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仲間、救出、決死隊

 連携した作戦で山本を倒した一行はビルの下のフロアめがけて警戒しつつも素早く進む。別に一階から外へ出なくても、どこかギリギリ地上へ飛び降りられる高さの窓でもあればそこから脱出するという寸法だ。

 ただ、もちろんのこと下へ進むほど強盗集団に遭遇する確率は上がり、たとえ運良く遭遇せずに脱出出来そうな窓があっても、それを壊すとなれば一行が敵に見つかる可能性は高い。


 さっき、上のフロアでドンパチやっていて一行が気づかれるも何もなさそうに思えたが、敵は銃を持った民間人に反撃されることを恐れて古井や、山本、マシンガンのチンピラのように脅威を排除するために銃をぶっぱなしていることから、一行が銃を撃っていても敵は自分の仲間が武装一般人を排除しているだけだと思っているだろう。

 しかし、山本と一緒にいたマシンガン野郎が一行のことを下の仲間に伝えている懸念もあった。それに敵の装備が不明瞭な中、一行としてはなるべく穏便に外へ脱出したかった。だが、今は不透明な心配を持ち続けることよりも、一刻も早くカラオケボックスのビルから脱出することが最優先である。


 「おい、結構な数の野次馬が来てるぞ」

 廊下にいくつかある換気用の小さな窓から物部が様子を見た。なるほど、周囲には街中のこともあり数百人単位の人だかりが出来ていて、警察や民間警備会社の人間が野次馬が現場(一行の立て篭っているビル)に近づかないように必死で静止させようとしている。

 青色の制服の上に防弾ベストを着用している警察官は何人かに一人の割合で自動小銃や散弾銃を手にしている。法改正後に破竹の勢いで増加した銃火器を使った犯罪に対処するためである。長物の火器を持つ警官の内数人が、防弾装備を施したパトカーを盾に米軍や自衛隊から払い下げられたM16や64式小銃を一行のいるビルへと銃口を向けている。付近のビルの屋上にも狙撃銃を装備した警察らしき人影がちらほら見える。

 民間警備員も警察の補助的な役回りを引き受けたのか、近くの建造物の窓から数人の警察と一緒にこちらを警戒している。


 「アイツらアホやな……流れ弾に当たらん内にさっさと帰ればええもんを……」伊勢が窓の外の野次馬に対してぼそりと呟いた。

 銃火器が法によって解禁される前までは、こんな規模の銃を使った立て篭り事件なんかはそうそう起こらなかった。数十年に一度の割合、多くの人間に聞いたらこんな事件は1970年代だったというであろう。しかし、日本で銃が解禁される前の[神話]は遠の昔に無くなってしまった。今までが平和すぎていたせいで野次馬達は自分が危険に晒されているとの自覚がないのであろう。これが既に銃が一般に浸透している国であれば、通行人は即座に頭を持っている物で守りつつ、近くの安全な建物に避難しているはずだ。


 『――立て篭っている強盗諸君に告ぐ! 直ちに抵抗を止め、投降しなさい!!』外からは警察が拡声器を使って犯人側に投降を呼びかけている。

 『繰り返す! 立て篭っている……』その時――拡声器の声が途切れたと同時に外で爆発音が轟き、大勢の悲鳴が聞こえてきた。


 「な、なんや!?」伊勢が再度外の様子を見る。

 「ま、まさか……爆弾テロ!? いや、違う、アレは……」武も頭を低くし、他一行も臨戦態勢に入り直した。

 「結構大きかったぞ! ネット動画で見た手榴弾クラスはあった。あれはきっと……」

 廊下の小さな窓から様子を見ると、一行のいるビルの反対側の建物からは黒煙が上がっていた。


 「グ……グレネードランチャー!?」優太も慌てている様子だった。

 グレネードランチャーとは擲弾を発射するのに使われる個人携帯火器である。発射される擲弾の大きさは物にもよるが、もっともポピュラーなコルトM203やGP25などは差異はあるもののおよそ40mm口径、グレネードランチャーの特徴は手榴弾並みの威力の擲弾をより遠くまで発射することが出来る。一行が懸念していたことは、敵と距離をとってバリケードで敵の銃弾を防ぐことはできても、遠くから飛翔してくる爆発物に対応できないことだった。

