チョコレート中毒① 邂逅
理由あって双葉ちゃんの過去編をやることになりました
如何にして双葉ちゃんをより可愛く見せるか模索中です
全身を刺す冷気は日ごとに増してゆくばかり。
あたしは双葉夏希。名前には夏が入っているが、冬の方が好きだ。今年の春から高校2年生になる。好きな食べ物はチョコレート。
当時のあたしは、まだ吸血鬼ではないごく普通の女子高生だった。
「寒いねフタバ」
「ああ、学校に行きたくない」
あたしにも友達がいた。
六合村 芽衣という名前だ。
中学時代からずっと同じクラスの腐れ縁。彼女のことは割と気に入っていた。自由奔放で人間関係を重視しないあたしには、ぴったりの友達だ。
「いいこと思い付いた! フタバが事故に遭って救急車に運ばれて、私がそれに付き添えば学校に行かなくてすむ」
「あたしの損害については総スルーかよ」
「じゃあ私が事故る役やるよー……」
「そこまでして休みたいか!?」
駅から学校までの徒歩10分程度の道のりを、あたしたちは毎日一緒に登校している。歩くのは面倒だが、隣に仲のいい友達がいるだけでその10分間は退屈せずに済んだ。それについては、あたしは六合村に感謝しなければならない。
「六合村、今日の小テスト勉強した?」
「? なんで?」
「お前には勉強という概念がなかったね。ごめん、野暮なこと訊いて」
「その言い方は腹立つなぁ……」
「ははは。でも紛れもない現実で――まふっ」
この『まふっ』は意図して言った言葉ではない。意図してこんな可愛い声を出すほどあたしは可愛い女の子ではない。
後ろにいる六合村を横目に通学路を右折すると、人にぶつかってしまったようだ。
お互い大した速度ではなくお互い厚手のコートを着ていたおかげで怪我には至らなかった。
「す、すいません」
ぶつかった人はあたしよりも頭ひとつ分背が高く、見上げるような形でその人の顔を仰ぎ見た。
「ヒッ……」
思わず短い悲鳴が出てしまった。
相手は10代後半から20代くらいの青年だった。真っ先に目についた金色の髪と、平均的な日本人男性より高い鼻を見て、一瞬で外国人だと想像がついた。
いや、それは然程問題ではないんだ。
問題は、長い前髪から覗く瞳。蒼い瞳から放たれる眼光は鋭く、殺気を帯びているようにも見える。
「すみません。自分の不注意でした」
青年はその見た目に反して落ち着いた日本語で謝罪を述べた。しかし殺気はちっとも落ち着いていない。むしろ目が合ってしまったことにより、あたしは更に恐怖した。
「いえ、あたしがちゃんと前を見てなかったのが悪いんです。お怪我はありませんか?」
「お気になさらず。貴女は、どこかお怪我は?」
「大丈夫です」
こんな丁寧な日本語を使ったのはいつぶりだろうか……。
安全を確認したや否や、青年はあたしたちの学校指定のコートに目をやった。
「その制服は……」
「? うちの学校を知っているんですか?」
我が校はまあまあの進学校だし、制服のデザインにも定評があるので知っていてもおかしくはない。
「いえ、実は、自分も今その学校に向かおうとしていた最中でして。ところが道に迷ってしまったんです。お恥ずかしい限りで」
「そうだったんですか? よければ案内しますよ。ぶつかったお詫びもかねて」
「お願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。どうせ学校には行かなくちゃいけませんし」
見た目とは違って意外と好青年だな。口調も態度も丁寧だし。
「フタバ、本気?」
「本気もなにも、どうせ通学路なんだからいいだろ?」 「そうじゃなくてさ……。まあ、いいけど……」
?
六合村の様子が少しおかしかったが、あたしは構わず青年を学校まで案内。校舎に入り、職員室のあるフロアを教えて、彼と解散した。
「ありゃーヤバイよ……」
「なにが?」
青年の後ろ姿が小さくなって間もなく、六合村がなお小さく囁いた。
「何って、あの人だよ! あの眼はやーばいよー……。2・3人は殺ってる眼だよあれは……」
「そうかなー。確かに不気味ではあるけど、いい人そうだったし、問題はないんじゃない?」
「一応警戒はしといた方がいいよ……。顔覚えられたかも」
「六合村は警戒しすぎ」
「フタバが不用心なんだ……。用心するに越したことはないよ。最近は何かと物騒だし」
「一応聞き入れとくよ」
あたしの雑な態度に、六合村はまだ少し納得がいっていなかった。
そしてあたしたちはあまり時間が無いことに気がつき、急いで自分達の教室に向かった。