追放された俺のスローすぎるスローライフ
うららかな春の昼下がり。
ハンモックで昼寝を満喫していた俺は、パーティーメンバーの女子たちに叩き起こされた。
「レイト殿、率直に言う。パーティーを抜けてほしい。これは全員の総意だ」
真正面から告げてきたのは、赤髪の女騎士。
長身の美女で、口調は男っぽいが教養があり、品もある。
勇者パーティーに選ばれていなければ、王族の護衛でも務めていたかもしれない。
庶民の俺とは、本来なら接点すらなかっただろう。
「アクセル様の兄だから大目に見てたけど、もう限界よ! 昼間っからゴロゴロ、ゴロゴロ……。レイト、あんた戦闘中と移動中以外は寝てばっかりじゃないの! いえ、訂正するわ。移動中も寝てるわよね、馬車の中で! 猫だってそんなに寝ないわよ!」
怒鳴りつけてきたのは、栗色の髪の女魔法使い。
魔女風のコスチュームに身を包んだ美少女だが、性格はツンケンしていて口調も棘だらけ。
『象牙の塔』で研究三昧か、森の小屋で怪しげな大鍋をかき混ぜてるのが似合うタイプ。
どちらにせよ、俺とは縁のない人種だ。
「必要な睡眠時間は人それぞれですから、そこは責めません。ですがレイトさん、あなたは寝すぎなだけでなく、起きている時もやる気が感じられません。特に遅刻の多さは目に余ります。この神聖なる旅で、集合時間に間に合ったことが一度でもありましたか? やる気がないのなら、無理に同行すべきではありません。これは魔王討伐の旅、神託に選ばれた者たちの神聖なる使命なのですから」
“神聖”を連呼してきたのは金髪の女司祭。
治癒と回復の専門家で、清楚な神官服がよく似合う可憐な乙女だ。
だが性格は細かく、特に時間にうるさい。
『早くしてください』『急いでください』が口癖で、この旅に出てから何度急かされたか。
俺とは致命的に相性が悪い。いや、本当に。
「パーティーから抜けるとか……いいのかなあ。俺だって一応、神託で選ばれてんだけど……」
独り言のつもりで呟いたら、
「抜けて当然だ。役に立たない者が混じっていることがおかしい」
「選ばれたのはあんたじゃなくて、弟のアクセル様でしょ! 戦闘中も守られてばっかりで、ろくに戦ってないくせに!」
「勇者アクセル様が双子の兄と離れたくないと望まれたため、同行が許されたのです。アクセル様の兄でなければ、レイトさんが参加する理由はありません」
三人から怒涛のように返ってきた。
声、うるせー。
「あー、俺ってそういう風に思われてたわけね」
うんうん、客観的にはそう見えるよなー、と頷いていたら、
「自覚したなら立ち去ってもらいたい。今なら危険の少ない範囲で安全地帯へ戻れる」
「魔王軍の領域に深く入ったら、一人じゃ引き返せなくなるんだからね! 今ここで別れてあげるのは私たちの温情なんだから!」
「ここまでの労賃に慰謝料を上乗せしてお支払いしますので」
三人がかりで畳みかけ、小袋を押し付けてくる。
「いや、急に言われても」
ちょっと待て、と言おうとしたら、
「急ではない!」
「何度も言ってたわよ!」
「ずっと前から申し上げておりました!」
すごい圧で押し切られた。
どうやら旅の当初から、いや出発前からすでに俺の存在に不満があったらしい。
遠回しに、あるいは直接的に『おまえなんか要らない』『抜けろ』『役立たず』と伝え続けていたらしい。
……全然気づかなかった。
なんか当たりが強いな~とは思ってたけど。
「俺ってそんなに嫌われてたんだー」
ちょっと反省しようかなーと思ったけれど、
「当然だろう! 剣を取るでもなく、魔法で援護するでもなく、戦闘中も背中を丸めて立っているだけ! アクセル様は目にもとまらぬ速さで魔物を切り刻んでいるというのに、貴様はノロノロ避けるだけ! 顔が同じなだけに腹立たしい!」
「男のくせに荷物運んでくれないし、歩くの遅いし、表情は締まりがないし。アクセル様はあんなに真面目でキリッとしてるのに、あんたはヘラヘラしてて不真面目で、双子だなんて信じられない! 無能なくせに一日十六時間睡眠とか何よ!」