 ビル周辺にいた野次馬達はまるで巣をつつかれた蜂の如くてんでバラバラの方向に逃げ出し、武装した警官らと遅れて担架らしきものを担いだ防弾ベストを着用した救急隊員達が攻撃されたと見えるビルへ入っていくのが見えた。


 「やべぇぞ! 奴らがあんなもん(グレネードランチャー)装備してたら勝てるわけがねぇ! とにかくどっかの窓をぶっ壊して逃げないと……」流石に今の光景を見ていた武も慌て始めていた。

 「おい、誰か下から上がってくる!」辺りを警戒していた夏川が飛んできた。

 「誰って……クソッ! 奴らか!」武が先ほどマシンガン野郎が落としていったM10のボルトをコックし、セイフティを解除した。他も武に習い、いつでも銃を撃てる状態に持っていく。

 優太は山本から奪ったベネリM3ソウドオフをフル装填、ホルスターにはSIG P226を常時激発可能な状態にして伊勢と夏川とハンドシグナルを交わす。


 「敵が来たら、もう迷うな、頭でもいい! とにかく、相手を無力化するんだ!」と優太。

 「で、でも!」山田が反論した。

 「これは正当防衛だ! 新しい、クソな法律でも守られている俺達の権利だ!!」武が切迫した声で、自分に、一行全員に言い聞かせるようにそう言った。


 「来たぞ! 敵一人を確認!! 撃つぞ!」夏川がCZ75を敵方面に向けたのを合図に、一行の手に持つ銃火器が一斉に敵の方向に向けられる。


 伊勢がHK45のサイトを敵方面に絞る。優太がベネリM3、武がイングラムM10で主な火力を担い、その後ろでは他が後方支援を務める。


 「撃てぇッ!!」強盗の姿が見えた瞬間、大小様々な銃声と薄暗い廊下に影ができるほど大きなマズルフラッシュが瞬いた。

 武がM10をセミオートかつ速射で、優太がベネリM3をポンプアクションで制圧。伊勢、山田、物部、夏川が的を一点に絞り、弾幕を絶やさないようにある程度リズムを以て敵を倒そうとする。


 一行による突然の総攻撃に晒された強盗はなすすべなく、胴体や足に弾丸がのめり込んでいった。一行の放った弾丸のほとんどは強盗の後ろの壁に着弾してしまったが、それでもかなりの数が強盗に命中した。強盗がうずくまり、弾丸が壁に着弾した際の粉塵や一行各々の銃から昇る硝煙で敵側が霞んでいる。


 「やったか!?」と武。

 「待て! 油断するな!」バリケード越しに拳銃に比べ取り回しにくいベネリM3を置いた優太が、SIG P226のトリガーに指をかけつつ、フラッシュライトで消炎の漂う廊下の先を照らした。


 フラッシュライトの光の先には蠢く人の影が確認できた。

 (やはり防弾チョッキか……)一行の誰しもがそれを感知し更に攻撃を加えようとした時だった――


 「!! あ、アカン!」伊勢がそう叫んだ瞬間、強盗は何か拳ほどの大きさの何かをこちらに投げ――転がるように階段を下っていった。


 ――ゴロンっと一行側に転がってきたそれは、ゴルフボールのようだと言われればそうも見えなくはないが、少々いびつな形をした金属球だった。

 趣味でミリタリーを嗜んでいる一行はすぐさまそれが何であるか、本能的に理解した。

 「し、手榴弾ッ!?」誰かが叫んだかは定かではない。しかし状況が切迫していた。本来ならゴルフボールに付いていなければならないはずの安全ピンと撃発用レバーが何処かへ飛んで無くなっており、代わりにソレからは線香のような煙を出していた。


 (――起爆する!!)


