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おまけ話「ならべたいやきくん」

「すっごい情報があるんだけどっ」

月曜登校途中にQ子に腕を捕まれる。

「週明けから元気ねえ。

どんな情報か知らないけど、素直に数学の宿題見せてって言えば?」

「ふふふふ。

今学期分のノート全部合わせても足りないくらい、すごい情報なんだけど」

「はいはいはい。そーですか」

「昨日、エリオくんと見つめ合っちゃった♪」

うふふふって夢見る少女顔のQ子。

そして私達は『エクソシスト』の少女みたいに振り返ってしまう。

それでもぐっと堪えて平静を装って。

「あらそお。正夢になると言いわねー」

せっかくお茶を濁してあげたのに。大真面目に反論するから、余計目立ってしまう。


「ほんとの話なの!

あのタイ焼き屋さん、平日の下校時間しかエリオくん達居ないじゃない?

だから昨日の日曜日に会えるなんて思わなくて。

私ノーメイクでTシャツだったのよ~。そしたらエリオくんが」

「が?」

登校中なのに既に私達の足は止まっていて。Q子を取り囲む。

「レジ打ってたの~!

だから。カウンター越しに私達は見つめ合って。手と手を取り合って。

『ありがとう。またね』って♡」

モノは言い様。

つまりは店員と客が向かい合って、品物と金銭受け渡ししたダケじゃない!

そう言いたかったけれど。2人きりで会話したのは事実。


「それってつまり。エリオくんがあのお店でバイト始めて?

日曜日に行けば会えるってコト?」

今だって。

運が良ければお店で会えるかも?ベンチに座って一緒にタイ焼き齧ったり出来るかも?

そんなドキドキを抱きつつ放課後途中下車して。勝率は20%ほど。

それが。もし面と向かって、あの宝石みたいに綺麗な瞳で見つめられて。

『ありがとう。またね』なんて言われたら。5分後またお店に行っちゃうって!


「ううん。昨日だけって」


一瞬にして、ギラギラの期待が粉々に砕け散ってしまう…。


「なんかね。駅前の大通りで電子マネーの導入イベントするんだって。

ほら、あーゆーのって。高齢のヒトとか、お馴染みさんだと切替えにくいし。

使い慣れてないのを恥ずかしく思ったりするでしょ。

だから来月初めの土日にね、どの店も端末設置して電子決済OKにして。

試して貰うイベントなんだって。

その準備で、新しいレジ使うのをエリオくんがお手伝いしてたみたい。

あのお店のヒトも、そーゆーの苦手そうだもんね」

確かに。あの親切で優しいエリオくんなら。

レジの使い方が判らないお店や、上手く出来ないお客にも笑顔で手助けしそう。

『スマホの角度をもう少し傾けてみて』なんて思わず指が触れたりして。


「じゃあ。そのイベントでもお手伝いするのかな?」

「するんじゃない?」

「するでしょう!」

鼻息荒く私達は結託のグータッチ。

ごめんなさい。イベントの趣旨とは異なるけれど。

決して邪魔はしません。大人しく並びます。手間取ってる方にプレッシャー掛けたりしません。

だからどうぞ、エリオくんがタイ焼き屋さんのレジに居ますように。

ほんのひと時で構わないから、見つめ合えますように。





「そーゆー噂で教室ン中ざわざわしとるんやけど。

ほんまにバイトすんの?店ん前エライコトになってまうんちゃう?」

小夜の店に、エリオが一夜を迎えに寄ると。千花がウンザリした顔で訊く。


「来月のイベントのこと?

お店からは、もうやり方判ったから来なくてイイって言われてるけど」

「いやいや手伝うた方がエエんちゃう?端末の操作方法なんて、もおどおでもエエやん。

それより千花ちゃんの話やと、稼げそおやんか」

戸惑い気味なエリオに、小夜は面白そうにツッコむ。

「でも、ぼくが居て混雑してしまうなら。居ない方がイイよね?」

「出待ちファン心理を解ってへんなあ。

『会えるかも』言う期待は、最後の最後に『やっぱり会えへんかった』って納得行くまで消えへん。

あんたが居っても居らんでも。ファンは並ぶもんやで」

「おにいちゃん、日曜日のお手伝い面白かったって言ってたよね。

色んなお客さんと会話出来て新鮮だったって。

それにバイト代貰えたら、優気さんにシャツをプレゼントしたいって言ってたし」

「い、一夜っ!それ内緒だって」

ツッコミどころ満載なエリオの焦りっぷりに。小夜も千花もニヤニヤ笑いで連打。

「ひどい恋人やなあ。年下に貢がせるやなんて」

「ダサ服優気の隣を歩かんならんて、それもお罰ゲームや。ナントカせんとな」

「この間の連休に帰って来た時、優気さんの服すごかったんだよ」

「どんなん?」

「蛍光オレンジと黒のシマシマ」

「うえっ」

一夜の激白に。そんな服想像もしたナイと渋々顔になる小夜と千花。

だからエリオはちょっとムキになって弁解する。

「それは仕方無かったんだよ!

連休で新幹線も深夜バスも予約出来なくて。夜中にバイクで帰って来たんだ。

だから暗い道路でも目立つようにって。

安全に帰って来てくれるなら、服なんて何でもいいし。それに」

その帰省した連休が随分と前で。もうずっと会えてないコトが急に寂しくなって。

しょんぼりとエリオの視線も声も落ちてしまう。

「どんな服装でも、優気が居てくれたら…」


さすがにフザケてた小夜と千花は顔を見合わすし。

一夜は兄が可哀そうに思えてしまって、涙が浮かんでしまう。


「よっしゃ。ソコまで言うンなら協力したる。

土曜はタイ焼き屋でレジ打ちし。そんで日曜はココで豆売って。

バイト代がっつり稼いで、優気の下宿先までの旅費にし」

「!」

興味有るコトにチャレンジ出来るようにと、祖父母から十分なお小遣いを貰っているけれど。

自分の『会いたい』と言う我儘に、お小遣いを使うのは心苦しくて。

せめて一緒に選んだつもりのシャツを送るつもりだったから。

見る見るエリオの顔が嬉しさで輝いて来る。

「小夜さん、ありがとう…」

そして千花の顔もギラリと輝く。

「ふつーに豆売るだけで行列は難しいやろ。

なあ一夜ちゃん、この間の衣装ちょおアレンジしてコスプレ喫茶にしよおや」

「わあ。楽しそう!」

洋裁の趣味が高じて、最近は一夜も千花に連れられてコスプレイベントに参加したりしていて。

ちょっと新しい趣味にハマリつつあったりして。

「私と千夜はシェヘラザード風にして。お客さんからのオーダー取るの。

それでお兄ちゃんは、コーヒーを運ぶ召使役ね♪」

「それめっちゃ稼げそおやなあ」

やる気満々な千花達に対して。

意味が理解出来ないエリオは戸惑っていたけれど。

もちろんイベントは大成功で大行列で。バイト代もたくさん貰えて。


その日の最終新幹線で、エリオは優気のところへ向かえたし。

混雑した東京駅でも、蛍光オレンジな姿はすぐ見つけて駆け寄ることが出来たのでした。

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