疾走する使命感
中・・中大兄皇子 鎌・・中臣鎌足
倉・・蘇我倉山田石川麻呂 入・・蘇我入鹿
古・・古人大兄皇子 帝・・皇極天皇
厩戸皇子は死んだ。有力後継者だった山背大兄王ももういない。←山背大兄王は事実上死に追いやっている
入「殿下、ご機嫌うるわしゅう、今朝はずいぶんお早いのですな」
古「入鹿よ、そなたもの」
皇子の顔はいつになく覇気がない。古人大兄皇子、ミカドの嫡子にして蘇我氏本家が後押しする次代の後継者候補筆頭である。蘇我氏の血縁であり、入鹿とは従兄弟の関係にあたる。
入「殿下、お顔がすぐれないようですが、どこかお体でも?」
古「ああ、少しな、・・何か不吉な夢をみたのだが・・どうにも思い出せない」
入「さように、空模様のせいではないかと、今宵は一雨ふるようですので」
中「兄上、ちょうどいいところに」
二人の会話をさえぎるように中大兄皇子があらわれる。すこしはなれたところには中臣鎌足。どうやら両名が懇意にしているという噂は本当らしい。
朴訥で心穏やかな古人大兄皇子と違い、自己主張を全面に押し出したかのような中大兄皇子。裏から人をあやつることを好む入鹿とはそりがあわず、互いにけん制しあう間柄になるのは必然のはこびであった。
入「これはこれは第二皇子殿下、ご機嫌うるわしゅうございますれば、していかなる用向きにて」
中「入鹿か、ちょうどよい。お前にもいっておかねばな、今宵の儀式だが、時間が早まった。一刻のちには開始されるように変更されたのだ」
入「ほう、それは驚きですな、当日になっての変更とはいかようにして」
中大兄皇子は入鹿の方を見向きもしない。
中「今宵は天気がわるいそうだ、午の刻より雨が降ると祈祷師どもがな。神聖な儀式ゆえ雨音になど邪魔されたくはないのであろうよ」
入「かさねて驚きですな。であれば日時を変更されるのが至当では?」
中「詳しいことは知らん。知りたくば大臣どもに聞くがよい、さっきまであちらのほうで騒いでおったぞ、とにかくつたえたからな、兄上、それに入鹿どの、くれぐれも遅れることのないようにな」
時計の針は動きはじめた。もう後戻りはできない。