 手榴弾の安全ピンが抜かれて、撃発用レバーで信管が叩かれてしまったからには、もはや爆発を止めるすべは無かった。


 「――隠れろッ!!」誰かがそう叫んだのか、あるいは一行の生存本能が指示したのか、そんなことはどうでもいいとばかりに一行は近くの部屋の中へ滑り込んだ――


 RGO破砕手榴弾と一般に呼ばれているそれはウクライナで生産されている防衛手榴弾である。炸薬は90グラム、A-IX-1というRDX火薬を含んでいるRGO手榴弾の破壊力は人間を、『文字通り』ズタズタにしてしまう。


 RGO手榴弾の信管が作動して四秒ほど後には、フロア全体が殴られたかのような振動が廊下に反響する。スピリタスの爆発とは比べ物にならないほど、重たい爆発音が振動しあたりの小物が壊れる音が一行の耳へ届く。


 「クソッ! みんな無事か!?」武が粉じんが舞う中、咳き込みながら仲間の安否を確認する。

 「こっちは大丈夫だ! 山田と物部も無事だ!」と夏川。

 「こっちもけが人は無しや! 高橋と優太もおるで!」伊勢も隠れていた別の部屋のドアを蹴飛ばして出てきた。


 「グッ……! 頭が掻き回されたみたいだ……!」武が壁にもたれかかって荒い息をついた。

 「耳鳴りが止まらない……」

 「あったま痛ぇ……」

 他のメンバーも手榴弾によって、怪我はしてはいないものの様々な症状を訴えていた。

 手榴弾の目的は、ただ爆発で飛翔する鉄片で、人や物を破壊するだけではない。爆発による衝撃波で相手を動けなくさせる効果もある。

 手榴弾の爆発の衝撃で、ほぼ全員少なからずのダメージは受けたようだ。

 しかし、状況が状況である。相手が無茶苦茶やる連中なのでここで大人しくダメージを回復している暇は与えてはくれまい。


 「爆発で自販機もめちゃくちゃだな。……そらッ!!」優太が自販機を蹴飛ばすと、中に入っていた飲み物が自販機から落ちてきた。

 「ほらよ、飲んでおけ」優太が自販機の缶やペットボトルを全員に渡す。余った缶は近くの適当な場所に置いておいた。本来なら、このままどこかで体制を立て直したいところだったが、そうは現実が許してくれなかった。


 「休んでいる暇はなさそうだな……」武は、半分ほど中身が残った缶をすぐ足元に置いてUSP拳銃の安全装置を解除した。

 「ああ、こっちに来てるよ」と、偵察を任されていた夏川が現実を突きつける。

 「迎え撃つだろ? こうなったからには……」と高橋。

 「せやかて、今の俺らは弾も尽きかけとる。万歳突撃しても、圧倒的に向こうの火力の方が強い! 俺らにはあまりにも不利や」と伊勢。

 「せめて、俺達に軽機関銃でもあればな……! もしくは手榴弾でも……」山田がそうは言うが、それはないものねだりというやつである。一行が持つ武器は、拳銃と鹵獲した散弾銃、サブマシンガンである。いずれも弾薬はほとんどない。

 一行はまさに追い込まれている状態なのである。


 「なぁ? コレ使えないか?」その時、高橋がそう言って差し出したのは、銃と一緒に装備していた小型の催涙スプレーだった。 

 「片手で銃を撃ちながら、もう片方でコレ(催涙スプレー)を使うってのか? いくらなんでもそれは無理がある! 第一、俺らにスプレーのガスが掛かったらまんま自滅だ!」武は否定した。

 「誰かがどこかに潜んで、敵が通り過ぎた後、スプレーを掛ける方法もあるけど……それはリスクが大きすぎる。何か別の方法は……!!」一行はいろいろと思案してはみるものの、中々いいアイデアが思い浮かばない。

 分かりきっている事だが催涙スプレーは使い方によっては自分にガスが降りかかることもある。防犯用グッズのサイトを見ると、扱いやすく効果もあり、襲った相手に後遺症が残らないという利点もある反面、もちろん欠点もある。

 催涙スプレーの欠点――とりわけこの状況下では――超至近距離で使うことを想定されて作られた物である為、一般に販売しているものでも射程はせいぜい二メートル程度。高橋が持っていたのは更に小型のタイプだったので一メートルも届けばいいほうだろう。近付くとしても射程範囲に接近する前に全身に無数の風穴が空くことになるに違いない。