「雑用も率先してやってくれません! 言われたことをするだけ、それも手が遅くて頼りにならない。言われなければぼーっと見ているだけで、気配りゼロです。アクセル様なら先回りしてやってくれるのに!」
……ただぼーっと見てたわけじゃなくて、俺なりにやることやってたんだけどな。
説得は無理だと悟った。
こいつら、俺を“無能な怠け者”だと思い込んでる。
反省する気も消し飛んだ。
「わかった。出ていくよ。アクセルは?」
弟に一言挨拶してから抜けるべきだろう。
俺たち双子なんだし、仲いいし。
だが三人は無情だった。
「アクセル様には会わずに行ってくれ」
「出ていくって言ったら、アクセル様のことだから引き留めるでしょ」
「アクセル様の御心を傷つけたくはありませんが、引き留められては困ります」
そーかよ。
こいつら、アクセルには俺が勝手に出ていったって言うんだろうな。
まあ、いっか。
誤解を解くのも面倒だし。
「じゃあもう行くわ。アクセルによろしくな」
それだけ言って荷物を肩にかけ、俺は勇者パーティーを抜けた。
※
うららかな初夏の午後。
俺は新しく買ったハンモックで昼寝していた。
旅の途中で使っていたものとは別物で、女司祭から押し付けられた手切れ金で買ったやつだ。
ハンモックはいい。
体を預けて揺られていると、自然とリラックスできる。
人間、横になって寝ていられる時間って大事だと思うんだよ。
勇者パーティーを抜けた俺は、とりあえず食っていくために冒険者登録し、辺境の開拓村に移住した。
神託で選ばれたのに勝手に抜けたとなると、故郷に戻ればお偉いさんがうるさそうだしな。
多少後ろ暗い事情があっても受け入れてくれる開拓村は居心地が良かった。
天気のいい日は畑を耕し、雨の日は家でゴロゴロ。
いわゆる晴耕雨読……いや、本は売ってないから読書はできないけど。
自分で書く趣味もないしな。
そんな俺の昼寝を、近所のガキが邪魔しに来た。
「また寝てる! 仕事だ、起きろー!」
「うるせーな~。今日の仕事はもう終わりました。また明日~」
「レイト、寝ぼけてんな? 冒険者の仕事だよ。ワイルドボアが出たんだってば」
「それを先に言えっつーの」
俺はハンモックから起き上がった。
ワイルドボアはこの辺りによく出る魔獣だ。
放っておけば農地を荒らすので、見つけ次第狩らねばならない。
馬よりデカいくせに脚が速く、誘導も命がけ。
俺が来る前はケガ人続出だったらしい。
だが俺がいれば心配ない。
スピード自慢の脚を殺すくらい、俺にとっては朝飯前のストレッチだ。
俺は超スローペースでワイルドボア出没現場へと向かった。
傍目にはのんびり歩いているように見えるだろうが、心は緊迫している。
気持ちは全力疾走したいんだけど、俺の特性上、どうしてもスロ~~~にしか動けない。
スロ~~~なウォーキングで現場に到着すると、村の男たちが森の方を伺っていた。
「どんな感じ?」
「来たか、レイト。あの茂み見てみな。若いオスだ」
大工のジョーダンが指す先を見ると……いた。
木の茂みに隠れているつもりで、全然隠れられていないデカいのが。
ワイルドボアは森の木の葉でも食ってりゃいいのに、人里の作物を好んで食いに来る。
食うだけならまだしも、耕した土を踏み荒らし、糞尿まで撒き散らすので迷惑極まりない。
天然の森と農地の間には、幅百メートルほどのバッファゾーンがある。
木々を切り倒して作った、あえて何もない空間だ。
ワイルドボアはここを一気に駆け抜け、柵を体当たりで破壊してくる。
落とし穴に落ちてくれれば楽だが、数は十分ではない。
魔獣が通りそうな場所を狙って掘ってあるが、当然それ以外を走ってくることもある。
「誘導できそう?」
「難しいな。若いオスは人間を怖がらねえ。むしろ突っ込んでくることもある」
「そっか。んじゃ、いつものように」
「ああ、いつものように」
俺は魔獣の正面に立った。
「来るぞ!」
茂みから巨体が飛び出した。
