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おまけ話「やっぱりたいやきくん」

ジャーっバタンと。少し頭を屈めて、トイレから優気が出て来る。

下宿先のアパートは古くて色々と昭和サイズ。油断すると、すぐ頭をぶつけてしまう。

それでも4年前大学が決まって、下宿先を探す時にココに決めたのは風呂の造り。

洗面台やトイレとは別で。風呂桶も今時の浅くて長いタイプではなく、深いヤツ。

子供の頃の「肩までしっかり浸かり。100数えて温ったまるんやで」習慣が身についてるから。


そしてその風呂場で。

1週間前エリオと触れ合ったコトを思い出すと。

(あかん。また勃ってまう。あーもおっ我慢せえコラっ)

さっきトイレで抜いたばかりなのに。スケベ過ぎる自分が情けない。

なんとか理性を呼び戻そうと。スポーツ医療講義の教科書なんか思い出して唱えてみる。

(広背筋大円筋小円筋僧帽筋菱形筋脊柱起立筋…)

そんな頭を抱えて座り込んだ姿勢で、深呼吸を繰り返す。

性欲に翻弄される自分はみっともないけれど。

あの一晩が本当に特別な時間だったのは事実だし。

未だに全然熱が醒めないし。冷めるワケが無いと思う。

あんな風に誰かを欲しいと思ったり。自分だけを求めて欲しいと思ったりするなんて。

その感情は。

心の奥に熱と光を灯らせるし。くすぐられるような振動があって。多分シアワセの1種。

だから、まだ慣れなくて少々持て余してはいるけれど。

大切に大切に抱えているトコロ。



自分のこの大雑把な性格は。良くも悪くも人間関係に困るコトは無かったし。

ずっと気楽な男子校だったから、一緒にアホする友人関係は楽しかったし。

剣道のお陰で、先輩後輩関係からはたくさんの学びを得て来たし。

過去に一度カノジョも居たりしたけれど。

気が利かない自分にカレシ役を果たす為の注文ばっかりで、自分の限界を知ったし。

(そーゆうンとは全然ちゃうよなあ)

思わず腕組みして考え込んでしまう。


エリオと一夜と千夜の話を初めて聞いた時は。

大人の都合に振り回された可哀想な子供と思っていて。協力とか手助けとか考えていたのに。

家族として暮らし始めると。

3人は次々に新しいコトを吸収して成長していって。笑顔が増えて、とにかく可愛くて。

こっちの方が魅了されて影響されて、変ってしまうほど。


そんな風に自分の中での存在が大きくなって行って。

近くに隣に目の前に。あの星みたいに綺麗な瞳が在るモンだから。

つい手を伸ばしたくなってしまった。

そしてエリオから『好き』と言う言葉を貰って、自覚してしまった。

この愛おしくて放したくないと言う想いは。

(オレ、マジにエリオに惚れとる)ってコト。


(こお。何ンつーか。ダチとか先輩後輩とかは、場所ごとに在る人間関係で。

家族はそンでもまだ日常もっと長い時間過ごす関係やけど。

エリオは。うーーーーん。そおやな自分のコト考える時にも、隣に居る存在や。

手ぇしっかりつないで。一緒にこれからの時間を過ごす…いや生きて行く存在や)

急に頭がかああっと熱くなる。

(うああああっ恥ずっ!!カレシとか恋人とかスっ飛んで夫婦やで、コレ。

いや男同士やからパートナーとか伴侶とか言うんやろか)


狭い部屋でヒトリじたばた悶えてしまう優気だけれど。顔は最大級にニヤけてる。


(伴侶の伴て、ヒトハンブンて字やんな。

オレなんてまだ半人前以下やし。エリオは未成年やし。

くっついて2人でやって行け、言うコトやんな)

うんうん、と勝手に納得しながら。1週間前エリオが突然やって来た日のコトを思い出す。


「バイト代貰えたから」

輝く笑顔を向けられて、優気の心臓は跳ね上がった。

可愛いカワイイ可愛いカワイイ、もお100回繰り返しても全然足りないくらい興奮して。

下宿先のドアを閉めたらキスキスキス。

汗が噴き出してしまって、そのまま風呂場で一緒にシャワーを浴びながら抱きしめ合った。

エリオの身体は、細い若枝のようにしなやかで。

褐色の肌は、琥珀のように透明感があって滑らかで。

エリオの全てに触れて、舌を這わせて。

耳元で、エリオの口から自分の名前が漏れてくると。もう止められなくて。

朝まで肌を重ねて。エリオの一番奥まで何度もつながった。




夜行バスで帰ると言うエリオに、奮発してグリーン席を取ったのはお詫びのキモチも混じってた。

いきなり無理をしてしまった身体は、かなり辛そうだったから。

そこまで恰好付けたのに。

新幹線が出発して、駅にひとり残った時は寂しくて寂しくて。

優気はホームの電光掲示板を見上げるフリして、目元の水分を払ったりした。

(あんだけヤって。

そンでもまだ1日1回トイレで抜いとおって…ははは。

オレもおエリオ無しでは生きてけへんな)

それは自虐的な笑いでは無くて。自分の中の覚悟を認める笑い。

「とにかく。1個ずつ片付けて行かんとなっ」

優気は、よしっと気合を入れて立ち上がる。

いつも行き当たりばったりで、自分の内側は中途端なコトでごちゃごちゃで。

はっきり言って。何も『確かなモノ』を持っていなかったけれど。

もう逃げないで、そんな自分とも向き合うと決めた。


これから2人で進んで行く時に、エリオに信じて貰える自分で在るために。

もう2度とエリオが哀しい思いをしないよう、護れる自分で在るために。

エリオの笑顔と幸せを、いつもたくさん作って行ける2人で在るために。



離れているコトがちょっとキツイ時は。

冷凍庫を開けて、優気はラップに包まれたタイ焼きを取り出してレンチンする。

それから軽くトースターで焼くと、パリっとして旨くなる。


それは1週間前エリオが持って来てくれたモノ。

1個ずつラップに包んでジップロックに入れて運んでくれた。

「こっちでもタイ焼き有るのにね。優気が喜ぶモノ他に思いつかなくて」

そう照れた顔のエリオも綺麗で可愛くて。思い出すと、胸が温かくなる。

齧り付くタイ焼きは。たっぷりの嬉しさと幸せで、染み入る甘さ。

これで今日も、単純男の優気はナントカ頑張れるのだった。

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