 「だけど、もうこれしか手がない!! やるしかないんだ!」他に打開策を考えてはみるものの、特殊部隊でも飛び込んでこなければ助かる道はないと、全員が判断したようだ。

 「やるしか……ないか……」山田が意を決したように呟いた。

 「やるぞ……!!」武の一声で一行は準備に取り掛かった。


 一行は催涙スプレーを壁にガムテープなどで貼り付け、敵がそこを通っ際に銃で撃つ、という極めて古典的な作戦を実行する事にした。

 高橋と優太が手榴弾の爆発によってめちゃくちゃになった自動販売機の中からアース線やらを取り出して催涙スプレーのボンベに巻きつける。後はそれを敵がここに来るなら必ず通るルート、敵の頭の高さへ目立たないように設置して、一行は敵が来るのを待った。


 数分後――手榴弾を投げ込んだと思われる、先ほどの男と、山本と一緒にいた腰巾着のマシンガンを乱射していたチンピラが一行の潜む部屋のすぐそばを通り抜けていった。

 敵の表情は確認できなかったが、かなり緊張しているようだった。手榴弾の男はG3のような自動小銃、チンピラは自動拳銃を手に、廊下を進んでいった。


 『……いいか?』

 『大丈夫だ、問題ない』武と夏川が部屋から、ゆっくりとドアの音を殺して開けて、ほかのメンバーもそれに習う。

 敵二人が、廊下の観葉植物のすぐ脇を通った、一行の生死がかかっているその僅かなタイミングを図り、夏川はCZ75に設けられているノンドットのフロント、リアサイトで完全に照準を絞り込んだ。他の一行メンバーは夏川をバックアップする体制だ。

 敵二人が、銃を向ける夏川に気づくことなく、観葉植物の脇を横切った――


 ――パンパァンッ


 9mmパラべラム弾の特徴的な乾いた銃声が廊下にこだましたと同時に、観葉植物が爆発した。観葉植物からは霧状の液体が飛び散り、廊下を進んでいた二人に降りかかる。

 いきなりの爆発に加え、二人を襲う猛烈な目、鼻、喉の焼けるような痛みで二人はその場で膝を着いた。

 敵が反撃できない絶好のチャンス、一行の猛攻が始まる!


 「撃て! 弾幕を絶やすな!」

 「手足がガラ空きだ! 集中的に狙え!」

 一行は二人の敵に惜しげもなく手持ちの弾薬を打ち込み、敵に決して反撃をさせなかった。 防弾チョッキ越しに、背中を何発も撃たれて、身動きがとれない敵二人……

 途中、一行の何人かが敵の敵の頭に照準を絞りかけていたが、敵とはいえ、一行が覚悟を決めていたとはいえ、二生きている人間の頭を吹き飛ばすことは誰もがためらっていた。


 ついに敵が倒れ込んだ。

 「俺が奴らを制圧、拘束する! みんなはバックアップを頼む!!」優太がソウドオフベネリM3を持って、敵へ近づいた。


 「待て優太! そこはキルゾーン……」高橋が言いかけた直後だった――


 ――ドンッ


 優太のすぐ脇を敵の放った弾丸がかすめ、優太が持っていたベネリM3のレシーバーに着弾した。

 優太は寸でのところで飛び退いて、身体には弾は当たらなかったが、これで優太と一行には隙ができてしまった。


 「おま……ンぐぅ!?」優太は背後に拳銃を持った敵――ビル内でサブマシンガンを乱射してヒャッハーしていたチンピラに銃を突きつけられて拘束されていた。

 チンピラの口の動きからは恐らく『動いたら殺すぞ』と言っていた。敵も防弾チョッキ越しとはいえ数十発の弾丸を喰らっていて、自分が無事でないことは分かっている。だから、優太を殺さず人質にすることで一行に反撃という選択肢を断ち切る行動に出たのであろう。

 優太はひとまず、自分のSIG p226を床に捨てた。下手に動いたら殺される、銃火器、ミリタリーファンの一行は万が一、敵に捕まった時の対処法みたいなものをネットや本などで勉強していた。


 「優太ァ!!」

 「クソッ……! コイツ……ッ!!」銃を捨てた優太が素手で抵抗を試みるが敵――チンピラは優太に銃口を突きつけてそれをねじ込み、一階へと下がっていく。残された一行が銃を向けるも、手榴弾を投げた男が自動小銃を乱射して近づけない。