大した加速力だ。
あっという間にトップスピードに達し、突進してくる。
俺は半分しか開いていない瞼の奥の灰色の瞳で、それを捉える。
口の中でゆる~く呪文を唱える。
だらりと背中を丸め、ポケットに手を突っ込んだ姿勢のまま。
神様か精霊か知らないけど、お願い聞いて。
俺が見ているあいつを遅くして。
いつものように。
「『遅延』」
呟いた瞬間、何かの力がワイルドボアへ向かって放たれた。
四つの脚が目に見えて鈍くなる。
一歩、また一歩と接近するごとに遅くなる。
やがて人が歩く速度になる。
さらに鈍化し、ついには静止。
正確には完全停止ではない。
極めてゆっくりと動いている。
やつは本気で疾走しているつもりだ。
脚は全速力で地面を蹴っているつもり。
だが巨体は宙に浮いたまま、わずかに落下を続けている。
一秒に一ミリほどの速度で落ち続けている。
突進力が売りのワイルドボアが、空中でほぼ静止状態。
動かないワイルドボアは、ただの的だ。
「止まったな」
「んじゃ、いつものように」
ジョーダンは弓を構え、他の男たちも槍や棍棒を手に近づく。
動かない的に外す方が難しい。
ものの数分でワイルドボアは肉塊になった。
「終わったな。んじゃ帰るわ。お疲れさーん」
「おう、お疲れ。後で肉持ってくから楽しみにしてな」
ワイルドボアの肉は美味い。
今夜は村中が焼き肉だな。
実働五分。
よく働いたぜ。
帰って昼寝の続きでもするか。
来た時よりものんびりと、カタツムリのようなスロ~~~なペースで家へと歩いた。
近所のガキに起こされた時は午後の昼寝中だったはずだが、五分のワイルドボア狩りを終えて帰宅したら、もう陽が傾き始めていた。
なんか、一日が終わるのが早いな~。
元々睡眠時間が長いから一日が短く感じるのはいつものことだが、最近は特に早い気がする。
やっぱあれかな。
アクセルと離れて暮らしてるからかな。
俺とアクセルは双子の兄弟。
二人そろって“時間属性の加護”持ちだ。
加護を与えた存在が何者なのかは不明だが、神殿の見解では「知られざる時の神のいとし子」らしい。
アクセルの加護は『加速』。主に自分を速くする。
俺の加護は『減速』。主に自分以外を遅くする。
やろうと思えば、アクセルが他人を速くしたり、俺が自分を遅くしたりもできるんだろうけど、意味がない。
戦闘ではアクセルが自分のスピードを上げて敵を切り裂き、俺は視界に映る敵を遅くして仲間を守る。
そういう役割分担だった。
神殿では二人とも“時の神のいとし子”扱いだったが、実際の戦闘シーンを見れば、アクセルの活躍だけが目立つ。
まあ仕方ない。
アクセルが人の二倍の速さで動いているのは誰にでもわかるが、俺がウルフの群れの時間を止めているのは、傍目にはわからない。
それに俺は加護の特性上、どうしても動作がだらだらノロノロになる。
アクセルは姿勢が良くてキビキビしてるから、余計に比較される。
顔は同じなのに、アクセルは黒髪短髪で黒い瞳、表情は生真面目。
俺は無造作に伸ばした灰色の髪に灰色の瞳、いつも眠たげに半目。
そりゃ印象も違う。
でもしょーがないじゃん。
生まれつきなんだから。
キビキビ動くとか、大きく目を開けるとか、無理なんだよ。
文句は加護をくれた神様?に言ってくれ。
なんだかんだで俺たち兄弟はずっと一緒に生きてきた。
だがアクセルが勇者に任ぜられ、俺とセットで魔王討伐の旅に出たあたりから、歯車が狂い始めた。
神託で選ばれた同行者が、お年頃の女の子三人だったのが原因だろうな。
三人そろってアクセルに恋して、俺を邪魔者扱いし始めた。
なんで女同士でけん制し合わずに、俺を排除しにかかったのか……意味がわからん。
勇者パーティーを抜けて、そろそろ三か月。
ここでは誰も俺を責めないし、嫌わない。
比較対象となるアクセルがいなければ、俺単体でもけっこう役に立つ男だったらしい。
畑を放置して大部分が手つかずでも、一日五分しか働かなくても、ワイルドボアを始めとする魔獣の襲撃を食い止めれば、村の皆はそれでよしとしてくれる。
