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浮気調査から始まる商業帝国築き上げた件について  作者: 白鼠


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2

私は手を伸ばし、彼女の袍の襟元にできた微かな乱れを整えた。指先が鎖骨をかすめた時、彼女の呼吸が明らかに一瞬止まった。


「信じている」


たった四文字を軽く口にすると、彼女の肩がわずかに下がった——それは警戒を解いた兆しだった。


私は二歩下がり、距離を取った。信頼の態は十分に演じなければならない。この件は、大きくもなければ小さくもない。結衣の考え方次第で、私の今後の手の組み方が変わってくる。想定外の破綻だけは何としてでも避けなければならなかった。さもなければ、この政略結婚は脆くも崩れ去ってしまう。


「早く休め。明日は会議があるんだろう」私は振り返る際、その引き出しにちらりと目をやった。「買収の件で何かあれば、いつでも声をかけてくれ」


扉が背後で閉まった瞬間、室内からごくかすかな嘆息が聞こえた。


廊下では、執事が待ち構えていた。まだ震えている携帯電話を差し出す。


「佐々木様から、三度目のお電話です」


私はそれを受け取り、露台に出てから応じた。


「小林! 結衣、あの貧乏くさい男とまた連絡を取っているんじゃないでしょうね? あなた、私が伝えた警告をまだ軽く見ているの? 聞いたのよ——」葵の声は鋭く、富裕層の妻特有の取り乱しようを帯びていた。


「伯母上」私は彼女の言葉を遮った。声は静かだった。「結衣は、自分できちんと処理すると言っていました」


電話の向こうで、二秒ほどの沈黙があった。それから、冷たい笑い声が響いた。


「彼女がきちんと処理できる? できるものなら、佐藤のあの小僧が彼女の会社の建物に現れたりしないでしょうが! あなた、今日の午後——」


「社内に入りましたか?」


「警備員が止めたわ。でもあの小僧、入り口で二時間も突っ立っていたのよ! 結衣の秘書の話では、彼女は執務室の窓の帳の陰から三十分もの間、外を見ていたんだから!」葵の声は震えていた。「小林、あなた何とかしなさい。あの佐藤って男は、吸血虫なのよ。私たち佐々木家の血を吸い尽くそうとしている——」


「伯母上」私の声はごく穏やかだったが、まるで刀のように彼女の言葉の連なりを断ち切った。「私は、結衣を信じると申し上げました」


通話を終える。私は考え込んだ。彼女は何をしたいのだろう? なぜ私よりも焦っているのか?


露台の下には庭園が広がり、夜間灯が灌木の輪郭を浮かび上がらせている。佐々木家のこの屋敷は、その灯りひとつ、煉瓦ひとつに至るまで、誰がこの家の主であるかを語りかけていた。


佐々木家も、穏やかではないようだ。私はそう心の中で呟いた。


携帯電話がまた震えた。今度は短い報せだった。見知らぬ番号からだ。


「小林様。私、佐藤と申します。お目にかかりたく、お願いしたく」


文面には無駄な修飾は一切なく、宛名の書き方さえも、どこか意地っ張りな感じが漂っている。


興味深い。


私は画面を数秒見つめた後、携帯を懐に仕舞い、無視した。私の貴重な時間を、このような負け犬とひそかに会うために割くつもりはなかった。


書斎の扉が内側から開き、結衣が出てきた。手には上着と車の鍵——明らかに出かけるつもりだった。


彼女は露台に立つ私を見つけ、その場で固まった。


「私……」彼女は一瞬迷った。「ちょっと、散歩に」


午前一時。背広の上着を羽織っての“散歩”。


「付き添おうか?」私は尋ねた。


「いいの」彼女はうつむき、足早に私の横を通り過ぎた。


すれ違いざま、彼女の身にまとう香りが鼻をかすめた——いつもの冷たい木の香りのものではなく、もっと淡く、若々しい香りだった。


誰かに会うつもりなのだろう。


彼女は車は出さなかった。執事が後で教えてくれた。彼女は門のところで街の車を呼び寄せ、旧市街の住所を告げたらしい。


私は露台に立ち、彼女が車に乗り込むのを見ていた。車の灯りが角を曲がって見えなくなるまで。


夜風が冷たい。


携帯電話の画面が輝く。佐藤からのあの報せがまだ残っている。私は返さなかった。


駒の中には、自ら手を触れずともいいものがある。ただ、どのように盤上に置かれるかを見ていればいい。


---


翌朝、私は食堂で結衣と出会った。


彼女は服装を替え、薄化粧をしていたが、目の下の疲れは隠しきれていなかった。葵は向かいに座り、顔色は青ざめていた。箸で粥の入った碗を突くその様は、まるで何か恨みのある相手を突き刺すかのようだった。


「結衣、昨夜どこへ行っていたの?」葵の声は氷のように冷たかった。


「友達に会っていたの」結衣は料理を取る箸を止めなかったが、私が彼女を見ていることは分かっていた。


「友達?」葵が冷笑する。「どういう友達に、真夜中に会うの?」


「お母さん」結衣は箸を置き、穏やかな口調で言った。「私だって三十歳よ。行く先々を報告しろと?」


「あんた——」


「伯母上」私は口を挟み、湯飲み一杯のぬるま湯を結衣の手元に置いた。「どうぞ。今日は買収の会議があるんですから、良い状態で臨まなければ」


葵は口を開いたまま、私の視線に押されて閉じた。


結衣が私を見た。その目には感謝と——それとは別の、もっと複雑なものが混じっていた。


「ありがとう」彼女は低い声で言った。


朝食は沈黙の中で続いた。彼女の左手の薬指に、私たちの婚約指輪がはめられているのに気づいた——普段は正式な席にしかつけないものだ。


---


午前十時、秘書から報せが入る。佐藤は旧市街に月極め八百円の地下部屋を借りたらしい。昨夜遅く、結衣はその路地の入り口に二十分間立っていた。中には入らず、そのまま去った。


彼女は佐藤には会わなかった。


だが、彼女はそこへ行ったのだ。

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