしたら、最高だろう。


 ハルこと、藤崎遥人ふじさきはるひとと、オレ、西井亮介は、大学に入って一般教養のクラスで一緒になり、たまたまテニスのサークルでも一緒になったので、よくしゃべる方だと思う。

  オレのサークル選択は、もちろんレベルの高い女子が多いというんで決めた大所帯。ハルは、もともと知ってた先輩に引っ張られたようだ。先輩の目論みは明らかで、ハルを女子寄せパンダにするためだったんだろう。

 その先輩の目論みは当たり、一回生もかなりハイクラスな女子が集まった。

 ただ、問題は……、その中に、あまりにも露骨にハルを狙う女がいて、他の女子や先輩方との確執が大きくなっていったことだった。

 ハルは、多分それを押さえようとして―――これはオレの勝手な推測だが、夏前に大野と付き合い始めた。

 大野は派手めな美人で、オレのタイプじゃないけど、一般的には男受けするタイプ。だけど、大野の独占欲はすごくて、彼女って立場だけではおさまらなかった。それに、ハルは相変わらず、誰にも気配り上手な優しい人をするから、大野は我慢できなかったんだろう。先輩をダシに、ハルの目を自分に向けさせようとしたり、散々だった。

 そして、学祭前に爆発して、大野とハルは別れた。かき回すだけかき回したサークルも、大野はさっさと辞めた。

 二人が付き合っていたのは四ヶ月あまり。ハルが言うには、まあまあ続いたほう、らしい。それでも彼女が切れたことがほとんどないって言うんだから、いったい何人と付き合ってきたんだと横槍を入れたくなる。

 それでもハルは、大野に最後に言われた『ハルは誰も好きにならない』って言葉に意外にナーバスになっていた。

「あれ、けっこう当たってるんだよね」

そう言って、笑ってた。

 ハルは、落ち込んでいても、周りの他の連中にはわからないように隠してしまう。だから、学祭の模擬店の大野が抜けた穴を、

「かわいい子、引っ張ってこいよ」

と押し付けられた。もちろん、ハルは、自分から誰か探すつもりだっただろうけど。

 それで出てきたのが、長谷川さんだ。真面目で、おとなしそうなタイプ。あんまり前にでないから埋もれてるけど、オレ的には大野とかより可愛くていい。

 川崎の出した無茶な英語の課題をきっかけにして、ハルは、長谷川さんにすんなり学祭の手伝いまで頼んでしまった。

 学祭当日は、ハルの隣で、ちょっと頬を染めたりしながら一生懸命たこ焼きを焼く長谷川さん。それを見ながらオレは、「ちくしょー、長谷川さんもかー」と、たこに八つ当たりしてぶった切っていた。


 今日は久しぶりにサークルで、ハルと顔を合わせた。

 先輩たちがコートを占拠しているから、審判役でも玉拾いでもない一回生は、ただコート脇で観戦するしかない。

 先輩たちの練習自体そんなに見ごたえのあるものでもなく、飽きてきたオレは、隣のハルに小声で聞いてみた。

「それで? 長谷川さん、どーすんの?」

次は長谷川さんと付き合うんだとばかり思って。だけど、ハルは、

「付き合わない」

と断言した。

「なんで? この前デートしたんでしょ?」

オレは知ってる。川崎の英語が休講になったとき、「長谷川さん、講義室にまだいるかな?」と呟いたハルが、しばらく考えてから走っていったこと。

「うん、だから」

って、何がだからなのか、さっぱりわかんねーんだけど。

 ハルの自己完結した返事に、オレはちょっとイラっとした。

「……付き合っても、俺は、誰も好きにならないから」

オレの苛立ちをなにげに感知したハルは、そう説明した。

「長谷川さんとは、付き合えない」

どこか、遠くを見るような目で。

 オレは、なにも言えなかった。ハルが、滅多に見せない傷ついたような顔をしていたから。

 お前、それって……。

 付き合っても、好きにならないから、付き合わない。レトリックのようだけど。

 好きになりたいって、聞こえる。

 ……違うのか? なあ、ハル? 


 その日を最後に、ハルは、テニスサークルを辞めた。ごたごたが、表面から消えたのを見計らって、自分の役目は終えたとばかりに。

 もともとハルは、このサークルに長くいるつもりはなかったんだろうなと感じていた。

 まあ、サークルっていう接点はなくなったけど。オレはハルとは切れる気がしなかった。

 ハルのこれからを、見ていたいって思ってしまったオレがいる。

 ハルが、どんなふうに人を好きになるのか、見てみたい。

 だからオレは、ハルを見かけたら声をかける。「ハルー、どこ行くのー?」ってね。




 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これは好みとかいろいろあるんですけれども、私は好きですねー。大学生のサークルにまつわる実話をただ淡々と書いただけなんでしょうけれども、嫌味もケレン味もない筆運びで、やはりお上手な方がさらり…
2013/10/21 00:07 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