気が向いた時に気が向いた分だけ働いて、あとはのんびりハンモック。
誰も怒らない。
むしろ野菜やパンをおすそ分けしてくれる。
最低限働いて、あとはのんびり寝て暮らす。
これが憧れのスローライフってやつだ。
……ちょっとスロ~~~すぎる気もするけど。
「ただいま~」
誰もいない家だけど、なんとなく口にして玄関を開けた。
中に入ろうとして、ふと足を止めた。
誰もいないはずなのに、背後に“気配”を感じた気がした。
いや、気配なんて可愛いもんじゃない。
ぶっちゃけ焦げ臭い。
誰だ、ワイルドボアの肉を焦がしたのは。
「ジョーダン、肉届けるとか言って焦げ肉持ってきたりとか……」
悪い冗談はよせ、と言いかけて振り向いた俺は固まった。
そこには俺の双子の弟、アクセルが立っていた。
「アクセル、どうしてここに……」
いや、どうしてここにいるのかも謎だが。
それ以上に謎なのは……おまえ、なんで焦げてんだよ。
服からプスプス煙が出てる。
無表情な顔も煤で汚れてる。
いつも整ってる髪も、強風に吹かれた後みたいに乱れてる。
常ならぬ様子の弟に戸惑っていると、
「兄さん……」
アクセルの両目から、大粒の涙がぼろぼろ零れ落ちた。
「うわ! どうしたんだよ、何があった?」
真面目で冷静沈着な弟が、泣いてる。
勇者になったはずの弟が、泣いてる。
お兄ちゃん、どうしたらいいのか困っちゃうよ!
アクセルは物も言わずに俺の首に腕を回し、肩に顔を埋めて静かに泣き続けた。
「と、とにかく中入れ。な?」
俺はアクセルを家の中へ招き入れた。
泣き続けるアクセルを椅子に座らせ、俺は木箱に腰を下ろした。
タオルを濡らして顔を拭いてやり、近所の奥さんからもらったハーブティーを淹れる。
マグカップは一個しかないけど、まあ俺の分はいい。
「それで、いったい何があった?」
「それが……」
アクセルは重たい口を開き、ぽつりぽつりと語り始めた。
「加護の暴走? マジで?」
「……うん」
アクセルの話によると、俺がパーティーを抜けて間もなく、体に不調が出始めたらしい。
妙に疲れやすくなり、朝起きてから半日も経たないうちに眠気が襲ってくる。
一晩眠っても寝た気がしない。
腹いっぱい食べても、次の食事時までもたない。
「兄さんがいなくなったショックかと思ったんだけど……」
それだけでは説明がつかなかった。
不調はどんどんエスカレートし、しまいには“音の聞こえ方”がおかしくなった。
人の会話が聞き取れない。
音声会話が成立しない。
筆談を試みて、ようやく気づいた。
「……俺が、加速してたんだ」
アクセルは苦笑した。
「加速するつもりなんてなかったのに、どんどん速くなっていった。みんなの動きが遅くなって……最後には、完全に止まったんだ。石像みたいに」
空の鳥が動かない。
草も木の葉もそよがない。
川の水さえ止まった世界。
アクセルは絶望した。
「加速しすぎて……時間の狭間に取り残されたんだと思った」
誰とも会話ができない世界で、ただ一つだけ考え続けた。
「兄さんに会いたいって。それだけだった」
アクセルは泣き笑いのような表情を浮かべた。
「不思議だよね。究極に加速してるはずなのに、ゆっくりとしか動けなかったんだ。ゼリーの中を歩いてるみたいで……」
その“ゼリーの中”を歩いている間に、何度か服が煙を上げ、火を噴いたらしい。
恐ろしいな、加速状態。
「太陽も動かないから、どれだけ時間が経ったかわからない。でも……何か月も、もしかしたら何年もかかった気がする。やっと兄さんを見つけて……兄さんも俺を見つけてくれて……そこで、加速が解除されたってわかった。時の流れが普通に戻ったんだ」
「アクセル……おまえ、苦労したんだな」
誰の助けも借りられない世界で何年も。
そう思うと、俺も涙が出そうになる。
「兄さんは大丈夫だった? 減速が暴走したりとか」
「いや、べつに……」
……あれ?
もしかして俺も、ちょっと暴走してたんじゃね?
