それは犯罪だよ宗士くん!
綴原くんは純粋に頭がおかしいだけなので、暖かい目で見守ってやってください
双葉 夏希。
僕のクラスメイトにして頭脳明晰品行方正容姿端麗―――、才色兼備。ここまで揃いすぎていると逆に不自然だ。
きっと彼女には何か裏があるに違いないのだ。
僕はそう思い彼女をストーキングし、とうとう自宅の前までたどり着いてしまった。
後戻りはできないな。
双葉さんは家の中に入ってしまったのでもうその姿を追うことはできない。どこからか中を見ることはできないのだろうか?
しかし夜になれば何らかのアクションがあるかもしれないな。一晩中この家を見張っておくか。
家は、わざわざ四文字熟語を用いて称賛するほど豪勢なものではない。奇抜さにも欠ける。少しだけがっかりだが、この程度は想定内。むしろ、家が普通だからこそ、その裏に秘められた正体の暴き甲斐があるというものだ。
ひとまずは家が見渡せる距離まで引こう。あまり近くに寄りすぎると不審者だと思われかねない。双葉さんの家族が帰ってくる可能性も高いし。
と、僕はそう推察し、振り返ってみると―――――そこには、そこそこガタイのいい男性がいた。
外国人だろうか。髪の毛が金色だ。顔立ちも少し日本人離れしている。しかし、彼の前髪が長いのと黄昏時の薄暗さのせいではっきりと顔を確認できないので、確証はない。
はろー、と出てみるべきだろうか? しかしそれでは日本人代表として程度が知れてしまう。ここは、本格的な英語で冷静に会話すべきだ。それを実行できるほどの頭脳が僕にはあるのだから。
「Good afternoon」
「うちになにか御用ですか?」
テンパって陳腐な挨拶しかできなかった上に向こうは日本語流暢だった。
「いえ、用なんてとてもとても!」
「ならいいんですけど」
そう言って男性は、双葉さんが通ったあの玄関から家の中に消えた。
あれは誰だ?
双葉さんのお父さん? もしくは兄?
いや、双葉さんは見たところ純粋な日本人だ。血縁的な繋がりはないと推測できる。 だとしたら――――彼氏?
その説が一番有力か。少なくとも義理の兄だという説よりかは。
なんだ、双葉さん彼氏がいたのか。いるならいると言えばいいのに。しかし残念だな。彼女の秘密を暴くついでにあわよくば付き合ってやろうとか考えていたのに。
非日常に巻き込まれる系では王道中の王道だろう。しかし元カレがいたのでは、どちらにせよヒロイン性は大きく損なわれる。致命的だ。付き合う作戦は中止だな。
しかしよく考えてみれば浦島太郎だって竜宮城に連れていってくれた亀と恋仲になったわけじゃあないし、まだ計画の全てが頓挫したわけではない。
そう、双葉夏希はあくまで案内役。辿り着いた先で乙姫のような存在と――――。
「おにーさん、誰ですか?」
「うわぁ!?」
誰だ、乙姫か!?
違った。
そこには小学生の女の子がいた。小さな体躯に真っ赤なランドセルを背負った、女の子だ。
小学5年生くらいだろうか。
「あの、ここ、わたしのお家なんですけど……」
何……?
先程の男性が双葉さんの彼氏だとすると、この少女は誰なんだ?
妹という線はありうるが、それでは男性が「自分の家」と言っていた説明がつかない。自分の家だと言うなら、双葉さんと彼は同居している事になるが、そこに双葉さんの妹が一緒に住んでいるというのは少しおかしい。
「いや、僕は決して怪しい人間じゃあない。ところで君、名前を教えてくれないかな?」
「…………警察よびますね」
「ストップ! 早まるんじゃあない」
少女はじっとりねっとりと完全に不審者らしき人間を観察するような目付きで僕を見ていた。困ったな。
「苗字だけでいいからさ。無理にとは言わないけれど」
「…………柚原です」
「柚原……ふむ。ありがとう」
柚原ちゃんは、やはり不審者を見る目で僕に軽く一礼し、やはり双葉さん達が通った玄関から家に入った。
…………。
おもしろくなってきた。
彼女が“普通”ではない証拠ができたぞ。彼女にはやはり、裏がある。
何がなんでも暴いてみせるんだ。彼女の秘密を。
意気込んだはいいが、その後、何故かパトカーが来たので僕は家に帰った。しかし悔いはない。証拠をひとつ掴めただけでも十分だ。
彼女の秘密を暴くまで、あと一歩。