 「畜生! 優太が落とした銃を拾え! 追いかけるぞ!!」

 「ああ、みんな準備を整えろ!」

 心許ない戦力を立て直した高橋と武が先頭に立って優太を連れて行った犯人を追う。他のメンバーもそれに習い少ない弾薬を掻き集めて戦闘の準備を整える。


 「俺が奴らの頭を撃つ! その間、みんなは敵をひるませてくれ!」武が階段を下りつつ、それぞれの役割を決める。

 「了解した! 後方支援は任せろ!」物部も弾倉内が半分ほどのM92Fを構えながら辺りを警戒しながら武の後ろに続く。


 「ヤバイで! アイツらもうお構いなしや! 完全に吹っ切れとる!」

 一行が一階へたどり着くと、足元に横たわる死体と共に、今回の事件を引き起こした残りの強盗集団三人が銃を一行に向ける。


 「散開しろ!」一行はその場で散り散りになり敵に銃口を向けて、伊勢は手に持っていた三本束ねた炭酸飲料のアルミ缶を敵の頭上に投げた。

 それを山田と夏川が拳銃で数発撃ち、缶に一発が被弾した。

 9mm弾が命中した缶の炭酸飲料はそのまま空中で爆発、あたりかまわず無差別に缶の破片や中身が降り注ぐ。

 敵は全部で三人、全員がひるんだ隙に伊勢はG3自動小銃を持つ内の一人の手の甲、足にめがけてHK45を発砲。すべての弾薬を使って完全に戦力を削ぎ落としたことを確認した後、ソイツの持っていたコピーモデルのG3小銃を奪う。

 伊勢は弾の無くなったHK45をその場に落として、G3をセミオートに切り替え狙いを絞る。今度は優太を拘束している別のAK自動小銃を持っていた男の足元に向かって撃つ。だが仲間と一緒にもみ合っているせいで中々撃つことができない。

 鹵獲したG3が粗悪なコピーモデルであるとしても、弾薬の威力は、弾が当たった人間の組織をごっそりとかっさらうほどのキネティックエナジー(運動力伝達効果)がある。


 一行の何人かが、人質に取られた優太に弾が当たらないように、慎重に拳銃で敵の足元を向けて発砲する。しかし、防弾装備なのか、弾が当たっても敵が怯むことはなかった。

 だが、撃たなければ即座に敵は反撃するだろう。一行が敵に狙いを定められないように室内を動き回りながら各々の銃で弾幕を絶やさないように努めていた。


 その時――「やばい! 弾が……ッ!!」その声の主は武だった。反射的に彼の手元を見ると、USPがスライドオープンの状態で握られていた。恐れていたことが起きた。

 一行はあくまでも護身用の為に拳銃を携帯していた。武も伊勢も例外ではなく、手持ちの弾薬は衣服に着けたホルスターがかさ張らない程度にしか持ってきていなかった。


 「ガキがァ!!」優太を抱え込んだ強盗の一人がAK自動小銃の弾倉の交換を終えて、銃口を武に向けつつあった!

 「これを!!」その時、伊勢がベルトに挟んでいた、古井から鹵獲したコルトM1911を取り出し――武に向かって投げた。

 「ナイスだ! 歪みねぇ!!」武は伊勢の投げたM1911をUSPを捨ててキャッチ、素早く自分のベルトで銃のリアサイトを引っ掛けて薬室内の弾丸を排出し、弾倉の弾を送り込む。


 「優太、頭を低く!!」武の声に優太ができる限り、姿勢を低く保つ。

 武は精密な狙いを定めず、優太に被弾しないよう配慮をした上で、目の前の男の胸のあたりに一発発砲。おおよその着弾位置を確認して顎のあたりに向けてM1911をダブルタップで発砲。男の左頬の肉を少しかすめて、左側の耳たぶがちぎれて飛んだ。それにより、優太を突き放して悶絶する。

 散々、自分達を攻撃してきたことの恨みもあって、武はそのまま防弾チョッキ越しではあるが、心臓部分を狙って三発発砲した。

 優太を保護した伊勢は先ほど彼が捨てたSIG p226を渡して戦闘に参加させる


 その時だった――

 「うおおおおお!!」武に耳たぶを飛ばされてボロボロになった敵が手に持った手榴弾のピンを口で引っこ抜いた。


 ――自爆するつもりだ!