「言われてみれば最近、一日が終わるのが妙に早かったような。朝起きて、五分働いて、昼寝してたら一日が終わってたような……」
アクセルは、残念なものを見る目で俺を見た。
「兄さん……」
無自覚のうちに自分で自分を減速していた疑いはあるが、ここは兄の威厳を守るため、全力でごまかすしかない。
「まああれだ。こうして出会ったら元に戻ったんだし。終わりよければすべてよしってことで」
「兄さん……」
「あ、そーだ。おまえ、あれどうしたんだよ。魔王討伐の旅」
「とっくに終わらせたよ」
そりゃそうか。
世界中が静止している状態で自分だけ動けるなら、魔王なんてただの的だ。
静止した魔王軍の間をすり抜け、動かない魔王をぶちのめせばいい。
アクセルはとっくに魔王を倒し、討伐証明の『魔王の角』を持っていた。
「よくがんばったなー。えらいえらい」
「兄さん……もう子どもじゃないんだから」
アクセルの頭をかいぐりかいぐり撫でまわす。
子どもの頃よくやったな、これ。
双子でも兄だからな。弟を可愛がるのは兄の特権だ。
「んじゃ、あいつらは? 神託で選ばれた三人組」
「知らない。興味ない」
哀れ、三人娘。恋は無残に散ったらしい。
「それじゃこれからどうする? 王都に任務完了の報告にでも行くか?」
「行ってもいいけど……」
アクセルは少し拗ねたような上目遣いで俺を見る。
子どもの頃、よくこんな顔してたな。
「行くなら兄さんも一緒じゃないと嫌だ」
「あー、そうだな……」
離れたらまた加護が暴走する恐れがある。
仕方がない。
「わかった。それじゃ二人で行くとして……」
「その後も二人一緒じゃないと。兄さんはどうしたい? ここで暮らすなら、俺も一緒に住むよ」
弟の妙な押しの強さで、この開拓村で二人一緒に暮らすことを約束させられた。
まあ、二人セットの加護持ちだし、離れると変なことになるってわかったしな。
その少し後、約束通りワイルドボアの肉を持ってきてくれたジョーダンにアクセルを紹介した。
俺とは真逆の加護持ちで勇者だと伝えると驚かれたが、腕利きの移住者なら大歓迎だと快く受け入れてくれた。
魔王討伐の報告をしに旅立つ時は、近所のガキに「いかないで」と泣かれたが、王都の土産を買って帰ると約束して出発した。
王都では討伐の報酬をもらうのにずいぶん待たされたが、言いなりになっていたら祝賀会や式典、果ては貴族の娘との縁談まで押し付けられそうになったので、報酬だけ奪い取って早々に逃げ出した。
逃げ帰った開拓村の空気の美味いこと。
こうして俺たち兄弟は一緒に暮らし始めた。
俺の暴走気味だった加護も、アクセルの存在で落ち着いた。
一日五分しか働かなかったのが、五時間くらい働くようになり、超スロ~~~だった俺の生活も、普通のスローライフの範疇に収まってきた。
アクセルも同じように落ち着き、加速が制御不能になることはもうない。
ほどよい加速で働きまくって近所の人に重宝されている。
いつのまにか俺の畑まで完璧に耕されて、枝豆やトウモロコシがいい感じに実っていたりもする。
……あいつ、さては作物の成長も加速させてんな?
まあいいけど。
夏野菜、美味いし。
それより気になるのは、俺が昼寝しててふと気づくと横にアクセルがくっついて寝ていることだ。
いつ横に来たのかさっぱりわからん。
こいつ無意識のうちに加速しているのでは?
それで安定を求めて俺の近くに来てるとか?
「おまえ最近また暴走気味だったりしない?」
「そんなことないよ。ここに来てからずっと絶好調」
「そうか? なーんかこの頃、一日が長かったり短かったり、微妙に体感時間に差がある気がするんだが。ひょっとして俺の方が暴走気味なのか?」
「兄さんも大丈夫。問題ないよ」
そう答える弟の顔はいつも通り真面目で無表情。
ただ何故だろう、ほんの少し満足そうに見える気もする。
「……ま、いっか。どっちかが暴走しても、一緒にいれば止められるもんな」
「そうそう。一緒にいれば問題ない」
向かい合ってお茶を飲む。
マグカップは二個に増やしたし、椅子も二脚になった。
昼寝用のハンモックも一個増やすかな。
季節はもうすぐ夏。
これが俺たちのスローライフ。
<完>




