ストーキングは程々に
この話ゎ……ストーカーの恐怖ぉ考えるぉ話…………割りとガチで……
待ち伏せ。
それは卑劣な行為。僕は大っ嫌いだ。
「綴原くん。あたしに何か用……?」
僕はいつものように双葉さんを尾行していた。そして、双葉さんを追って右折すると、そこで双葉さんは、あろうことか僕を待ち伏せしていたのだ!
やはりストーキングには細心の注意を払うべきだったか。僕は甘かった。双葉さんを侮っていた。
「や、やあ。双葉さん。こんなところで遭うなんて偶然だね。いや、運命とでも呼ぶべきだろうか」
「どっちでもないと思う。ここ最近、君はあたしをストーカーしてたよね?」
「し、してないよっ! 僕はストーキングこそすれどストーカーは断じてしていない!」
「してたんじゃん……」
しまった! ばれた!!
謀ったな……!
「ふ……ふふふ……」
「……?」
「はっはははははははははははは!!」
「どうしたんだ……?」
「そうだよ。僕は君をストーカーもといストーキングしていた。……だったらなんだ!」
「開き直った!?」
ええいもう自棄だ。どうとでもなってしまえ。
「いや、僕は君に危害を加えるつもりはないんだ。ただ、君を観察していただけさ」
「観察? あたしを? 何のために」
「双葉さん、君は……みんなに隠していることがあるんじゃあないのか?」
双葉さんの表情がわずかばかり変化したことを、僕は見逃さなかった。
「してないよ。隠し事なんて」
「……まあとりあえずはそう言うよね。でも双葉さん。僕は君の秘密を暴いてみせる……」
「それは―――――、やめたほうがいい」
「!?」
やめたほうがいい?
お好きにどうぞ、ではなく?
それは……自分に何か秘密があるって言ってるような物じゃあないか。
「どういう、意味だい?」
「この際だから言うけど、そうだよ。あたしには秘密がある。それも、絶対に人には言えない秘密が」
やはりあるんだ。
僕の想像通りじゃないか……!
僕は今、最高に滾っていた。人生において初めて感じるほどの鼓動の高鳴り。この何の変哲もない世界に、何の変化もない日常に、僕は終止符を打ったのだ。こんなに喜ばしいことはない。
今この瞬間、僕は世界で一番非日常に近い存在なのだ。
自然と笑みが零れる。
「へぇ、やっぱりあるんじゃないか」
「綴原くん。もう二度と、あたしには近づかない方がいい」
「……何だって?」
「あたしが嫌だから言ってるわけじゃない。君の身を案じて言ってるんだ」
「は、はは。上等だ。やってやろうじゃないか」
「最悪死ぬかもしれない」
「……望むところだ。このままつまらなく朽ちるぐらいなら、いっそ盛大にその身を散らせてやる」
「変な人」
…………?
どこがだよ。
双葉さんは憑き物が落ちたように柔らかく微笑んだ。
「いいよ。ついてきたいならついてくればいい。その先に何があっても、後悔だけはしないようにね」
そう言って、双葉夏希は去ってゆく。僕を残して。僕の想いを置き去りにして。
癪なので。
やはり僕は、彼女をストーキングした。