 「やめろぉ!!」高橋が撃つが効果はなかった。

 「高橋撃つな!!」そう叫んだのは武だった。武は手榴弾のピンを引き抜いた男に掴みかかると、RGO手榴弾のレバーから男の手が離れないように両手で押さえ込む。男が抵抗して武ともみ合いになり、その勢いで近くのクレーンゲームのウィンドウが割れて、二人はもみくちゃになる。

 山田の後ろではチンピラが弾の切れたグロック17を捨てて、いかにもチンピラ御用達とも言えそうな安っぽいサバイバルナイフを構えて山田を始め、夏川や物部に向かって突っ込もうとしていた。



 もうだめだ!! 一行の誰しもがそう悟った時、ビルのウィンドが粉々に砕け散った。ビルのウィンドを突き抜けた鉄の弾が、男の頭部に命中し、敵の一人が倒れ込んだ数秒後には複数のH&K MP7 PDWを持つ『SAT』と背中に白い文字で書かれた黒色の戦闘服の集団がビルの中になだれ込んでくる。

 彼らはMP7を構えて残ったチンピラに向けてセミオートで二発発砲、最後の一人は三人の戦闘服の集団に銃を突きつけられて、AKを捨てて両手を挙げ、『降伏』した。


 武が安全ピンの抜かれたRGO手榴弾を必死に両手で押さえつけているところに、戦闘服を着た集団の内二人が武の手を穏やかに押さえつける。

 そして、慎重に武から手榴弾を引き離すと、防護服を着込んだ隊員が給食鍋のような容器に、ほかの隊員と連携して手榴弾を放り込んだ。

 数秒後、押さえつけられた爆発音が聞こえた後、隊員の一人がヘルメット越しに一行に話しかけてきた。


 「大丈夫か、君達!?」MP7にセイフティを掛け、一行に対して刺激しないように事情を聞く。

 突然の思わぬ展開に一行は言葉足らずながら精一杯、事の発端を説明しようとした。


 「とりあえず、持っている銃火器は全部私達に預けてくれ。安心してくれ、君達を悪いようにはしない」隊員の言葉通り一行の持っている銃や鹵獲した拳銃を隊員に渡して、SATのバンの中で簡単な事情聴取を行われた。後日詳しい話を聞くとのことで、一行は念のため外傷がないか病院へ運ばれ、一日の検査入院させられて翌日、帰路へと付いた。


 「こっぴどく怒られるんじゃないかってヒヤヒヤしたよ」病院からの帰り道を歩きながら優太がつぶやく。

 「俺なんか逮捕されるんやないかって心配で、夕べはほとんど寝られてへんねんで」と伊勢。

 「まぁ、警察も正当防衛ってことでそのことについては何も言わなかったけどな。明後日あたりに銃も帰ってくるそうだし」と武。山田も相槌を打つ。

 「でもま、くれぐれも無茶なことはするなって釘は刺されたけどな、あの場合仕方がなくね?」夏川や物部、高橋も続く。


 『…………』一行の間で長い沈黙があった後……


 「せや、これから俺んとこへ来やへんか? この前買ったFPSがあるんや」と伊勢。

 その言葉に一行が賛成する。


 「こうして僕は彼の部屋に入るなりすんなり裸に剥かれてしまった」と武がナレーションを加える。

 「良かったのかい? ホイホイついてきて、俺は師匠だろうと構わないで食っちまう人間なんだぜ?」とユージンが返すが、武以外の一行はドン引きしていた。


 「ちょ、お前ら……そこは合わせるべきところやろ?」

 伊勢が滑ってしまった話を必死に弁解する。恐らく、明日にはアッチ系の趣味の方だろうと誤解が広まっているであろう。

 伊勢がなんとか話をそらせようと必死に他の話題を切り出しながら、一行全員は伊勢の部屋で遊び直す事にした。


 「今日は銃声が聞こえないな……」誰かがポツリと呟いた。

 一行は車と、風の音だけが包み込んだ道の上を歩いて行った。



 


 

 

 ご意見、ご感想お待ちしております。

 トリガーハッピーグループ一同。

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