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タイ焼きと王子様  作者: おきついたち


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6/6

おまけ話「焦げてもたいやきくん」

もう18時をとっくに過ぎているのに。

千花と一夜はまだ小夜の店で針を動かしている。

「よお続くなあ。オバちゃんは肩凝ってもてアカンわあ」

「イベントは来週なんや。絶対間に合わせたいモンな」

「ふうん。今度のイベントは和風なんや」

小夜は自分用のブラックコーヒーと、2人のカフェオレを運んで来た。

「わあ、小夜さんありがとう」

さすがに疲れていた一夜は、ほっとした表情でマグカップを受け取る。

「そやなあ。疲れると縫い目が雑ンなってまうし。

今日はこれまでにしとこか」

ん-っと伸びをしながら千花も和針を針山に戻す。


「今回は大正ロマンなデザインなんやな。大柄にレースと別珍の飾りつけ。

遊び心満載でキブン上がんなあ」

それは只今絶賛公開中の忍者アクション映画のコスプレ衣装。

でもミシンを使ったりマジックテープで誤魔化したりしないで。

プロの裁縫士小夜から本格的な技術を教えて貰って作り込みしているから。

自己満足と言われようとも。肩が凝っても、指先が疲れても。

千花も一夜も楽しくて仕方ない。


それでこんな時間になってしまった。


「何んか食べるー?」

「食べるー!お腹ぺこぺこやあ」

小夜の声に、千花は即答だけど。

一夜はスマホを見て、申し訳無さそうに片づけを始める。

「ありがとう小夜さん。

でも今日は帰ります。千夜とおばあちゃんが近くまで来てるの」

「千夜ちゃん?久しぶりやなあ」

「千夜は今ダンスに夢中だから。

学校が終わったら、すぐダンス教室行っちゃって。

いつもおじいちゃんかおばあちゃんが迎えに行ってくれるの。

丁度時間が合うから、ここに寄ってくれるって」

「ほんなら、このシフォンケーキは千夜ちゃんのと2人分持って帰り」

そう言って小夜は手際よく準備する。

まだ居座るつもりの千花にはクリームと一緒に盛り付けた皿を出し。

残りのシフォンケーキはラップで包んで一夜に渡す。

「嬉しい。ありがとうございます」



千花はすぐケーキにかぶりついた。

「校舎がちゃうから、私は滅多に千夜ちゃんには会えへんけど。

昨日見掛けてちょお驚いたで。

何ンか二人、見た目変って来たやんな?」

「やっぱりそう思う?」

「うん。

一夜は目ぇの色濃いなって来たし、肌とか日本人ぽくなって。

千夜ちゃんは何んや白人ぽいやんな」

「そうなの」

一夜は温かくて甘いカフェオレを美味しそうに飲んで、にっこり微笑む。

「ママはアラブ系でも半分西ヨーロッパの白人の混血だし。

パパは日本人だから。私はパパ似で、千夜はママ似に成って行くのかも」

「へええ。そーゆーモンなん?」

「まあどっち似でも。

そン時々でばっちり似合うデザイン考えたるから問題無いけどなっ」

千花は自信満々にニカっと笑う。

(千花さんのこーゆートコロ好き)小さく笑いながら一夜は思う。


誰だって色んなコトが入り混じってるはずなのに。

世の中は時々勝手な境界線や分類方法を持ち出して。

いつの間にか自分達にラベルを貼って行く。

でも千花やレイヤー仲間は、自分でスキなラベルを作って貼っている。

忍者になったかと思うと妖精にもなれるし。ふわふわバニーだってお姫様だって。

どれも全部自分。自分で成りたい自分に成れる。

千花と一緒に衣装を作って変身するたびに。

一夜は、幼かった頃オトナ達から顧みられなかった寂しさや不安感が薄れて。

少しずつ自分を見付けて、スキに成って行けた。



「なあ。ほんならエリオはどおなるんやろな」

小夜がお楽しみ顔でツッコんで来た。

「お兄ちゃん?

お兄ちゃんの父親には、私達会ったこと無いんです。

ママみたいなアラブ系の混血だって言ってたから。

きっと千夜や私とは、また違う感じに成ると思うけれど」

「そおなん?

アラブの王様ってこお濃いーっ造りで髭モジャなキャラやん。

そんな風には成らへんのかな」

アダルト版のエリオを想像してるのか、小夜はニヤニヤ顔。

ケーキだけでは足りない千花は、ガラスBOXのクッキーまで齧りながら笑う。

「いやーアレはちょお系統がちゃう気ぃすんなあ。

ガニュメデスの彫像より整おとおて、美術部がデッサンのモデル頼んどったもん」

あまりにも小夜と千花が面白がってるから。

つい一夜も内輪話をしてしまう。

「お兄ちゃんはすごく頑張ってるから。ずっとあんな感じで変らないかも」

「えー?頑張る?何ソレ」

「シャンプーとか保湿クリームとか。

何が良いかって、よく千夜と盛り上がってるもの」

小夜も千花も目を丸くしてしまう。

いつも穏やかで物静かなエリオがコスメ談義…。

「ソレってまさか」

「優気さんが帰省する時は、いつもおばあちゃんに切って貰って毛先揃えてるし。

お兄ちゃんクセ毛だから、毛先からまって流れないのがイヤみたい。

ね、一生懸命でしょ?」


「いやもおソレ!乙女やん!」

「恋やなーマジ恋やねんなあ。うわー甘酸っぱああああ」

他人の恋バナほど楽しいモノは無くて。

小夜と千花はぎゃあぎゃあ盛り上がる。

「あんなダサニブ男相手に。健気やなあ」

「ほんまや。優気なんて毛先20センチ切っても気付かんやんなあ」

「20センチてソレ坊主やん」

涙が出る程ゲラゲラ笑い尽くして。行き着く結論はひとつ。

「はあ、もおほんまに幸せモンやなあ。優気は」

「うんうん。

それによお判ったワぁ。

キラキラ恋真っ最中のエリオが隣に居るんで、今の優気に成ったんやんな。

前よりはダサ度が随分マシなったもんなあ。

せやから、もしエリオが髭モジャになったとしても。

そン時は優気も100倍ムサ苦しいオッサンになっとるやろから。

同んなじコトやんなー」

「もお2人で何処までも幸せにやっとれー」



そしてタイミングよくお店の扉が開く。

「どおしたのー?笑い声が外まで漏れてたよお。

すごく楽しそう!私もおしゃべりに入れてー」

ダンス教室帰りの千夜も登場して。

今日の運転者役の祖母が、差入れのタイ焼きを持って入って来たから。

まだまだもう少し女子会は続きそう、です。

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